閑話 お姫様達のパーティー準備 4
シアがまだ一人飲んだくれていた頃、サキとリノが狩りからダンジョンへ戻ってきた。
リノがドンと食料貯蔵室の床に置いたカゴには、山になった薬草と上質な魔獣の肉。
狩った獣に対して肉の量はそれほど多くない。
全部を持ってきても食いきれず腐らすだけ。
それに肉は放置すればジャングルに住む獣達の食料になる。
だから食材としての価値が一番有るところだけを貰ってきた。
「ふぃー疲れたっすー。やっぱり身軽が一番っす」
カゴを背負って歩いてきたリノが目を細めながら手をパンパンと払う。
山に行く時はサキに乗せてもらって飛んだが、帰りはせっかくの食材をこぼすわけにはいかないと二人で歩いて降りてきた。
「ふふっ片付けたら休憩のお茶にしよう。リノ、姫様に声をかけておいてくれ」
「あーい了解っす」
サキに頼まれたリノはシアの部屋へと向かう。
「ふんふふふーん。姫っちー? おやつにするからーってサキっちが言ってるっすよー。……あれ? 居ないっす」
鼻歌を口ずさみながらシアの部屋の扉をあけると、中には誰も居なかった。
読みかけであろう本が数冊テーブルに乗っているだけだ。
「んー? よしっ! 探しに行くっす」
サキの頼み事を完遂するため、リノはシアを探しに部屋を出る。
廊下に出るとリノは少し考え始めた。
このダンジョンは居住区だけでもかなり広い。全部を見て回ってはおやつの時間がなくなってしまう。
「本が有ったっすね。うーん……ということは図書室から行ってみるっす!」
早く見つけたくて、少し駆け足で少女は動き出す。
「姫っちはここっす! ありゃ、また違ったっす。うーどこっすか」
シアは図書室にはおらず、他の主要な部屋にも居なかった。
おやつの時間が迫り、リノは焦り始める。
「早く出てきて欲しいっす……う? 階段が開いてる。もしかして下っすか?」
めぼしい場所を探し終え、それでも見つけられずリノがキョロキョロしていると、一回へ繋がる隠し階段が動いていた。
シアが一階に用が有るとは思っていなかったリノはすっかりその存在を忘れていた。
「とりあえず行ってみるっす」
階段を下りたらどこを探そうか。
珍しく頭を使っているリノだったが、それもすぐ無駄になった。
「なんすかこれ!? 侵入者でも来たんすか!?」
長い階段から出た彼女が一番に見たものは、見慣れた胸像達ではなく大きく開いた地下室への入口だった。
これがどこへ通じているかはリノも知っている。
だがシアがそこに行く理由が分からず、リノは知らない誰かが侵入してきたのではと警戒した。
「………………」
リノは長いズボンに隠していた二本のナイフを抜き逆手に持つ。
独り言もやめ、足音を消して地下へと降りていく。
最初リノはサキを呼びに戻ろうかと思った。
だがそれよりも一刻も早くシアを探さなければと考え直した。
息を殺しながら、さっき以上に頭の中で状況をシミュレートする。
下は暗く入り組んでいるはず。
出口で張られていても強引に突破し闇に紛れる。
それしかない。
慎重にゆっくりと降りてきたがもう階段も終わる。
下が見えたら一気に走り抜けろ。
静かに深く呼吸をし、リノは最後数段を駆け下りた。
バシャッ! バシャッ!
地下に下りたリノの耳に聞こえたのは変な水音だった。
「……? なんの音っす?」
リノは足を止め、棚に身を隠してその音をよく聞いた。
桶で水を撒くような音は奥からしている。
そして時々笑い声も。
「なんか怖いっす」
さっきとは違う意味で慎重にその音の出処まで距離を詰めていく。
「もう少し……あとちょっと……姫っち!?」
「ぅう? んーーりの?」
「何してるっすか!? あと、すっごい変な匂いっすよ」
リノが発見した水音の正体。それは大きな樽の淵に座り、瓶入りの飲み物をあおるシアだった。
声をかけられたシアは緩慢な動きで顔を動かし、リノを見つけるとニッコリと笑う。
その時、ちょうど彼女が飲んでいた瓶が空になった。
するとシアはその瓶を腕ごと樽に突っ込んだ。
体や服の汚れも気にせず変な物を飲むシアなどは見たことがない。
リノは戸惑いを隠せなかった。
「んーはぁー……なぁにしてたんだっけ。にゃにか、欲しかった」
シアは足と酒瓶をプラつかせる。
「探し物っすか。まあ飲み物っすよね。でもここお酒しか無いんじゃないっすか?」
「んーそうよねー。探してて。それで、それでーゴクッ」
喋りながらもどんどん瓶の中身を減らしていくシア。
「とりあえず飲むの止めてほしいっす。サキっちがおやつだからって呼んでるっすよ」
リノはその瓶を掴みこれ以上飲めなくさせる。
酒を飲むのはやめて上で一緒におやつを食べようとシアを説得する。
「おやつー? おやつは、食べるわよ。さき呼んでちょうだい」
「えー今サキっち忙しいっすよ。リノ達が行くっす。ほら!」
「にゃんなのよ! わたしだけ。おやつ抜きなのー?」
「違うっす。用意ができるから一緒に上に行くっす」
「でも、さがしもの」
足元に転がっていた他の瓶を拾いながらシアが駄々をこねる。
「後でリノも一緒に探すっすよ。ほら立ってほしいっす!」
「うーん……わかった」
リノはシアの瓶を取り上げ、彼女を立たせると背中におぶり地上に上がっていった。




