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「おめえら! うるせえぞ! 何騒いでやがる!!!」
俺がたくさんの先輩方に囲まれ絡まれていると、ダァンッ! と爆薬が破裂したような音が店内に響いた。
騒いでいた先輩達も、俺も、音の出処を見る。すると皆の視線の先には立ち上がった監督。
その前のテーブル上にはひっくり返ったタルの様な杯。
今の音は監督がテーブルを叩いた音らしい。
そして立ち上がった監督は、肉や酒で汚れた口元を素手で拭いドスドスと歩いてくる。
足取りからしてもうかなり酔ってそうだ。通常でも茹でタコみたいな赤い肌も酒でますます赤くなってる、今にも光って爆発しそう。
監督は酒を大量に飲むくせに酔いが回るのは早いという一番面倒なタイプ。
俺の近くまで来ると「おうどけどけ」と先輩方の厚い壁を手で排除しすぐ後ろまで来た。
すると、すかさずスケルトン先輩が信じられないとでも言いたげな口調で監督へ俺とダンジョンのことを告げる。
「いや監督聞いてくれよ。このクロウ、仕事以外でダンジョンに行ったことねえとか言いやがるんだ」
「……いや監督、そこまで馬鹿にされることなんですか?」
「当たり前だろ!」「馬鹿だよ馬鹿」「隠居したジジイだな」「……退屈な人生だな」
「いや言いすぎでしょ皆さん……」
俺はちょっとむっとしながら先輩達と会話した。
なんで危険なことを自分から進んでしなきゃダメなんだよ。
安定した生活を送れてるんだから、わざわざ危ないことをしないなんて人として当たり前だろ。
……ああこの人たちは人じゃないか。
「クロウッ!」
「あっはい」
納得していない感じを前面に出して先輩たちのガヤを聞いていると、ずっと黙っていた監督が急に大きな声をだした。
「お前。明日から来なくていいぞ」
「──え? どこにですか?」
「仕事場、にだ。お前ら。明日もしコイツが現場に顔出しても追い返せ。わかったな!!!」
「「「「「はーーい監督」」」」
「なら散れ! さっさと飯食っちまえ」
俺は監督が何を言っているのかわからず呆然としていたが、周りの先輩たちは元気に返事をし、それで話は終わったと言わんばかりに自分の席へと度っていく。
ほぼ全員がなぜか同情した感じに俺の肩をポンと叩いていった。
なんだこいつら。素直すぎだろ。
というか今何を言われた? まさか、ダンジョンを攻略しに行ったことがないだけでクビ?
じゃあ明日からの生活どうすりゃいいんだよ。馬鹿なんじゃねえのこいつらって。
「……先輩、俺クビなんですか? こんなことで?」
「ああ? なんだよ首って。お前の首は外れんのか? 俺でも首と胴は繋がってないとまずいぞ」
「いやそんな冗談じゃなくって。今監督が来なくていいって」
「……? ああ、仕事場にな。お前どっか違うとこに連れてかれるぞ! きっと怖い場所だ! ご愁傷様」
そう言うと先輩は意地の悪い感じにケケッと笑って酒の残りを飲み干した。
先輩は監督が言ったことの意味が分かったらしい。
クビでは無いがどこかに連れて行かれる? つまり研修みたいなものか?
「うーん。じゃあ監督にどこに行けばいいか聞いといた方がいいんですかね」
「ダメダメ。今聞いても酔っててまともに教えてくれねえよ。来なくて良いって監督が言ったんだ、家で待ってな」
「……もし迎えに来てくれなかったら?」
「あーそんときゃ……諦めろ。まあきっと大丈夫だって」
「なんか不安なんですが。──あっじゃあ明日監督が現場に行ったら先輩から声かけてくださいよ。一応
「ん? ああそれくらいならいいぞ。まあ多分死ぬことはないだろうし気楽に待ってろよ。おっ! もし死んでもアンデッドは需要高いし任せとけよな!」
「……何をっすか。任せませんよ。俺が死んだらそのまま復活できないように火葬にしてください。いや死にませんけど」
この人たちの常識は普通の人間とはかなりずれてるから安心とか大丈夫とか言われても全く信じられない。
どこに連れて行かれるのか不安だ。
俺はすっかり冷めたドラゴンの肉を食べながら、全く先の分からない状況に少し不安を感じていた。