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「ぅえ……中途半端に美味しいのがムカつく」
黄色のドリンクは、ぬるくて喉に張り付くドロドロさで砂糖をたっぷり入れた甘い味だった。
不味いなら不味いで開き直ってくれればいいのに、半端に味を整えてるせいで後味が残って口の中が気持ち悪い。
「……本当に平気なのか? 体はなんともないか?」
「え? ああ。……うーん? 少しスッキリしたかな」
ゴーレムのあれからずっと冷えていた体が温かくなってきた気もする。
怖いことを言っていたが、本当は新陳代謝をあげる漢方だったのかな?
「ふーむ、信じられん。本当に魔力が増えておる」
俺が気持ち悪さに顔をしかめていると、じいさんが近づいて来た。
じいさんは手に持った虫眼鏡の様な物で俺の体を調べ始める。
「じゃあ案内してくれるんすか?」
じいさんに色々チェックされながらボス部屋の場所を聞く。
だが、じいさんは顔を上げず首だけ振る。
「いや、それはまだダメだ! 次は貴様の力を見せてみろ」
まだダメなのかよ。わがままだな。
力を見せろと言われても何をすればいいんだ?
……ああ。見た目がこうだから忘れてたけどこのじいさんも魔物か。
「まあいいけど。じゃあじいさんに攻撃すればいいんすか? 怪我しないでくださいよ?」
弱そうなじいさんだけど体は頑丈なんだろうな。
俺が剣を作る材料にならないかとゴーレム見に行こうとしたら、じいさんは慌てて俺の手を引っ張った。
「ま、まて! 馬鹿たれが! ワシを攻撃して何が分かる!」
「じゃあ何をしろって言うんです? ポーションは瓶が貴重なんで無害そうなじいさんに使いたく無いんすけど」
「まずワシを攻撃するということは忘れろ! ごほん。そうだな、まず貴様の武器を見せろ。見せるだけだぞ! 攻撃するな!」
「じゃあやっぱり剣を作らないと。そのゴーレム使ってもいいっすよね?」
「うむ。直して暴れさせなければ何をしてもいいぞ」
「はーぁいっと」
剣にするだけだからできるだけ小さなパーツがいいな。
ゴーレムは落下の衝撃のせいか体表が割れ、て中の歯車などが露出していた。
これならいくらでも使えそうなパーツがありそうだ。
「ちょっと多めにもらっていこうかな。ん? この腕どこかで見たような?」
パーツや装甲を集めているとゴーレムの腕が気になった。
体のサイズに不釣合いな大きさの腕だ。
でも俺がこいつと落ちてきたとき周りは暗闇だったし体も腕も見てないよな。
じゃあどこで見たんだろうか。
この大きくて俺を軽く摘めそうな手……。
「ああ! こいつ襲ってきたやつか!? 体を水に沈めて手だけ伸ばすとかどんだけ変な体勢してたんだよ」
「こいつは1階のゴーレムと同系統の物だな。フロアボスにした奴も有るというのに。真面目に侵入者の迎撃もせず怠けて乗っ取られた奴がおったとは。情けない」
俺の横に並んだじいさんがゴーレムを見て言った。
「ボス? こいつが?」
「同系統と言っただろ。ボスは他の同型よりも攻撃性を上げておる。乗っ取られる前に貴様など殺されてしまうぞ」
「そう言われると確かに攻撃は避けやすかったかも」
ノロノロと橋を壊してただけだしな。
「まあいい。それよりも欲しいものは取れたか? さっさと見せんか」
「はいはい。十分貰ったよ」
俺は歯車の一つを手に持ち、それに魔力を纏わせ剣を作った。
さっきの飲み物が効いているのか、生成はなかなかのスピードで出来た。
「ふーむ、魔力をそのまま結晶化させておるのか? なかなかの密度だ。うむ。それで?」
「それで? ん?」
「まさかなんの属性もない剣を作るだけでは無いだろ。他を見せんか」
俺が剣を作るとじいさんは、それを叩いたり虫眼鏡で見たりしてチェックした。
剣を裏表何度もひっくり返し、刃の鋭さを測ったりしたあとじいさんは「ふぅーー」と息を吐いて他を見せろと要求してくる。
「いや、剣はこれだけだけど」
「ほーそこまで剣に自身があるのか!? あっ! 貴様さっきポーションがあるとか言っておったろ。それも見せろ。ほら見せろ!」
「ええ、ポーションは瓶が勿体ないからやなんすけど」
「うるさいっ早く見せろんか!」
なんでこんなにムキになってるんだこの人。
いつ作ってもだいたいこんなものの剣と違って、ポーションは完全に気分だから今見ても仕方ないと思うんだが。
「というかなんで見たがるんすか? 侵入者の俺に優しくする意味なんて無いだろうし弱点探しっすか?」
俺は体を揺すりながら催促してくるじいさんにイラついて少し刺のある言い方をしてしまう。
「──なんだと! 今貴様なんと言った!」
すると、今まで楽しそうに俺を調べていたじいさんが怒り出した。
「弱点を探してるんじゃないのかっていったんすけど?」
「貴様! ここをどこだと思っている! 無礼にも程があるぞ! ダンジョンというのは挑戦者が試行錯誤を繰り返し突破するもの。仕掛けた側がただの一個人に対策などとるか!!!」
「そうなんすか。はいはいゴメンなさいっす。じゃあなんでなんすか? 流石に知らない人にやれること全部なんて見せられないっすよ」
「……貴様が死ぬからだと言っただろ。そもそも貴様はダンジョン攻略を舐めておるのか。装備も防具も無しで乗り込んでくる奴がおるか!」
「なんで心配してくれるんすか? じいさんこのダンジョンの人でしょ」
「別にワシはあれが誰に負けようが興味がないだけだ。それに貴様は数十年ぶりにここまで来た人間だ、つまらん奴よりも手を貸したくなるのは誰だって当然じゃろ」
「………………じゃあ。一回だけっすよ」
俺は残り少ない瓶を持ち、比較的被害の少なそうなポーションをつくり始めた。




