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 ポーションはさっき作った熱くない炎のやつでいいかな。

 瓶を左手に持ってポーションの素材を入れる。

 素材は何でもいいのでさっき拾ったゴーレムのパーツ。


 カランッ


 入れたら目を閉じて完成像をイメージする。

 炎はあんまり大きな物じゃなくて良いけど熱さは無し。注文はそれだけ。

 魔力を込めて軽く瓶を振る。


 カラカラというパーツが瓶にぶつかる音が徐々に小さくなり、シュワシュワと鳴り出す。

 よし、これで終わりだろう。

 俺は振るのをやめてじいさんに見せた。


「できたけど出します?」

「うむ。見せてくれ」


 念のためじいさんに少し離れてもらい俺は床にポーションを垂らす。

 ポタッポタッ……シュボッ!

 溶けたロウの様に赤いポーションが数滴落ち、そこに手のひら大の炎が出来る。


 手のひらを近づけても熱くはない。成功だ。


「どうですか?」

「……熱くないな」

「まあ熱くないよう作ったんで」

「これでどうやって貴様は戦うんじゃ?」


 しばらく火に手をかざしてから呆れた顔でじいさんが聞いてくる。


「これは使わないんじゃないっすかね?」


 暗闇だったら明かりになるだろうけど、直接戦闘でダメージ与えられるわけじゃないし。


「馬鹿たれ! ワシは力を見せろといったんじゃ! 奇麗な照明を作れとは言っとらん!」

「いやー危なくないようにってやったんですがね」


「ワシに当てずにできる限り強いのを出してみろ」

「わがままっすね。……じゃあ」


 今度はできるだけ強いのを出してビビらせてやる。

 俺は今使った瓶をしまい、最後の空瓶を出す。


 強いポーションを作るんだから材料も沢山入れてやれ。帰る前にもらえばいいんだし。

 瓶がそれで埋まるくらいネジや歯車を詰めて栓をする。


 想像しろ強い爆発。……あのジャングルで龍を倒したものよりももっと強い爆発。

 カラフルさなんて要らない。持続性もいらない。一瞬で全部吹き飛ばす爆発だ。


 瓶を両手で持ち魔力を集中させる。

 あの時は魔力がなくて龍自身の魔力を使ったけど今ならあれに近いものが作れるんじゃないか。


 魔力を流し、ゆっくり瓶を振る。

 最初は中身が詰まっていて動かなかったが、少しずつ中身が回りだす。

 目を閉じて魔力注入に集中しているが材料が溶け始めたのが音と感触でわかる。


 いつも剣やポーションを作るときは一瞬で魔力を入れ終わるが今回は意識して、長く多く注ぐ。

 トクントクンと鼓動と一緒に魔力が流れ出る。

 今まで気づかなかったが、自分からポーションへ魔力が流れる際に時々小さな引っかかりがある。


 そこまではすーっと入っていくのだが一瞬受け取りを拒否される感じ。

 たぶんそれはポーションの威力レベルを上げる弁のような物で、そこを突き破る魔力がないとより強いポーションにならないんだと思う。


 普段は気にしていない威力の強さを意識したことによってそれが見えてきたんだろう。


 トクントクントクン。

 その弁を破る感覚が気持ちよく、どこまでも魔力を注ぎ続ける。

 ドクンッ! ドクンッ! 破らなきゃいけない弁がどんどん厚くなっていく。

 ここを破ればきっとあの時以上の物が──


「やめい!」

「っ!? っはぁっはぁ……急に大声出さないでくれよ。びっくりするだろ」


 後少しで最後の壁を超えられる。そう直感しラストスパートをかけようとした瞬間。

 じいさんが怒鳴りながら俺を杖で叩いてきた。


「貴様。どこまで魔力を使う気じゃ。死ぬ気か!」

「どこまでって強いポーションを作ろうとしただけだろ? 大丈夫、あんたに攻撃するわけじゃないから」


 険しい顔をしながら俺を見下ろすじいさん。


「そうではない。まったく、立つことすらできぬほど魔力を使いおって。その次は心臓が止まるぞ」

「え?」


 そういえばじいさんの顔が上にある。俺はいつの間にか座り込んでいたのか。

 いやそれは今杖で殴られたから転んだだけだ。転ばせた言い訳に勝手に転んだと言っているんだろう。

 俺はじいさんが伸ばした手を借りて立とうとした。


「あれ? 立てない」


 立とうとしているのに腕にも足にも力が入らない。

 体は動くのに力が全く入らない。


「ほれ、先にまたこれを飲め」


 立てない俺を見かねたじいさんがまたあの黄色い飲み物をくれた。

 蓋を外すのにも苦労しながらそれを飲み、少し休んでから立ち上がる。


「ありがとう。まさか立てなくなるなんて思わなかった」

「まったく。己の限度を見極めるのは初歩の初歩じゃぞ? どういう教わり方をされておったんだ」


「ああ今度から気をつけるよ。それより今作ってたポーションは?」

「これじゃ。落として割る前に預かっといた。それにしても驚いた魔力だ。これが即興で出来たものとは」


 じいさんが瓶をを光にかざす。

 今回作ったポーションは透き通った薄い赤色だった。


「持っててくれたんだ。どうだ? 凄いだろ」

「ああ凄い。だが」

「だが?」


「これはポーションではない!」


 キリッとした顔でじいさんが言う。


「ええ!? ポーションだって! いつも作ってるのと一緒だし」

「これは魔法を瓶に閉じ込めただけの物。そもそもポーションとは素材を吟味し調合表を考え計算で作る。これのように素材に魔力を与えて変化させただけの物とは違う!」


「じゃあなんなんだよ。俺それがポーションだって言われて教わったんだけど」

「貴様どんなヘンテコな師を持ったのだ。耐魔力瓶の中で魔法を作るなぞ非効率すぎて思いもつかんわ。瓶を使わずに同じものを作るなら消費魔力は半分以下で出来るだろう」

「でも俺それしか知りませんよ。瓶なしなんて無理っす」


「そうだな、物のついでだ。一つ享受してやろう。簡単な覚え方は……そうだ! 魔法に名前をつけろ」

「名前を? 例えば火の玉ならファイアーボールとかそういう系?」


 魔法を教えてくれるとかなんだかワクワクしてきた。


「そうだ。だが、あんまりありふれ過ぎてはダメだ。その名で自分の術が咄嗟に出てこんからな。出来るだけ捻れ」

「うーん。今考えろって言われてもすぐには思いつかないから今はファイアーボールでいいや」


「うむ。なら次に媒体を手に持ち、お前のファイアーボールがどういうものか考えろ」


 俺だけのファイアーボール。目を閉じてイメージする。

 丸い炎が糸を引くように尻尾を伸ばして敵に飛んでいく感じがいいな。


「よし、魔力が動き出した。口に出して唱えてみろ」

「ファイアーボール!」


 シュゥゥゥ……ボウ!


 術名を唱えると掌に直接炎の弾が出現した。

 それを投げると、想像通りの機動でまっすぐ飛び、爆散する。


 おお! 俺魔法使いみたい!

 剣やポーションって地味ですごいことをしてるって実感持てなかったんだよな。


「ふむ。基礎が出来ていた分習得も早いな。今度はイメージなしに術名だけを唱えろ」

「おう! ファイアーボール!」


 術名を呼ぶとたった今投げたものと全く同じものが掌に作られた。

 すげえ! すげえ!


「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」

「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」「ファイアーボール!」


 うおおおおおお! すげえ!


「馬鹿もん! 調子に乗って無駄使いするな!」

「あっゴメンなさい」


 自分の意思で魔法がポンポン撃てるのが楽しく、つい連発していたら怒られてしまった。


「これが最後の魔力液だぞ飲め。ボスまで案内してやる」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 飲み物を俺に渡してじいさんは部屋から出て行く。

 俺もそれを一気に飲んで後ろを追いかけた。


「まあ、話しは通じる奴だ。死にそうになったら迷わず命乞いしろ」


 大きな門の前でじいさんが最後のアドバイスをくれる。


「はい! 頑張って倒します!」

「無茶をするなと言ってるのだ。……まったく貴様は。まあ魔力的には良いところまで行けるだろう。後は貴様の戦闘感しだいだ」


 呆れた様に苦笑いをし、じいさんは部屋へと戻っていった。

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