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閑話 お姫様達のパーティー準備 6

 それぞれ体を洗い終え三人並んで湯船につかる。

 一番小柄なリノを真ん中にシアとサキがその脇に並ぶ。


「温かいのはいいっすねー」


 口ギリギリまでお湯に浸かったリノが気持ちよさげに長く息を吐く。

 彼女の青白い肌は変わらないが、体の芯まで温まったようだ。


「リノ、年寄りみたいなこと言わないでちょうだい」


 リノをたしなめたシア自身も良い湯加減に目を細める。


「姫様、酔いはもう完全に覚めたのですか?」

「ええ。もう頭も痛くないわ。あの「酔う」というは状態異常だったのかもしれないわね」


 サキからの確認に、シアは体を伸ばしながら答える。

 両腕を頭の後ろで組んで体を逸らしたせいで、シアの胸が水面に波を起こした。


「…………打撃力もかなりの物だな」

「サキっちなんか言ったすかー?」

「いや、なんでもない」


 シアもリノも目を閉じているのをいい事に、サキはシアをじっくりと観察した。

 意識すればするほどあれは暴力的だ。

 サキは今までの自分がいかに不勉強であったか恥じた。


「あっそういえばー姫っちー」

「んー? なあに? リノ」


 シアは体を伸ばしたままゆっくりと沈んでいく。

 肩まで浸かってもまだ双丘は水面に浮く。


「あそこで何を探してたんすかー?」

「っえ、えっと、あ゛っ!?」

「姫っち!?」「姫様!」


 動揺したシアが足を滑らせて浴槽内に沈みかけ、慌てて立ち上がった。

 湯船の淵に手をかけ飲んでしまったお湯を吐き出す。


「大丈夫っすか? 姫っち」

「ごほっごほっ……大丈夫。ちょっと足が滑っただけよ」


「掃除が行き届いていなかった様ですね。申し訳ありません。次からは更に気を付けて行います」


 シアの後姿を見ながらサキは顎に手を当てて思ったことを言う。

 家事全般をしている彼女は当然風呂掃除も担当していた。


「違うわサキ、私が勝手に転んだだけ」

「そうですか? でしたら良いのですが」


「それで、えっと私が探していた物よね。そうね……えーっと。あっ! そうよ飲み物が欲しかったのよ」


 リノに先ほど聞かれたことを答えるシア。

 本当の理由は言わず、目を泳がせながら一つ一つその場で考え言葉にする。


「飲み物? 下にいかなくてもいくらでも上に有るじゃないっすか」

「もしお茶以外の甘いものをお求めでしたら、私が果実を刈ってきましょうか?」


「たまには違う物を飲んでみたかっただけよ。ほんとよ」

「ふーん。なら探すのはもういいんすね。あそこにはたぶんお酒しかないっぽいっすよね」


 何か面白いことを期待していたのか、シアの答えを聞くとリノはつまらなそうにあくびをした。

 さっきのシアを直接見たリノは、あの痴態を晒しておいて姉がまた酒を飲むなんて言うはずが無いと思っている。


「え、えーっとどうかしらね。上に有って困るものでもないし」

「リノは酔っぱらいのお世話は嫌っすよ!?」


 意表を突かれたシアの飲酒継続宣言に今度はリノが立ち上がった。

 立った勢いでバシャバシャお湯をかき分けシアに縋り付き彼女の手を揺する。

 肉付きの薄いやや筋肉質なリノの体は激しく動いても、特定の部位だけが更に揺れるということは無い。


 シアはバツの悪そうな顔でリノから逃げるように顔をそらす。

 懐いてくれているリノがここまで拒絶反応を示すことは稀で、シアはその対処の経験が薄いことと、

 酔っていた時の記憶が無くどれだけのことをしたか分からないため強く出れなかった。


「ふむ? 無いなら無いで体躯その物を縮めればバランスが取れるのか」


 サキはお湯に浸かったままで二人のじゃれあいには混ざらず、それぞれの体つきを比べていた。

 体のパーツも本体も大きなシアをモデルに包容力を再現してみるか。

 見た目だけは華奢きゃしゃなリノを参考に未成熟さを押していくか。


 二人のどちらを参考にプランを立てるべきかを真剣な表情で悩んでいた。


「ダメっすよ!? 絶対、絶対ダメっすよ!?」

「大丈夫よ。次は早めにヒールするから」

「ちょっとでもダメっす! お酒飲むのはみんなそう言って聞かないんすから!」


「大丈夫だって! 私を信じなさい!」

「姫っちを信じても酒飲みは信じないっす! どうしてもっていうなら入り口を壊すっすよ?」


 どんどんヒートアップしていく二人。

 リノはシャドーボクシングまで始め、本気だぞとシアにアピールした。


「わかったわよ! もう! 別に私が飲みたいわけじゃ無いわよ」

「じゃあお酒なんてなんに使うんすか。ちゃんと言わないとダメっすよ?」


 リノの本気さを感じ取ったシアが先に降参した。

 ため息をつき、湯船の中に戻りながら自分用に酒が欲しいわけではないと吐露した。

 シアとしてはそれで終わりにしたかったが、リノはまだ警戒を緩めず、さらにその先の理由も求める。


「……ただ私も何かしたかっただけよ。二人だけで料理するっていうから。ドリンクくらい用意しようかなって」


 全部白状させられシアがすねてそっぽを向く。


「だったら最初から一緒にくれば良かったんじゃないっすか?」

「言おうと思ったのに貴女達がいう間もなく行っちゃったんでしょ!」


「……むー」「………………なによ」


 リノが黙ってシアを見つめる。

 居心地悪そうにシアがリノに何か言うよう促す。

 すると、


「そうだったんすか。ごめんなさいっす。じゃあ姫っちも一緒に料理するっす!」


 リノはお湯に顔をつける勢いで頭を下げ、顔を上げると笑顔で一緒に料理を作ろうとシアに提案した。


「ふふっ、ええ。よろしくね、リノ。サキも──」


 リノの笑顔に釣られシアも笑顔になり、話に加わっていなかったサキを見た。


「姫様!」「はい?」

「リノ!」「う?」


 お湯に浸かり直した二人とは逆に、サキは立ち上がり二人を順に指さす。

 そしてどちらかといえばリノ寄りの体を二人に晒しながら言い切る。


「最後のキーはアルコールです。攻略の道筋は整いました」

「え、サキ何を言ってるの?」

「サキっち、話し聞いてたっすか? お酒はダメっす」


「姫様が自分で飲むのはいけないという事だろ? 分かってる話は聞いていた。二人とも早く風呂を出て!」


 サキの勢いに飲まれ、二人は訳も分からぬ内に浴室からたたき出された。

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