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「さて、この扉の先にボスが居るのか」


 途中大幅なショートカットが有ったお陰で思ったよりも早く来れたな。

 あんまり戦闘がなくて助かった。


 深呼吸を一度して俺は扉を開いた。


「けっこう広いな」


 部屋は広く、少し暗いが照明もついていた。

 平らな石の床には薄く水が流れている。


「あんたがここのボス?」


 部屋の一番奥には質素な玉座があり、それに座る大柄な鎧姿の人影。

 その左右には並んだ大きな武器達。


「…………」

「なんか言ってくれよ」


 部屋の中ほどからボスに呼びかけるが反応がない。

 というか鎧からは生き物感がしない。

 これどうすればいいんだ? 何かイベントでも起こるのか?


 ギギギィッ


「ん? なにか起こってる?」


 どこかで変な音が鳴っている。

 錆びた金属をこすり合わせた様な音だ。

 それははっきり聞こえるので、壁の外ではなくこの部屋内で発生しているらしい。


 でもボスは動いていない。

 待てよ、後ろの武器が動いてないか?

 あの形状……細長い棒にピンと張られた糸。


「弓──しかも引ききってる!?」


 矢をつがえ弦を引き切った弓が目標を探し、コマの様にゆっくりと回る。

 もしかしなくてもこっちに飛んでくる!


 ヒュッ!


 気づいた時にはもう照準が定まる直前で、よける前に矢が俺の体に刺さった。

 強い衝撃が右肩から体に広がる。


「っい──!」


 深く肉に食い込んだそれは一瞬の驚きの後、強烈な痛みを感じさせてくれた。


 痛い、右腕を少しも動かしたくない。

 こういう時は矢をすぐ抜いたほうがいいのか?

 止血をしなきゃ! 毒があるんじゃないか!?

 敵から目を離すな!


 矢に射られたことをきっかけに、いくつもの選択肢が頭に浮かぶ。

 浮かぶだけ浮かんでどれから手をつけたらいいのかわからない。

 息を荒くし体中に冷や汗をかくことしかできない。


 少し冷静になれば何も問題なく順番に対処できただろう。

 でも、この時は無理だった。


 ギギギィッ


「もう一発!」


 目を離していてもわかる。次の用意をしている。

 弓を見ずに伏せ、それは辛うじて避けることが出来た。

 だが、何よりも回避を優先したせいで、肩に刺さった矢を下にして地面に伏せてしまい傷口が広がる。


「つぅ…………いってえよ! バカ野郎!」


 急いで立ち上がり、痛みの苦しみを矢へぶつける。

 一息に引っこ抜いて矢を地面に叩きつけた。


 ギッギギギッ


 矢を抜いたけど右手は痛い。ムカつく。

 また矢を射ろうとしてやがる。ムカつく。

 ボスの癖に無言で攻撃してきた。ムカつく。


 弓が引き絞られる。

 大丈夫よけられる。

 弓を睨んで射出を待つ。


 ヒュッ!


 矢が飛んだ! それと同時に弓へ向かって走り出す。

 向こうの早さを考えたら、俺が反応した次の瞬間には刺さっているだろう。

 だから走り出す一歩目で思い切り体を左に捻った。


 体の脇を矢が抜けていく。

 体を戻す反動を勢いにし走りを加速させる。


 俺は弓へまっすぐ走り寄る。持ってきた剣はさっきので落とした。

 剣の材料は体の右側にしまってあり、左手で取るには少しもたつく。


 ギギギッ


 材料なんていらない。

 剣はこの世界に来てから何百回何千回と作った。


 ヒュッ!


 また矢が飛んできたが、それまでより外に一歩広く歩幅を広げる事によって避ける。

 一定のリズムで射たれ続けたせいで流石に覚えた。


「ブレード!」


 弓を手の届く範囲に捉え、名前を呼んで左手に剣を作る。

 素材を使っていないせいか。それとも普段使わない左手で作ったせいか。

 いつもより情けない感触だがそれでも剣は出来た。


「おりゃああああああああ!」


 パキッ!


 手応えは充分有った。

 弓は矢をつがえたまま二つに分かれる。


「よしっ! ……いてえよバカ野郎。ったく」


 剣は弓を切ると溶けて無くなってしまった。

 芯が無いせいで効果時間が短いんだろう。


 ひとまずこれで終わりだといいけど。それとも次がすぐ来るのだろうか。

 離れて傷を確認するか? でも、もしまた遠距離で射たれたら嫌だ。


 俺は安全そうな場所で怪我を見たいというのと、

 遠距離が怖いから並んだ武器から離れたくない、

 その二つの気持ちの折衷案として、武器列の一番端に並んで怪我を見ることにした。


「剣が多いな。これ全部襲ってくるなんて無いよな」


 並んだ武器は俺でも知っている有名ジャンルの物や、用途もなにも分からない異世界感満載のものまで色々と有った。


 大きな板としか思えない謎の物の影に隠れ、俺は肩の傷を確認した。

 素材を使い小さな剣を作り、着ているシャツを破る。

 さっき矢を抜くときは怒りでよく見ていなかったが、矢尻は特殊な形状をしていたようで、俺の肩の肉がかなり抉られていた。


「うあっよくこれで泣かなかったよ俺。可哀想すぎる」


 そりゃ腕も動かねえよ。骨見えかけてるぞ。

 取っておいた緑の薬を傷口に垂らす。

 これで治るだろう。


 ヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッ


 落ち着こうとゆっくりと深呼吸をしているとまた何か音が聞こえる。

 重りの付いた紐を振り回すときに出るような風切り音。


 俺はそうっと板の影から顔を出して音の正体を調べた。


「いやーはしゃぎすぎだろ……」


 音の正体は玉座から立ち上がった鎧が鎖の付いた鉄球を振り回す音だった。

 鉄球が重いのか鎧の移動スピードは遅いが俺の方に近づいてきている。


 ────────────

 虚ろう魂の騎士団

 ダンジョンボス 狂った血染めの鎧


 力のために勝利を与え続けた鎧の成れの果て。

 勝利の代償は魂と誇り。

 ────────────




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