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閑話 お姫様達のパーティー準備 3

 当てもなく酒蔵庫を歩くシア。

 父がこういう匂いの飲み物が好きだからきっと男はみんなそうなのだろう。

 そう思い、シアは飲み物を選び始めたのだが、ここの酒はどれも似たような樽に入っている。


 酒好きが見れば、匂いや作りの違いから大まかな分類が出来ただろう。

 だが、シアは今まで酒に全く興味が無かった。

 香りに差がある事には気づけた。しかしそれがどんな物なのかという所までは見当がつかない。


「たぶん同じ列には同じ種類の物が入ってるのよね。匂いがそうだし。……すこし飲んでみた方がいいのかしら」


 このままただ歩いていては何も解決しない。

 一つ開けて試しに飲んでみよう。

 シアはそう決め、一番古そうで木の表面が朽ちかけた樽を棚から引き出した。


「ふぅ……重いわね。それに、これ本当に飲めるの? まあ父様もきっと忘れてるんでしょうね」


 中身の入った樽を両手で引き抜き、ドンッと立てる。

 よほど木が厚いのかシアが軽く叩いても中から水の音はしない。

 だが、動かしている最中に中で液体が揺れる感触をシアは感じていた。


 シアは歩いている時に見つけた木槌と木の杭を両手に持ち、それで慎重に樽の天板を叩き始めた。

 コッコッコッ


 静かな蔵に木がぶつかる軽い音が反響する。

 力を込めれば簡単に割れる。だがそれをすると中の液体が跳ねるかもしれない。

 服や床を汚したくないシアは慎重に木槌を振った。


 コッコッコッ、カコッパチャ!


 樽の淵をなぞる様に順に叩いて数周。

 天板が抜け酒の上に落ちた。


「う゛っ……なんなのこの匂い。無理。こんなもの飲めないわ」


 封が切られたことにより、樽内部に充満していた酒気が解き放たれる。

 覗き込んでいたシアはそれをモロに浴び、そのアルコール分に顔をしかめる。


「これは腐ってるわね。早く飲まないからこうなるのよ」


 開けた樽を放置し別の棚へと歩いていくシア。

 彼女は無事な物を求める彷徨う。

 だが、ここに彼女の考える無事な酒、

 つまりアルコールの入っていない果実ジュースがないと気づくのはまだ先のことだった。


 カコンッ

 また一つ樽を開封し、眉間に皺を寄せる。


「……これもダメね。はぁっ……まさかどれも腐っているなんて」


 いくつもの酒樽を開封し、そのどれにも手をつけず、シアは一人悩んでいた。


「もしかして全部飲めないの?」


 サキ達の料理に合う美味しいドリンクを出してみんなに喜んでもらう。

 それが叶わないかもしれないという状況にシアの表情がまた曇り出す。


「これなら向こうに混ぜてもらえば良かった。ん? ここだけ少し違うわね」


 トボトボと歩いていたシアが偶然見つけた物。

 それは樽ではなく瓶の並んだ小さな棚だった。


「瓶の物も有ったんだ。まあこれもダメなのだろうけど」


 キュポン! 

 シアは瓶の先に詰まっていたコルク栓を手で引き抜き、匂いを嗅いでみた。


「これも似たような物ね。まあ他のよりはましかしら……でももうこれくらいしか無いのよね」


 ここまで来て手ぶらでは帰れない。それにもしかしたら味は良いかもしれない。

 瓶を手に持ち、数秒目を閉じて祈り。それからそっと口に当てた。


「──!? …………甘い」


 傾けた際に先にシアの口に届いたのはアルコールの香り。

 だがすぐに口内に熟成された果実の甘さが広がった。


「変な匂いなのに美味しい……」


 シアは味が完全に口から消えるまで待って棚をちらりと見た。

 瓶の数はまだまだ沢山ある。それに味見も不十分。

 なにより直接口をつけた物をみんなに出すのはダメだ。


 自分に言い聞かせるように心の中で何度も繰り返し、シアは手に持った瓶を空にした。


「んくっんっんっ……ふぅ。おいしい。でもまだちょっとだけ、ちょっとだけ味見ひつようかしら。

 もしかしたら手前のこれだけ無事らったかも。だし」


 赤らみ始めた顔でそう呟きながらシアは棚の奥へ手を伸ばす。

 一番奥の瓶を無理に取ろうとしたせいで瓶同士がぶつかり合い、ガチャガチャと鳴るがシアは気にもとめない。


「これも同じだったら。持っていきましょう。違ったら、そうね。同じのをさがして。さがしたら、それと同じをさがしましょう」



 新しい瓶のコルクを抜き、自分の口に流し込んでいくシア。

 その傾けた角度はほぼ九十度だった。


 ────────────


「……あれ? にゃい」


 瓶の口を真下に向けてシアが零す。

 彼女は床に座っている。まっすぐ立っていることが難しいのだ。

 そして周りには空瓶で散らかっている。


 シアはたった今空けた瓶を両手でそっと瓶の山へ押し、棚に掴まって立ち上がった。

 ただ立ち上がるだけなのにその途中何度も彼女の膝は折れそうになった。


「つぎを……にゃい。にゃい!? にゃんでにゃい!?」


 棚にぶら下がるように両腕を投げ出して探すが、彼女が飲んでいた酒はもう一本も残っていなかった。


「どおする。シャキとリノとクロウに、おいしいジュースもってかにゃきゃにゃいのに」


 困ったシアはゆっくりとしたスピードで首を振って代わりを探す。

 そして、瓶の前に開けて放置していた樽を見つけた。


「もしかしたら。あれも美味しーのかにゃ」


 シアはノロノロとした動作で空瓶を一つ持ち、その樽へと近寄っていった。




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