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42 ダンジョンボスと裏のボス?

 ボスらしき鎧は、俺が思う普通の人間サイズよりやや大きい。

 振り回している鎖付き鉄球は持ち手の短いフレイルの様な物。

 回転速度は遅いが鎖の長さが3メートルくらい有り、近づくのも避けるのも難しそうだ。


 壁を鉄球がこすりゴッゴッという音が響く。


「……おかしいな。なんで武器に当たらない?」


 鎖は鎧の頭部スレスレの高さで回されていて、鉄球はそれよりやや低い軌道で周回している。

 壁に並んだ武器たちはどれも大きく、鉄球が壁に当たるなら武器にも当たらないと変だ。


「右手は動くようになったし、もう少しちゃんと見るか。」


 ボスの全体図を見るため、壁にしていた武器に手をかけて身を乗り出そうとした。

 だが、伸ばした手は板状の武器をすり抜けてしまう。


「おっ? おおっ!? いてっ!」


 思った通りの場所に手を置けず、その手に体重を預けかけていたせいでバランスを崩してしまった。

 右側に倒れていく瞬間、体は銀色の板をすり抜けた。

 腕から倒れ体をしたたか打つ。


「どうなってるんだ? ……これ幻か?」


 打ったところを撫でながら体を起こし武器を触る。

 俺の目には確かにそこに有るように見えるのだが、触ろうとすると突き抜ける。

 VRゲームみたいだ。


 でもさっき弓は壊せた。それに今も鎧は鉄球を振り回して壁に当ててる。

 全部本物じゃなく偽物が混じってるのか?


 まあ何にせよたぶん今考えるのは無駄だろう。

 今知っておくことは鉄球は実体があることだけでいい。


 のんびり考えていたらボスが来てしまう。

 部屋の端であるここに来られたら逃げようがない。

 俺はもう一度右肩の調子を確認し、物陰から飛び出す。


 グッグググ!


 まっすぐ俺が居た所に向かって歩いていたボスが俺を追いかけ体の向きを変える。

 飛び道具を警戒し、とりあえず全速力で走ったが何も飛んでこない。

 走る足を緩めボスと対峙する。


「はぁっはぁっ……正面から見ると迫力あるな。ちょっとカッコいいじゃないか」


 ボスの鎧はシンプルなフルプレートを元にした物だが、所々に施された細工と赤く染める塗料がかっこいい。

 俺とボスとの距離は鉄球が飛んでいる範囲の倍くらい。

 これくらいあれば対処できる幅も広がる。


 すぐ動けるよう身構えていたのだが中々攻撃をしてこない。

 あの鉄球を使った攻撃って何があるんだ?

 単純に考えたら遠心力を利用してぶつけてくるくらい。


 大きな鉄球を防げるかはわからないけど一応剣が有ったほうがいいな。

 右手に素材を持って剣を作る。


「来ないのか?」


 ボスは俺が剣を作る間も攻撃を仕掛けてくることはなかった。

 ただジリジリと歩いて距離を詰めてくる。


 正確な攻撃範囲はまだわからないので、ボスが一歩進むと俺は二歩下がる。

 ダメだなこれじゃ。結局壁に追い詰められる。

 こっちから攻撃をしかけるか。


「ファイアーボール!」


 俺は術名を呼び、ボスの顔に火の玉をぶつける。


「ギャッ!?」

「……え?」


 ボスが喋った。火の玉をたった一発くらっただけで悲鳴をあげた。

 意外と弱いのかと思ったが、火は一瞬で消え鎧に焦げ跡もついていない。

 ダメージは全く無さそうだ。たぶん驚いただけだろう。


 ヒュツ! ドゴン!


 ボスの反応の意味を考えていると、とうとうボスからの攻撃が始まった。

 鉄球に回転で勢いをつけ、まっすぐ俺に飛ばしてくる。

 だが狙いは大幅にずれ、攻撃は避ける必要もないくらいの場所に落ちた。


「怒ってるのか? でもお前は痛くないだろ。俺はめちゃくちゃ痛かったんだぞ」


 攻撃は落下した床にヒビが入るほどの威力だったが俺は意外と冷静だった。

 さっきの火の玉程度で怒り、攻撃が狂うならかなり相手にしやすいんじゃないか。


 ヒュッ! ドゴン!  ヒュッ! ドゴン! ヒュッ! ドゴン! 


 おお全く当たらない。なにせあの鉄球は大きい。

 外し、引き寄せ、回転させ、投げる。

 これだけ一回の動作で無駄を挟めば当たりようがない。


「アタレッ!」


 ドゴンッ!

 攻撃を避け、逆に自分から一歩近づく。

 そして剣を振りかぶり、


「当たらないぞ」


 スパッ!

 鎖を切り落とした。

 鎖から離れた鉄球は空気の抜けた風船の様に萎み、最後は溶けるように消えた。


「次はなんだ? なんだったら俺の勝ちで通してくれないか?」

「ウゥゥゥゥ! ッコイ!」


 ボスが何かを呼ぶ。

 この流れなら何が来るか大体わかる。

 玉座横に並ぶ武器列。その内の一本が淡く光りだす。

 たぶんあれには攻撃が通るんじゃないか。


「ファイアーボール!」


 こちらに向かって飛んできた刀を火の玉で打ち落とす。

 その刀は異様に柔らかく、弱い火の玉でも簡単に壊せてしまった。

 最初は触れず、ボスが使おうとしてやっと実体化するのか。


 それにしても柔らかい。羽化したての虫みたいにちゃんと実体化するまでタイムラグがあるのかもしれない。


「オマエ! ルールマモレ!」

「うるさい! ルールなんて知らん!」


 ボスが更に怒っているが知ったこっちゃない。

 俺は楽に勝てるならそれでいい。


「グチャグチャニスル!」


 ボスは一度に複数の武器を実体化させるがこっちの火の玉もそこそこ連射が効く。

 順番に飛んでくる武器たちを全て破壊してやった。


「コレクションヲ! ──コロス!」

「え、あれホントに壊れてんの? こういうのって戦闘が終わったら治るもんじゃないのか?」


「コ・ロ・ス・!」

「いやごめんって。勝手に入ってきた俺も悪いし、俺を殺そうとするそっちも悪い。それでちゃらにしないか?」


 激昂したボスが殴りかかってくる。

 正直もう負ける気はしないが、ここまで怒らせるとなんだか申し訳ない気になる。


「おーーーう! やめやめ!」


 この状態を剣で攻撃するのは気が乗らないと思っていたら、突然俺たち以外の声がした。

 声の出処を探すと、ガラガラになった武器列の左端に監督がいた。


「ん? 監督!?」


 どうしてここに? ああ出口から入ってきたのか。

 監督は俺たちの所に歩いてくるとボスの肩をポンと叩いた。


「ダレダ! シンニュウシャカ!」

「ガッハッハ! 似たようなもんだがちげえよ。嬢ちゃん、あいつぶちのめすの俺が代わってやるよ」


 監督はボスを抱き込み、耳打ちをするふりをしてそんなことを言った。


「はあ!? 何言ってるんすか!」

「いいじゃねえかクロウ。こいつはここのボスになってまだ日が浅い。そんな新米ボスをいたぶってオメエそれでも男か?」


 ダンジョンとしてオープンしてるなら経歴なんて関係ないだろ。

 それに、新人ってさっきあったじいさんは数十年ぶりに人が来たとか言ってたぞ。


「知りませんよそんなの! じゃあこれで終わりでいいじゃないっすか」

「……はぁ。お前はなんにもわかっちゃいねえな。ダンジョン最深部でそのダンジョン最強の敵と戦う。それがダンジョン攻略の醍醐味だろ」


「さっぱりわかんないっす」

「じゃあわかりやすく言ってやる。さっきの約束、俺を倒したら守ってやるよ! ガッハッハッハッハッハ!」

「既に約束破ってる! ルール変わってるっすよ!?」


 ダンジョンクリアしたらもう命令しないって約束では!?


「……オマエ。ルール、シラナイ。イッタ」


 俺と監督の言い合いに戸惑っていたボスがポツリと呟く。

 いや、それは命のやり取りをしてるからであって。


「それは戦闘中のあれだろ! 日常での些細なルールは守れよ!」

「じゃあ今から戦闘開始だ! オラッ! 死ぬぞ!」


 ボスの言葉に乗っかり、監督が俺に殴りかかってきた。

 やっぱり馬鹿だろこのおっさん!



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