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「……ん、んん? っうわ、まぶしい」


 俺は眩しい部屋の中で目覚めた。

 どれだけ続くか分からないフリーフォールの中でいつの間にか意識が飛んでいたらしい。

 何がどうなったか知らないが体がすごく痛い。だがまあそれは生きているだけ幸運だったと思おう。


 それにしてもこの部屋はなんだろう。照明の設定狂ってないか?

 このダンジョンはずっと暗い部屋だけが続いていたろ。

 闇に慣れたせいで眩しくてしかたがない。


「ああ、やっと見えてきた」


 目を細めると少しだけ景色が見えた。

 ダンジョン内とは思えない清潔感のある部屋に近代的な機械が複数並んでいる。

 俺はガラクタの山を背中にして床に転がっていた。


「おい貴様。貴様だ貴様。こっちを見ろ」

「ん?」


 男の声がして部屋の中を探すと、隅の方に小柄な人が居た。

 その男はしゃがれた声をしていて、見た目も老人のようだった。

 俺が声に気づくとその男はトコトコと歩いて近づいてくる。


「おい貴様。どうしてくれるんだこれは。最近の若いものには常識というものが無いのか?」

「え? ああごめんなさい」


 じいさんはなんだかすごく怒っているようだ。

 杖を振り振りつばを撒き散らしている。

 俺はとりあえず謝った。


「貴様、何でワシが怒っているのかわかっているのか?」


 ごめんと言った俺に杖を突きつけ、じいさんが問うてくる。

 うーんなんだろう。ダンジョンに来たことかな?


「いや。わかんないです」

「馬鹿者! 理解もせずにする謝罪が有るか! 心もこもっていない謝罪で真の反省が出来るか!」


 あっこの人めんどうなタイプのじいさんだ。

 相手にするのも疲れそう。


「ええ、じゃあ反省するから何で怒ってるか教えてくれないっすか」

「そうだ。そうやって分からねば最初から聞くものだ」

「はいはい、それで何で怒ってるんですか?」


 グイグイ押し付けられる杖が顔にあたる。

 堅い杖が何度も当たるのは地味に痛いので俺は手で掴んで抑えようとした。

 だがじいさんは俺の手をヒョイっとよけて杖で天井を指す。


「まず一つ目だ。上を見ろ」

「上? ああ風通しよさそうな穴がありますね。おしゃれな」


 言われたままに上を向くとかなりの高さまで突き抜けた大穴が開いていた。

 上は見えなくないくらい遠い。


「おしゃれじゃないわい! ワシがこのダンジョンを任され幾星霜。秩序を保って大事に守って来たというのに大穴開けおって」

「えー俺そんなことできないです。濡れ衣っす」


 穴を開けたって言われても思い当たることが……あるな。

 さっきの爆発ってこんなに深くまで穴空けたのか。

 よく生きてるな俺。


「やかましい! ワシは見てたぞ。貴様が後ろのゴーレムと一緒に天井をブチ抜いて落っこちてきたのを!」

「ゴーレム? あー言われてみたら腕とかありますね」


 後ろのガラクタをよく見ると人の形を模した腕や足らしきパーツが有った。

 どこかで見たような腕とコアもある気がする。


「まったく。どこからゴーレムなぞ出したんだ。ゴーレムに頼るなとは言わん。だがちゃんとダンジョンにあったサイズの物を使うのがマナーじゃろ!」

「いや、これはここの水の底に沈んでた奴で俺が持ってきた物じゃないっす」


 穴を開けたのは俺を乗せたゴーレムかもしれないがこれはここに有ったものだ。

 しかも命令をアバウトに聞いて大穴を開けたのもこいつの判断。

 なら俺の責任は薄くないか。


「嘘をつくでない! ダンジョン内に配備してあるゴーレムは全部稼働させてある。再起動させたとでも言うのか? 嘘でももっとマシなことを言え」

「ホントですって。なんか俺、魔力吸われて。それで命令しろってこいつが言ってきたんです」

「貴様、ワシを馬鹿にしてるのか? 人がゴーレム起動用の魔力を吸われたら死んでしまうわ」


 いやそんなことを言われても。実際吸われたし。

 というか魔力吸われて死ぬならゴーレムってどうやって作ってるんだよ。

 作るとき製作者が魔力使うんじゃないのか。


「本当なんだけどなあ」

「……わかった。じゃあ貴様が本当のことを言っているならこの薬を飲んで見せろ」


 じいさんが濁った黄色の飲み物を持ってきた。

 繊維の入った野菜ジュースみたいなドロドロさ。


「なんすかこれ。体に悪そうだし飲みたくないんですけど」

「メンテナンスに使う魔力液だ。ゴーレムの起動用にも使う。普通の人間が飲めば爆発し、死ぬがゴーレムのそれに耐えられるなら魔力回復薬にしかならん」


「下手したら爆発って。なんでそんなの飲まなきゃダメなんすか。それなら信じて貰わなくていいんですけど」

「やっぱり嘘だったんだな! 嘘つき小僧め」


「ほんとうです! ……まあいいや。俺もうこのダンジョンから出たいんですけどボスがどこか教えてくれません?」

「……! 出るためにここに来たのかお前。やりすぎて落っこちてきたんじゃなく」


 怒っていたじいさんが急に驚く。

 ダンジョンの奥の方まで来たんだからそれ目的って分かりそうなんだけど。


「ええ。ちょっと約束があるんです」

「少し遠いが入口まで戻してやることもできるぞ?」

「いえ普通の出口の方で大丈夫です」


 じいさんの嬉しい提案を俺は手を振って断った。

 ダンジョンのボスを倒して攻略するって約束したし。


「…………なら尚更これを飲め。そうでなきゃ案内はできん」

「だからなんで──」

「どっちだ! 飲むのか飲まないのか」

「じゃあ飲みます」


 口調はキツイが怒っている感じではない。

 なんだろう。何が目的なんだ? 心配してくれているのかな。

 まあ飲まなきゃ連れてってくれないというなら飲むけど。


 俺はじいさんから飲み物を受け取って一気にあおった。


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