30話 高難易度ダンジョンへ
「いや……むちゃ言わないでくださいよ」
俺は首を振って拒否した。
「ああ? 何がむちゃだ。行ってみてから泣き言いえ」
「だってそうでしょ! ランク9ですよ!? 冒険者だって挑むにはかなりの準備しますし行く時は命懸けですよ」
9のランク帯は一つの世界を支配できるレベルってことで。
一つの世界を支配できるってことはその世界の住人が誰もかなわないってことだぞ。
そんな所に子供のお使い感覚で放り込まれてたまるか。
「別にボス倒せって言ってるんじゃねえんだから良いだろ」
「よーくーなーいーでーす! 自由度の高さが売りのゲームだって序盤に最終ダンジョン入れば即死しますって」
「じゃあ死なないように気をつけろよ。ほらごちゃごちゃ言ってないでさっさといけ」
「そんな、人の命をなんだと思ってるんすか! というか! あんた俺を娘と結婚させたいんでしょ!? だったらもっといたわって!」
「まだヤってもねえんだろ? なら次を探すだけだ。気にすんな」
この人に命の貴さを訴えても無駄なんだろうな。
「次って、一度俺を押し付けてダメだったんだから次はシア本人に選ばせるとかはしないんすか?」
「ガッハッハッ世間知らずなあいつが自分で見つけられるかよ。全部俺が決めてやるのが一番なんだ」
きっと監督は俺が死んだら本当にすぐシアに結婚相手を探すんだろう。
その割り切り方は別に文句をつけることじゃないんだけど。
「……だったら一つ条件があります。それ飲んでくれたら行ってもいいっすよ?」
「おう言ってみろ」
昨日シアに俺が惚れさせるなんて断言しといて翌日死んでちゃ笑えない。
それに、あいつらが他の男の物になるのは腹が立つ。
右手に剣を作り、一度振って迷う自分を切り捨ててからそれを監督に向ける。
「俺がここをクリアしたらもう俺のことも……シアのことも好き勝手しないでください」
監督に俺の力を認めさせることは意味がある。
でもこんなことを何度もされるのは嫌だ。
この状態を許せばいつ他の男を連れてくるかわかったもんじゃない。
「あ? ……ガッハッハッハ! 生きて帰ってくるじゃなくていいのか?」
俺が剣を向けて、監督を呼び捨てにしながらそう宣言すると、大男は一瞬驚いた顔をしたがすぐ大きな声で笑い出した。
笑いながらも目だけはまっすぐ俺を見ている。
「あんたは強い婿が欲しいんだろ。逃げるような奴で十分なのか?」
「クッハハハハ! ああいいぜ。お前がここを無事クリアしたら二度とお前にもシアにも指図はしねえ。このグロウスが約束してやるっハッハハハハハハ」
「絶対だからな」
俺は剣をしまい、両手でダンジョンの扉を押す。
入口の大扉はとても重いが、少しだけ動かすと扉は自動で開いた。
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ダンジョン『虚ろう魂の騎士団』
ランク9 推奨レベル65以上
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ある国に、身につけた者を必ず勝利に導くという神に祝福された光り輝く鎧が有った。
鎧は持ち主を代え、国を代え、いくつもの戦場を渡り歩く。
幾多の戦場で傷を受け、元の色さえ分からなくなるほどの血を浴び、それでもなお鎧は輝きは衰えず、逆にその光を増していった。
ある時代のこと、鎧の周囲である噂が流れ始める。
「その鎧と同じ戦場に立つと幻聴が聞こえる」噂の内容はそういうものだ。
周囲の人間達は怯え、鎧を持っていた男にそれを捨てるよう求めた。
だが、鎧により力と名声を得た男には、その人々の恐怖が自分から鎧を取り上げるための嘘としか思えない。
そして、その男はとうとう最後の瞬間まで鎧を脱ごうとはしなかった。
敵も味方も戦場にいた全ての者を自らの手で討ち取った男。
彼は、その地からうめき声すら途絶えた瞬間、ふっと意識を取り戻し血濡れた剣で自らの首を刎ねた。
数多くの戦士と共に打ち捨てられた鎧。
しかし、噂を聞きつけた盗人が鎧を売りさばこうと屍の山を探し回ったがそれはどこにも有りはしなかった。
鎧は強き魂を求め戦場をさまよう。
己を輝かせる力を持つ勇者を探して。
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ギィィィィィィィッダァン!
俺が扉の隙間を通り中へ入ると音を立てて入口が閉まった。
一応チェックするが扉の内側にはノブや取っては無い。
これで誰かに外から開けてもらうか出口を見つけるまで出ることはできない。
冷たいその扉を撫でながら俺は深呼吸をする。
監督相手に啖呵を切ったはいいがもう心が折れそうだ。
ダンジョン内部には明かりがなく完全な暗闇だ。
この状態でここの住人に襲わないでくれと言っても無駄だろう。
明かりがほしい。
でも持ち物はいつものポーションと剣だけ。
ああそうか、爆発が起こせたんだ。明かりくらい作れるんじゃないか?
俺は壁に背中を預け、片手に剣を構えたまま瓶に魔力を注ぐ。
想像するのは消えないロウソクの火。
ポンッ!
瓶の中で小さな爆発が起きた。
軽く振るとチャポチャポと音がする。小瓶の中がポーションで満たされたようだ。
これで明かりを……これって灯りになるのか?
とりあえず床にこぼしてみるか。
瓶の蓋を取り、床にその液体を垂らす。
すると、ボワァァと床から青白い炎があがった。
「けっこう明るい……良かった──!?」
ヒュンッ!
地面を焦がす炎に安堵し顔を上げると、俺の顔めがけて何かが飛んできた。




