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たまにふざけたことをしてる奴も居るけど、基本的には全員まっすぐ俺を攻撃してくる。
攻撃が隙だらけなので一体ずつ削るのは楽かと思ったんだが、こいつら元が水のせいか体を切っても手応えが全くない。
剣を受け止められることは良いことなのか悪いことなのか。
『クラエッ!』
「っち」
ッキーーーン
斬りかかってきた一体の攻撃を受け止め、一度肘を曲げてクッションにしてから強く弾く。
俺に今出来る対処は突っ込んできた奴の剣をこうやって遠くに弾き飛ばすことだけ。
そうするとこいつらは自分の剣を拾いに離れて行く。
数を考えたら大した休み時間にもならないけど一息くらいつける。
『ウオオオオオオオオ! ダンジョンデ! カツヤクシテ! モテマクリダアアアアアアアア』
「ああクソ!」
途中途中に小休止が入るからまだ体に余裕は有るがこの声だけは無理だ。
つるんとした卵みたいな顔の奴に声真似をされることがこんなにムカつくなんて知らなかった。
『オレガ! コノセカイヲ! マモノカラスクウ!』
「だから真似はちゃんと言葉の内容も真似しろよ!」
なんでそんなにヒーローっぽいセリフばっかり選ぶんだこいつら。
『オレ、モウネル!』
『マジメニタタカエ!』
『ツカレタンダ。ネサセロ!』
気持ち強めに剣を遠くに飛ばし、息を整えながら周りを見ると、遠くには普通に会話をしている奴らもいた。
俺の形をした魔物同士がごちゃごちゃ押し合いをしている。
トプントプンとお互いの体を突き抜け合う不毛な相撲は、片方が水たまりに戻ることで終了した。
ん? 今疲れたとか言ってたか?
こいつらにも体力はあるのか。
『ホロビロ! マモノ、メエエエエエエ!』
「うぜえ」
また一本剣を飛ばし、俺はニヤリと笑う。
少しは勝機が見えたな。つまりは犬のボール投げの要領で遠くに走らせて疲れさせりゃいいってことだろ。
「ほらどんどんかかってこい!」
『………………ドウスル?』『………………ダメダ』
『……オマエイケ』『オマエガイケ!』『ツウジョウセン。フリ!』
『フリ!』『フリ!』『フリ!』『フリ!』『フリ!』『フリ!』
「あん? どうしたんだこいつら」
俺が剣でホームラン予告をすると魔物達は向かってくることをやめ、円陣をくんだ。
一応小声で喋っているみたいだが元々嫌に響く声なので全部俺まで聞こえている。
せっかく相手をしようって気になってきたのに。
俺の顔を貼り付けた奴が指揮官らしい。
そういえばあいつは最初に斬りかかってきた事以外はずっと奥にいたな。
『ムノウジョウシ!』『モンクアルヤツ。アンヲダセ!』
『……トオクカラ、ウテバイイ!』『トオク?』『コレダ!』
「なにして……あっやべえ」
作戦会議をしていた魔物達の一体が右手を高く上げた。
残りの魔物と俺の視線がそれに集中する。
そいつが持っていた物は、俺が腰にぶら下げているポーション瓶だった。
もしかしてあいつらポーションも作れるのか?
毎回どんな効果になるか俺もよくわかんないんだぞ。
魔物がつくったらもっと予想ができなくなる。
剣と同じならあれも攻撃できるはず。
今のうちに割らないと。
パシャパシャパシャッ!
俺は掲げられた瓶を割るために水たまりの真ん中を走り抜けた。
だが、
『オイ! イソイデドコニイクンダ?』
「っえ!?」
水の中から伸びた腕が俺の足を掴んだ。
なんで? こいつら触れないんじゃ……。
『オレゴトヤレェー!!!』
「あっそれ俺が死ぬまでに言いたい奴──」
想定外の事に驚き思考がブレる。
そのせいでつい敵のセリフに反応してしまった。
『ウテッ!』
足下と向こうの集団。どっちを見ていいか分からない。
さ迷った視線に集団の構えるポーション瓶を映った。
さっき見たときは空瓶だったのに既に何かが入ってる。
これ、まずくないか!?
パリンパリンパリン
敵によって投げられ、俺の足元に散らばった割れ瓶。
カラフルな液体が流れ出るのがやけにゆっくりに感じる。
ガッ! ッキィーーーーーン
音が無くなった。
危ないと感じギリギリ両手で顔だけは庇ったがそれでも衝撃は凄まじかった。
目を開けて体の傷を確認するのが恐ろしいくらいだ。
だが、足を掴んでいて手の感触も無くなった。
あいつは俺より近かったんだ水ごと蒸発したな。きっと。
『ナゼウゴケル』『バケモノ』『タエラレタ!?』
「お前らの方が化物だろ。失礼な」
追撃があるかと思ったけど、相手も俺と同じくらい驚いていて何もしてこなかった。
『ウロタエルナ! モウイチドダ!』
『オレ、マリョクツキタ』『オレモ!』『オレモオレモ!』
指揮官がもう一度ポーション投擲を指示するが他の奴の反応は鈍い。
こいつだけ俺の攻撃くらってないよな。あの顔水とはちょっと違うみたいだし攻撃通るんじゃないか?
俺は痛む足に鞭打ち指揮官に近寄り、剣を掲げて顔の真ん中を切った。
『ウソダ……ロ』
『『『『タイチョーーーーー!』』』』
「自分の顔を切るのは嬉しくないな」
顔を切り落とすと、指揮官の体は左右に分かれバチャッと床に落ちた。




