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閑話 お姫様達のパーティー準備 7

「それでは、調理を始めます。先ほど伝えた手順通りにいきます」

「わかったわ」「了解っす!」


 調理場でサキが二人に檄を飛ばす。

 ダンジョンに住む魔物が大人数になってもその全員分の食事を賄えるよう調理場は広く作られており、

 三人が同時に何かしようとしてもまだまだ空間には余裕がある。


 三人とも揃いのエプロンをつけており、その下は下着だけ。

 これはサキ指定の格好で、シアは不満を口にした。

 だが、「これは女が男へ料理を作るときの正式な衣装です」と真顔で言われてしまえばそれ以上何も言えない。


 シアとサキは以前から『いい男を捕まえたい時はどうすればいいのか』という題で研究をしており、

 サキはその研究においてシアの一歩先を行き、色々なことを姉へ教えていた。


 もっとも、その研究資料はシアの父グロウスが適当に買ってきた図書室に収めた物で、内容にもだいぶ偏りがあるのだが。

 今回の衣装も『新婚性活のてびき』という雑誌を参考にしていた。


「リノはさっき取ってきた水草と山菜の水洗い。姫様は昨日の龍の肉を細かく切ってください」

「水の中にあったのにまた水で洗うんすか?」

「外の水より、ここの水のほうが美味しいのよ。そうよね? サキ」


 サキの指示にリノが首をかしげ、シアが得意げに答える。


「…………いえ、違います。二人とも、何か気になるところがあれば判断する前に私に確認を取ってください」

「はーいっす。えーっと洗うのってこのもじゃもじゃした奴で擦ればいいんすよね」

「リノ、使うのは手だけだ」


「そうなんすか。じゃあ泡をつっけてー」

「リノ、手だけを使うんだ。泡もブラシも使わない」

「うぇー!? それじゃ何にも変わんないっすよ」


 いいから言われたとおりにやれとリノに言い残し、サキはシアの様子を窺った。

 先ほどのやり取りから、彼女もリノと変わらないレベルだと判明したからだ。


「姫様、切る方は順調ですか?」

「そろそろ終わるわ。次の手順を教えてちょうだい」

「そうですか。それなら次は──、……えっとその肉をこねて団子状にしましょうか」


 サキはシアに大きな肉のブロックを渡していた。

 味付けをして寝かせておいたそれを一口大に切る。それがシアに任せられた仕事。

 だが、今シアの前に置かれたまな板上には、ミンチになった塊だった肉。


 確かに細かくとだけ言ってサイズを指定しなかった自分が悪い。

 サキは無言で頷き、最初からそれが目的だったかのようにメニューを修正した。


「団子? これをそのまま丸めたらいいの?」


 ミンチを手に乗るだけ乗せてシアが聞く。


「いえ、……そうですねもう少し小さめで」


 サキはその野球ボールから8割ほど肉を落として再びシアに握らせる。


「ずいぶん小さくするのね。これを丸めていいの?」

「いえ、それは大きさを基準ということで。先に肉へつなぎを入れます」


 シアに大きさの感覚を覚えさせるとサキは手を洗ってから、棚より粉の入った袋を取り出した。

 そこから計量カップで感覚頼りに粉を掬い肉へ混ぜる。


「これで焼くときに崩れにくくなります。さあ丸めてください」

「分かったわ。さっきの大きさでやればいいのね」

「はい。丸めたものは、ここにトレイを置いておきますので乗せてください」


 シアがいくつか肉団子を丸めるのを見届けてサキは離れる。


「さて。……どうするか」


 サキはメインをあの龍の肉料理と考えていた、それが団子になってしまい少し見栄えが悪いと悩む。

 肉はまだあるから別の部位を出してもいいが一度任せた手前、

 自分が隣で似たようなことをしたら姫様は自分が失敗したと思ってしまうかもしれない。


「……そうだな。こうしよう」


 サキは調味料を並べた棚からいくつかの瓶をとる。

 それらを銀のボウルに少量ずつ混ぜソースを作った。


 次に取り出したのは滋養強壮効果の高い木の実。

 これは栄養価と食感がいいのだが味が悪い。

 強い味を持つ龍の肉とソースで山菜の悪い部分を打ち消し、見た目のボリュームを増やす算段だ。


 他にも同時に調理を進められる細かな料理も作っていく。


「サキっちー! 終わったっすよー」


 自分の仕事を終えたリノがサキの元へ食材の入ったザルを持ってきた。

 今度は特に問題は無いようだ。


「よし。じゃあそれをこっちに置いてくれ」

「うぃー。ここっすね」

「ありがとう、リノ。姫様と一緒に団子を作っていてくれ」

「お団子! リノお団子好きっす!」


 リノが置いて行った食材を手早く刻み、和え物と衣をつけて揚げる物に分ける。

 その準備を終えるとサキは作っておいたデザートの様子を見た。


 解けない魔法のかかった氷を使った冷蔵庫。

 その中に朝入れておいた、甘さをとことん高めた大きなケーキ。

 下のほうをこっそり指ですくい固まっていることを確かめる。


「よし。だいぶ進んできたな」


 最初はどうなるかと思ったが、だいぶ形になった。

 サキがふぅと息を吐くと、肉団子が山になったトレイを持ってシアとリノが来た。


「サキ、終わったわよ?」

「甘いお団子は好きっすけど。お肉のお団子も好きっす」


「ええ。なら仕上げにいきましょう。」


 サキが揚げ物をする横で、二人には肉団子と木の実がソースで煮えるのを見張ってもらう。


「完成です。お疲れさまでした」

「うおおおお! やったっすー!」

「ふふっ料理を作るのって意外と楽しいのね」


 両手を上げバンザイ状態で喜ぶリノ。

 指を絡ませ微笑むシア。


「あとは飲み物を用意しクロウ様を待つだけですね」


 作った料理にカバーをかけながらサキが言う。

 食べるものは準備ができた。しかし食事には飲み物も大事だ。


「早く探しにいきましょう。ラベルもないから見ただけではわからないわ」

「リノはやっぱりお酒やめたほうがいいと思うんすけど」


 クロウが帰ってきたのは、丁度三人が酒選びを終えて一階に上がってきた時だった。

本編に続く

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