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 いつの間にか笑っていたのか。

 俺は自分の顔を左手で触る。

 でも水面の俺は歯を見せて笑っているが、現実の俺は口も開けていない。


「……? 驚かす仕掛けか?」


 体はそのまま映っているのに顔だけ違う物が嵌められているのか。

 その水溜りに試しに石ころを投げても全部は浸りきらない程度の浅さしかない。

 薄型テレビが床に置いてあるようなもんだな。


 種がわかれば何も怖いことはない。

 水たまりの向こうに何か箱の様な物が見えるしそれを確認したら上に戻ろう。

 俺はその水たまりの端を歩いて部屋を横断することにした。


 チャッチャッチャッ。水を踏む音が小気味よくなる

 そういえばこのノマオに来てから雨を見てないな。


 裾に跳ねる水滴を懐かしく感じながら歩いていると、

 水に隠されるように地面に大きな出っ張りが有った。


「おっと。危ない」


 でもいくら見えなかったとはいえただの出っ張り。

 つま先が一度引っかかっただけで転ぶこともなくそのまま歩いていける。


「うわっ」「えー」「はい」「まただ……」


 部屋の向こうに行くだけなのにやたらと足を取られる。

 まあそりゃ水たまりと簡単なドッキリ要素だけじゃ罠にしても弱いもんな。

 足を引っ掛けるのが有効な罠かは置いておいて。


「……やっとついた」


 時々出っ張りに引っかかり転びそうになりながらも特に問題はなく。

 ズボンはびしょびしょだけど転ぶこともなかった。


「宝箱かこれ? おーちょっとテンション上がるな」


 水浸しの部屋の隣。小さな小部屋の中には大きな箱。

 木材に銀色の飾りの付いた立派な宝箱だ。

 これ中身貰っていいんだよな? そのためにあるんだもんな。


 こういうダンジョンの宝箱ってやっぱりせっせと住人が補充してんのかな。

 宝箱の重い蓋を持ち上げながら、俺はどうでもいい事を疑問に思った。

 持ち帰られたら損するのにお土産を準備して待ってるなんて偉い。


 宝箱の中には緑色の液体が入った瓶が二つに錆びたヤリが一本。

 ヤリはまあ錆びてても使えるが……中身のわからない瓶は怖い。

 傷薬とかだと良いんだけどこれを口にしたり体に塗りたくはないかな。


 期待した分少しがっかりだけどタダで貰ったものだしまあいいか。

 俺は緑の瓶をポーション瓶の横にぶら下げ、ヤリを杖がわりに左手に持ち振り返った。

 じゃあ次は入口正面の通路に行くか。


「…………うわっ」


 水の部屋に戻ると、水たまりから無数の魔物が湧き出ていた。


 大きな水たまりがいくつもの小さい水たまりへ分かれ、その一つから一体の人形ひとがた魔物が現れる。

 その魔物は体も顔も元の水と同じく黒く濁り、表情もない。

 ただ分かるのはどれも身長が俺くらいで片手に全員似たような剣を持っている事だけ。


 数は今で5体。でも大元の水たまりはまだまだ大きい。

 ということはゆっくりしていると相手だけどんどん増えていく。


 走っていけばたぶん避けてエントランスへ戻れそうだけどこいつらが追跡を緩めてくれるかはわからない。

 ヘタをしたらこいつらを引き連れ、奥に進んでいくことになってしまう。


『ゥオリャーーー!』

「っ! もうちょっと待ってくれよ」


 ダメだな俺はいつも判断が遅い。

 行くか戦うか迷っていると一番近くに居た魔物が斬りかかってきた。


 炎のついたままの剣でそれを受けながら、俺はまだ考えていた。

 もし倒すなら逃げ場が無くなっても小部屋の方に集めたほうが楽か?

 数で囲まれるのが今一番嫌だ。


 ……それにしても今の声聞いたことがあるような。


『シネ! マモノナンテ、コノオレサマガホロボシテヤル』

「俺のどこが魔物だよバカ野郎! お前の方が魔物じゃねえか!」」


『オレハ! アクノカンゲン(甘言)ニノルコトハナイ!』

「黙って入ったのが悪なのか? それくらいで怒んじゃねえよ」


 のっぺらぼうのくせにやたら変な言い回しをしやがる。

 声には喜怒哀楽が乗っているが何故か棒読みに聞こえる気味の悪集団だ。

 そんな無機質な声なのに何故か馴染み深い様に思える。


『オレガ、カノジョタチヲシアワセニスル!』

「誰だよ彼女って! お前の恋人なんて知らねえよ!」


 そもそもそんなツルッとしててオスメスの概念があるのか。


 こいつらは剣の腕自体はあまり上手ではないが、一体の相手をしていると別の奴が斬りかかってくる。

 そしてそのどれもが同じ様な声で同じ様なことを喋っている。

 攻撃の前にちゃんと喋ってくれるだけわかりやすくていいけど。


 俺が一体も倒せずに苦戦していると、とうとう大元の水たまりからも魔物が出てきた。

 これで合計十体超え。ヤバイな。


 イチかバチかで大元を狙うか? でも全部同じ格好だし紛れられたらわからん。


『オレハ! ハーレムヲキズク!』

「うるせえな。今度はどいつだって──」


 喋っていたのは大元だった。

 一度目を切ったのにそれが大元だと分かったのには理由がある。

 そいつだけ、つるんとした皮膚に人の顔が貼り付けてあった。


 しかも俺の顔だ。

 部屋に入った時に見たにやけ顔の俺が魔物の群れに一体混ざっている。


 じゃあこいつらも俺のマネか?

 よく見ると手に持っているのは俺の剣から炎を消した物。

 そして腰にポーション瓶まで下げている。


『アクヲ! コノ、ケン! デ、ウチホロボス』

「これのどこが、俺のマネだよ!?」


 斬りかかるでもなく剣を虚空に構えポーズを決める一体の魔物。

 こんなポーズ元の世界でもやったことないぞ。


『シネィ!』

「ちっ! マネだって分かっただけじゃどうしようもないっ」




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