閑話 お姫様達のパーティー準備 5
「リノ……何をしたらそんな事になるんだ?」
シアを背負って帰ってきたリノに、サキは呆れ顔を見せた。
調理場にはお盆に乗せられたお菓子の山とお湯の入っていないティーセッが並んでいる。
あとはお湯を沸かすだけという状況だった。
「リノに言わないで欲しいっす……連れて来るだけで大変だったんすよ」
「むにゃむにゃ」
シアから漂うアルコールの臭いにウンザリしながらリノが返事をする。
このままではおやつどころではない、シアをどうにかお風呂に入れられないかとリノはサキに聞きいた。
「とりあえずお風呂に入ってもらおうと思うんすけど。サキっち、手伝って欲しいっす」
「そうだな。お前だけでは難しいか。風呂は沸いているし姫様を連れて行って。私もすぐにいく」
「うぃー。着替え持ってきて欲しいっす」
「ああ分かった。脱がせるのも大変だろうから脱衣所で待ってて」
シアを担いだままお風呂場へ向かうリノ。
その歩いた後には赤い液が延々と垂れていた。
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「リノ、持ってきたぞ」
「ありがとーっす。じゃあ脱がせちゃうっす!」
サキが脱衣所に入るとシアは床に寝せられていた。
持ってきた三人分の着替えをカゴに入れ、二人はシアの服に手をかける。
「うぇーびっしょりっす」
「酷いな。シミにならなければいいんだが」
水分を吸った生地はシアの体に貼り付き、二人掛りでも脱がすのに手こずった。
しかもシア本人が激しく寝返りをうったりで大人しくしてくれない。
数分かけてようやくロングのドレスを脱がし、シアは下着と手袋だけの姿になった。
「あとは手袋っすね。リノが姫っちの腕を上げるから引っ張ってっす」
「わかった。気をつけろ、暴れるぞ」
「了解っす」
リノはシアの体にぴったりと膝をつけて座り、彼女の右腕を自分の腹の前で抱いた。
シアを脱がせる前に二人は先に自分の服を脱いでおり、三人ともほぼ裸の状態だ。
「じゃあお願いっす」
「姫様、少し我慢してください」
サキが肘の方から手袋を引っ張った時だった。
「ぅー触るな!」
目を閉じたままのシアが二人を振りほどこうと暴れだした。
加減のされていない危険な暴れ方だったが、それを最初から想定していた二人は難なく取り押さえる。
「すぐ終わるっすっ! じっとしてて欲しいっす」
「よしっ、手首まで来た。姫様、手を開いてください」
「うぅー!」
片手の手袋を外し、同じようにもう片方も。
両手を外した頃にはすっかり二人とも汗ばんでいた。
「ふー疲れた。でも! お風呂っす!」
一仕事を終えた風にリノは額の汗を拭き、下着を脱ぎ始めた。
眠ったままのシアはサキに預け、リノは裸になると浴室に走っていく。
「あっちょっと待て! ……まったく」
サキはリノを呼び止めようとした。
だが、外では荷物持ち、ここではシアを連れてきてくれたし先に休ませよう。
そう考え直し、呼び戻すことはしなかった。
シアの上半身を起こして上を外し、寝かせ直して腰を持ち上げ下も脱がす。
いくらサキがメイドの真似事をしているとはいえ、普段互いの下着を脱がすことはない。
浴室の外でどちらも裸のままこんなに密着している事に奇妙なおかしさを感じていた。
「……大きい。これはやはり武器になるのだろうか」
脱がされ、開放された大きな山をまじまじとサキが見つめる。
ついちらりと見てしまったウロコに覆われた自分の堅く平らなそれとはだいぶ違う。
少し考え、サキはウロコを畳んでみた。
彼女のウロコは翼と同じく展開式だ。
両側の肋骨一番下近くに大元のウロコがあり、そこから任意で胸を隠す程度まで伸ばすことができる。
戦闘時や服を着る時にそこが露出していると不便なので、体を洗う時以外は常に隠している。
そういう体の性質上、竜人女性の胸部はウロコで隠せる範囲までしか成長をしない。
サキは昔からそれに不便を感じたことはなかった。
だがそれが武器として有用ならば。
サキはそうっと両手をシアの双丘へ伸ばし、登頂を果たそうとした。
やましいことをしているのではない。
これは互いにとって今後の戦局を左右する重要な調査なのだ。
もう少しで触れる。
ゴクリとサキの喉が鳴った時だった。
「サキっちー? 何かあったんすか? 遅いっすよー」
ガラリと浴室の戸が開き、リノが顔を出す。
「っ!? あ、ああ。今準備ができた所だ。丁度いい姫様を連れて行ってくれ」
「えぇーリノ体洗っちゃったんすけど。またお酒臭くなるっすー……あっならサキっち! リノを洗ってっす!」
「ああ。だが先に姫様を洗ってからだぞ?」
「うぃーよっと、行くっすよー」
リノがシアを肩に担いで持っていき、サキは先行して体を洗う準備を整えた。
「ここに座らせてくれ」
「あーい」
リノはシアを椅子に座らせた。背もたれがなくそのままでは倒れるのでそのままリノが体を支える。
サキは両手にボディーソープを付け泡立ててシアの体を洗おうとした。
「今度こそ」サキが呟く。
そしてすぐ、「いや、これは体を洗うだけだ」と続けた。
ほとんど口から漏れなかったそのつぶやきはリノには聞こえていない。
サキが泡まみれの両手でシアを洗おうとしたら、閉じられていたシアの目がゆっくり開いた。
「んっ……頭いたい」
「あっ起きたっす? ってサキっちなに変な顔してるんす?」
「ん? なんでもない。姫様、お加減はいかがですか?」
サキは一瞬唇を曲げたが指摘されるとすぐ解き、シアの容態を確認する。
「サキ、リノ? ここは……お風呂?」
「そうっすよ! 姫っちお酒まみれで大変だったんす! 反省してっすよ?」
ぼんやりとした表情のシアに、彼女の肩に顎を乗せたリノが唇を尖らせながらいう。
「お酒? よくわからないけど迷惑をかけたようね、ごめんなさい」
「いえ。それよりもどうします? 今お体を綺麗にしてさしあげようと準備していたのですが」
「あらそうだったの。ありがとう、自分でできるわ」
「……そうですか」
「じゃあサキっち! 約束通りリノを洗ってっす!」




