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47 二度目の夜

 

「あっ来たっす!」

「ごめんなさい、時間がかかってしまったわ」

「いえ、お願いしたのは私ですから」


 シアに手を引かれて俺は寝室に戻った。

 どうして手を繋いでいるのかと言うと、彼女の頼みで目を閉じているから。

 理由を聞いたのだがはぐらかされ、とにかく今日はそのまま眠ってほしいと言うのだ。


「クロウ様は起きたのですね」


 サキの声が近づいて来た。

 彼女の手が探る様に俺の頬を撫でる。


「ええ、でも問題無いはずよ」

「うーん。やっぱりリノは良くないと思うんすけどー」


「リノ、これはお互いのためだ」

「……ぶー怒られてもリノは関係ないっすからね」

「当たり前だろう? では姫様も準備をお願いします」


 何をするのか知らないが、リノはサキとシアの行動に反対しているらしい。

 危ない事では無いと思うけど、彼女らの考える安全基準は俺と大分ズレているから信じ切る事もできない。


「あっそれなんだけどサキ」

「はい? どうしました?」


「私、やっぱり今日は遠慮しておくわ」

「……何故です?」


 繋いでいた俺の手を放してシアがそう言った。

 少し語尾をきつくしサキが聞き返す。


「昨日彼も言っていたでしょ? まずお互いの事を知るべきだって。それに、貴女も一緒にお父様から教えてもらったじゃない。そんなことをしなくても、居なくならないわ」


 サキに言い聞かせるようにシアはゆっくりと言葉を紡いだ。

 特に最後の言葉は、俺にも確かめるように一際強調した。


「ほら! 姫っちもこう言ってるっすよ! サキっちが間違ってるっす」

「…………これまで行ってきた勉強会は何だったのですか」


 しかし、それを聞いてもサキは不機嫌さを隠そうとしない。

 昨日サキから攻撃された時もこんな感じだったな。

 話しを聞いてくれないんだ。


「それは、これからいくらでも試す場が──」

「何も言わないでください。失望したくありません」


「貴女、どこに行くつもり?」

「二人ともいらないのなら、今日は私一人でいただきます」

「あっサキっ! 待ちなさい!」


 シアとサキの話しがもつれ、サキは部屋から出ていくようだ。

 その時、俺の腹を何かがホールドした。サキの腕か?

 というかもう目を開けていいよな。


「クロウ様、少し耐えてください」


 サキは怒りを抑えた抑揚のない声でそう一言いい、翼を広げて飛んだ。


「──うわっ!?」

「クロウっ!」「サキっちー! 諦めて降りてくるっす! みんなで仲良く眠るっすよー」


「うるさい! 二人で寝てろ!」


 サキは二人にそう言い捨てると、俺を抱きかかえたまま飛んで部屋から出た。


 サキの部屋はとても彼女らしい物だった。

 シアの部屋の半分もない室内には小ぶりな箪笥が一つとベッドが一つ。


 それ以外に棚が4つ。

 その棚には掃除用具などの家事に使う道具が並んでいた。


「すぅーっふぅーっ……クロウ様、お騒がせして申し訳ありません」

「いや、別にいいけど。ところで何で揉めてるんだ? 俺の事っぽいけど」

「それは……」


 教えてくれるのかと言葉の続きを待っていたら、サキは無言で服を脱ごうとし始めた。

 あまりに自然な流れで脱ぎ始めたので止める事も間に合わなかった。


 彼女は服を脱ぎ散らかすということはせず、一枚脱ぐと畳んで次の物を脱ぐ。

 丁寧に少しずつ肌を晒していくその姿は、何と言ったら良いのかわからない背徳的な物だった。


「クロウ様、お待たせいたしました」


 彼女の着替えに見入っていると、サキは何度か見た水着姿になった。

 長い金髪にバランスの取れたスレンダーな体。人として異物にしか思えない翼さえ美しく感じる。

 だが彼女のこれは水着ではなく、そういう形をしたウロコだという。

 つまり裸になったサキが目の前にいる。


 薄暗い部屋に裸の美女と二人きり。

 しかも彼女は俺と結婚すると言っている。

 この状況で冷静さを保てという方が無理だろ。


 さっきシアにも言ったが、突然結婚しろと言われた昨日とは状況が違う。

 ダンジョンで自分の力を試し、自信も付いた。

 卒業の機会が有ったら喜んで俺は卒業するぞ。


「サキ、いいんだな?」

「ええ。私が求めたことです」


 俺はサキに問いかけ、彼女をベッドへ押し倒した。

 ベッドへ横たわるサキの顔と俺の顔の距離は10センチもない。

 柔らかそうな、彼女の唇から視線が外れない。


「サキっ……」

「クロウ様……来てください」


 サキのその言葉が理性を完全に壊す。

 横たわる彼女の首に手をまわし、唇を寄せ、


 ギュッ!


 もう少しというところで、サキに俺は抱きしめられた。

 唇を狙っていた俺は彼女の首元に口づけてしまう。

 照れたのかな? かわいい奴め。


 抱きしめる力が強いがそれもすぐ緩むだろう。

 俺は、サキに抱き着かれながら彼女を抱きしめた。


 だが、しばらく経ってもサキは腕の力を抜いてくれなくて、俺は彼女から体を離すことが出来ずにいた。


「なあサキ、いつまでこうしていればいいんだ?」


 たぶん十分は経ったであろう頃、俺はついサキに聞いてしまった。

 ムードなどを考えたらナンセンスな質問だろうが、俺は早く次の段階に進みたい。


「いつまでも、です」

「そ、そっかあ。でもサキ、こうしてても何にもならなくないか?」

「クロウ様、知らないのですか? こうして抱き合っていれば子供が誕生するのですよ」


 サキの答えは俺が想像するような可愛い物ではなかった。

 なんとすでに性交渉は始まっていたというのだ。


「え、そうなのか?」

「ええ、クロウ様が習ったやり方は違うのですか?」

「まあ……似てると言えば似てるが根っこのところで違うかな」


 ただ抱き合って寝るってプラトニック過ぎるだろ。魔物さん。


「そうなのですか。ですが、今日は私の知る方法でお願いいたします」

「……まあいいけど」


 可愛い女の子と超至近距離で寝るのは嬉しいし。

 でも、でも、でもなんか違うんだよなあ。


 期待が高かった分、落差が酷すぎるだろ……。


 サキは喋るとすぐに寝てしまった。

 その寝顔は、サンタを待ち望む子供の様に純粋だった。


 一方、こんなとんでもないお預けを食らった俺は、彼女の温もりと匂いのせいで悶々とした一晩を過ごすことになってしまった。





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