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「……はぁ。終わったのか?」
指揮官の魔物を切ると残りの魔物たちも全て破裂し元の水たまりに戻った。
体のあちこちが痛い。きっと今の爆発で軽くはない傷を負ったのだろう。
できれば一度、安心出来るところで傷を確認したかった。
「よし、もう終わったな。……もう出てこないでくれよ?」
俺はなんどか振り返りながら宝箱の有った小部屋に戻った。
まだ燃えている剣を松明代りに壁に立て掛け、宝箱の上に座る。
「ぅえっ」
まずじくじくと痛む足を見ようと、ズボンの裾をそうっと捲ってみる。するとズボンに大穴が空いて右の足首に太いガラス片が食い込んでいた。
俺は今日もサキの服を借りていたのだが、流石にダンジョンで汚すのはまずいと思ってここに入る前にさっき買った服に着替えていた。
買ったばかりの服がもうボロボロだ。
いくら安物と言っても俺は金がない。
大事な金で買った服がすぐボロボロになってしまって少し悲しい。
「っつう……」
大きな破片以外にも足には小さい破片がいくつも刺さっていて、それを抜く度つい声を出してしまう。
片足からガラス片を抜くだけで足も手も血だらけだ。
まだ逆の足と体に刺さった物もあるってのに。
放っておいても痛いし抜くのも痛いしもう嫌だ。
はぁ……誰か迎えに来てくんねえかな。
それからしばらく、俺は宝箱の上に座り痛みで泣きそうになるのをこらえながら、両足と体に刺さった破片を抜く作業をした。
あいつら無駄に瓶を投げやがって……めちゃくちゃな数の破片が刺さってたぞ。
俺は足元のガラスの山を恨みを込めて睨む。
「とりあえずたぶん刺さったのは取れたか。まあ有っても無くても痛いのは変わらないからもういいわ」
全ての破片を取り終え、これからどうするか考える。
足の怪我は右足の方が酷い。普通に歩くことも難しいかもしれない。
剣を杖にして歩けば右の負担を減らせるかもしれないが、左も右ほどではないというだけで、重傷には変わりない。
服を切り包帯にして足に巻いても根本的な解決にはならないだろう。
この宝箱に入っていた緑色の液体を回復薬と信じて使う?
色はメロンソーダっぽい美味しそうな色だけど、箱に入れてあった物を飲んだりかけたりするのはちょっとためらう。
なら自分で回復ポーションを作ってみるのはどうだろう。
でもヒーリング系のポーションって作ったことないんだよなあ。
下手したら爆発して今以上の状態になりかねない。
うーん悩む。
完全に中身の分からない回復薬っぽい色の液体か、もしかしたら自爆するかもしれない自分で作るポーション。
どっちに頼るべきか。
どっちも嫌でもどっちかはやらないとどうしようもない。
俺は散々悩んで緑色の液体にかけることにした。
こんな宝箱に入った薬だ、絶対役立つ物に決まってる。そうだろ? そうだよ! そうに決まってる。
キュポン!
無理やり自分を鼓舞し、更に一度深呼吸をしてから緑色の薬が入った瓶の蓋を外す。
薬は蒸された草の匂いがした。
思ったよりも優しそうな香りだ。これはもしかして本気でいけるやつか。
次はこれを飲むのか塗るのかだが。
……飲むのはないな。
まず傷が浅い所にでもかけるか。
最悪大事になっても大丈夫な部位……手の指先か?
大怪我を負っている足は無いし、腹や顔にほんの少しだけかけるのは難しい。
体からなるべく遠くに腕を伸ばし、その指先に数滴薬を垂らす。
ジュゥゥゥゥゥゥッ
なんだなんだ!? 体が出しちゃいけない音出てるぞ。
かかった指先から煙も昇ってる。
でも、痛くない。傷は絶対有るはずなのに滲みる痛みもない。
「治ってる……おお! 治った!」
何が起こるのかじっと指先を見つめていると、指先にあった小さな傷がすっと塞がっていった。
本当に回復の薬ってあるんだな。
気配りの出来るいいダンジョンだ。
「じゃあ他も治しちゃうか」
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!
瓶一本を使い切るつもりで足や腹に薬を塗りたくる。
見るも無残な状態だった真っ赤になった足がみるみる治っていく。
回復薬を一つ使い切る頃にはすっかり立ち上がれる様になっていた。
これがもう一個あるんだから下に来たかいはあったな。
俺は一度大きく伸びをして、宝箱の上から立ち上がった。
「おっと」
元気よく立ち上がったせいかくらりと体がふらつく。
さっきので思ったよりも体力を使ったのかな。
少し気になったが準備運動をしている内にそれもすっかり忘れていた。
俺はその後少し地面に横になって休憩してから、緩やかな上り坂を登りエントランスホールに戻った。
次はこっちの正面通路か。俺は入口正面の道を見た。
下が違ったんだから、ここに来て最初の攻撃をしてきた奴はこっちにいるはず。
あれはとても早かった。
そういうものが有ると分かった上で今行っても避けることは難しいかもしれない。
対処法なんてわかんないが一度行ってみるか。
なんたってこっちには回復薬があるんだ。生きてさえいれば何があっても大丈夫だろ。




