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44 決着とただいま

 つまり、俺を拾って鍛えたのも、一度魔力まで回復させてからの力試しも全部シアのため。

 試す途中なのに娘と関係を持たせようとしたのは倫理観の違いか。


 リノも監督も人を試すハードルが高すぎると思うが、それだけシアを大事にしているんだろう。


 じゃあ俺も今出来る全力を見せなきゃダメだ。

 ちまちま腕を切って、これが俺の限界です。じゃ監督は容赦なく俺を殺すだろう。


「俺と戦って力をみたいだけなら、ダンジョンなんて来る必要無かったんじゃないっすか?」

「死にかけてこそ生き物は成長する。しかも同じ死に方じゃ慣れちまう。ダンジョンに来たおかげで強くなれたろ?」

「それは……そうっすけど」


 俺が本当に戦うことを覚悟したからか監督は殴りかかって来ない。


「じゃあこのポーションを作るのも非効率で死にかけるためっすか?」


 瓶を顔の前に持ち、監督に振って見せる。

 まあ本当はポーションじゃないらしいけど。


「ガッハッハッそれは俺らじゃねえよ。お前が勝手に一人で始めた事だろ」

「え? だって毎日練習しろって」


 嘘だろ。俺は言われたから毎日仕事の合間にも終わりにも練習をしてたのに。

 あれ、誰に言われたんだっけ。


「そもそもお前、俺らが魔法を使ってんの見たことあるか?」


 そりゃ有るでしょ。だって魔物だろ?

 俺は仕事場の先輩達を思い出す。

 あれだけ居たんだ何人も魔法を使う人がいるだろ。例えば……ほらあの…………。


「……無いです。戦ってるところも無いんで」

「だろ? それは俺がお前を見つけた時から勝手にやってたことだ」


「そういえば俺と監督ってどこで出会ったんですか。いつの間にか一緒に働いてて。その前のこと」

「ああ、それはまた今度な。さあお喋りは終わりだ。来い」


「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!」

「散々待ってやったろ。今更そんな終わったことで悩んでなんになる」


 監督が動き出した。今度こそ倒すまで止まらないだろう。

 今まで無自覚に信じていたことが崩れ、戸惑うが切り替えないと。

 確かに誰に教わったかは重要じゃない。


 そのポーション作りのおかげでもっと強い術を使えるようになったんだから。

 今やることは、教えてくれた人に感謝し監督へぶつけること。


 バチン!


 頬を両手で叩き気合を入れる。

 よし! じゃあ倒すか! 

 俺はさっき作った熱くない炎のポーションを持った。


 これで目くらましをしてありったけの魔力をぶつけてやる。


 こんな密閉空間で未知数の呪文を使ったら、下手したら死ぬな。

 まあでも監督がなんとかしてくれるだろ。

 覚悟を決めたら、死ぬ恐怖よりもどこまで強い呪文を出せるかの方が楽しみだ。


「監督」

「ああ?」

「死なないでくださいね!」


 自然と口角が上がる。

 自分でも何がこんなに面白いのか分からない。

 だが、この世界に来て初めて喜びで心臓が高なっている。


「っは! 俺は孫の顔見るまで死なねえよ」


 監督もいつも以上に凶悪な笑顔で俺に向かってくる。

 ずっと視界の端にいるここのボスだけは少し可哀想だがもう止まらない。


「おりゃっ!」


 パリンッ!

 瓶が監督の顔に当たり、飛び出した炎により赤い顔が更に真紅に塗られる。


「何だこりゃっ!? って熱くねえじゃねえか! 馬鹿にしてんのか!」


 熱くはないけどしばらく視界が塞がってるはずだ。

 俺は貰った素材を両手に持てるだけ持ち、術のイメージを組み立てる。


 できれば向こうに飛んでいって欲しいけど、威力が強いならここも向こうもあまり変わらない。

 それなら投げられる分を威力に回したい。

 唱えた瞬間自分ごと周囲をすべて爆発させるくらいの物がいい。


 カチッと頭の中で何かがはまり、準備は出来た。後は呼ぶだけ。

 なんとかファイアーでもいいけど、炎より爆発の方が強そうだ。

 爆発だとエクスプロージョン。もっと強そうにしてギガエクスプロージョン。


「監督! 俺が死んだらちゃんと治してくださいよ!!! ギガッエクスプロージョン!」


 口から言葉が出た瞬間、両手に持った材料から重さが消え、辺りに見える全てを白い光が塗りつぶした。



 ────────────────


 ドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッ


 不定期に刻まれる振動によって俺は目を覚ました。

 何か酷く乗り心地の悪い物に乗っている。


 意識は戻ったが目は開かないし体も動かない。

 揺れを感じるのだから感覚はあるんだろう。

 だが体に痛みは無かった。


 さっきの術はどうなったんだろう。

 認められたのか、見捨てられたのか。


「……れ……! あ……て…………!」


 ガガガガガッ


 人の声? その後に別の振動。


 ドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッ


「親…………ん! ク…………っち!?」

「……父……! …………………………!」


 声が増えた。

 ああきっとこれは。

 体に温かな物が満ちていく。


「……ぅ」

「クロウっちが目覚めたっすよ! 二人共!」

「クロウ、大丈夫!?」


「……ここ。帰って来れたのか」

「はい。お帰りなさい、クロウ様」


 やっと目が開いた。

 その目に一番最初に映った物は、俺に馬乗りになって胸に手てているシアの顔。

 そして俺の顔を覗き込むリノとサキの二人。


「監督は?」


 室内にはその三人だけ。

 たぶん俺をここまで運んでくれた監督の姿は無い。


「親分さんは姫っちに怒られて、しょんぼりして帰っちゃったっす」

「親方殿もそうとうな怪我を負っていたようで、治療をしていかれた方が良いのではとお聞きしたのですが」

「いいのよ。お父様なんて! クロウにこんな無茶させたんだから反省させなきゃ」


 三人とも心配してくれていたようで、俺が話しかけると安心したような表情をした。

 可愛い子達にここまで心配してもらえるなんて、これだけで頑張った甲斐があったな。


「ははっ。まあ監督の考えは理解できたからあんまり怒らないでくれよ」

「でも! クロウはわ、私の夫なんだから……お父様といえど、その。勝手にしたらダメよ」


 自分で口に出して恥ずかしかったのかシアは途中で顔を逸らす。


「シアは可愛いな」

「なっなによ急に。驚くから変なこと言わないで」


 その姿が愛おしく、ついそんな事を口走ってしまう。


「姫っちだけずるいっす! リノは? リノは可愛くないっすか!?」

「ごめんごめん。リノもサキもみんな可愛いよ。ありがとう」


「いぇーい! どういたしましてっすー!」

「わ、私は礼を頂ける事は何も……。クロウ様、そろそろ食事にしませんか?」

「皆で作ったんすよー! サキっちだけじゃなく、リノも姫っちも!」


 ご飯か。そういえば朝食べてから何も食べてないな。

 今何時なんだろう。


「さあさあこっちっす!」


 リノに背を押されテーブルに着くとサキが大量の料理を運んで来る。

 昨日の料理も朝の料理も美味しかったのに、これはそれ以上に美味しそうだ。


「はいクロウ、飲み物よ」


 シアが大きなグラスに入った赤い飲み物をくれた。

 これってアレだよな。


「じゃあ皆で一緒に言うっすよ!」


 リノがグラスを持って音頭を取る。

「俺は未成年だ」咄嗟にそう言おうとしたが……そっかダンジョンを超えれば大人でいいんだっけ。

 じゃあ、まあいいや。


 グラスを構えた彼女らの視線にも押され、俺もグラスを掲げる。


「せーの「「「乾杯!」」」」


 監督に無理やり連れてこられ、最初は断ろうとした。

 でも、もうちょっと続けてもいいかな。

 生まれて初めて口にする酒を飲みながら俺はしみじみとそう思った。



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