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ドタバタと忙しかった日の翌日。
俺は一人で細々とした日常品や服を買いに来ていた。
家に帰れば何着か服は有るが、昨日監督に壊された物の修繕費を大家から請求されたら嫌なので俺はもうあそこには帰らない。
新しい服と壁の修理費用のどっちが安いかを考えたら当然だ。
保証人とかもいないしそれで迷惑をかける知り合いはいない。
この街は大きさどころか外見もそれぞれ違う魔物達が住む。
なので一口に服屋といってもその店のターゲットとなる範囲の魔物はすごく狭い。
だから一つの店で体型に合った種類の服が安物から高級品まで揃っている。
俺がその内の一つである、小型魔物向け服屋で安い無地の服をまとめ買いしようと見ていた時のこと。
その時、そんなに広くない店内に客は俺ともうひと組しかいなかった。
「おい貴様」
「…………うーん。シャツは多めに買っといたほうがいいよな」
「……おい」
「おっこれ安いのに生地厚いな」
「おい! 貴様だ貴様!」
「ん? あっ俺か? なんだ?」
誰かに声をかけられ、同じシャツをいくつも抱えたまま俺は振り返った。
すると、何故か若い男が俺を睨んでいる。
俺より少し背が低く顔色の悪い男だ。
そいつは高そうな服を着て後ろに従者らしき魔物を二人連れていた。
どこかのダンジョンのお坊ちゃんだろうか。
仕事で金を持っているダンジョンを相手にしていたとはいえ俺個人の知り合いはそう多くない。
こいつにも後ろの奴にも全く見覚えは無かった。
「貴様この店では今俺が買い物をしているのだ。わかっているのか」
「はあ、そうなのか。奇遇だな俺も買い物中だ」
金を持ってそうなのに俺が見てるところに用があるのか。ならどいてやろう。
俺は適当にもう何枚か服を取って別の棚へと移動した。
「どこへ行く! 奥へ行くな!」
「ああ? そっちの棚はまだ見てないんだよ。何回も来るのも面倒だろ全部見させろ」
「見るなと言ってるんだ! 今すぐ出て行け」
「なんでだ? ここお前の店なのか? ただの買い物客だろ」
俺が違う棚を見にいくとそいつは何故か後ろをついて来て、ごちゃごちゃ変なことを言っている
なんでまだ選んでいるのに出て行かなきゃだめなんだ。
「ちょっとお兄さんゴメンな……あんまりもめ事お子さんでくれや」
俺が絡まれていると奥から店員の魔物まで出てきた。
だが現に揉め事を起こされている俺に言うのはおかしくないか。
納得できなかったが店員がやたらと頭を下げてくるので今持っている物だけ買って店から出た。
まあそれなりの量を買えたからいいか。
服の入った袋を片手に下げ今のうち他に買っておく必要があるものを考える。
そういやポーション入れてた瓶を全部昨日割ったんだった。
でもあれも数揃えると結構金かかるんだよなあ。
水を入れるだけの瓶だとポーションを作っても魔力に耐えれず簡単に割れる。
ある程度のポーションに耐える瓶は厚いだけでなく材料から厳選されていて一個で一食分くらいの金がかかり。
それを消耗品としていくつかストックしとけばまとまった金が消える。
……瓶いるか? あれも魔力を使う訓練として毎日作れって言われたからやってただけなんだよなあ。
でも昨日みたいなこと有ったら面倒だし。
しかたない、二、三個くらいだけ買っておこう。
サイフがますます薄くなる事にため息をついてから、俺は魔道具屋に寄るため歩き出した。
種族ごとの服屋と違ってほとんどの種族が利用する魔道具屋は様々な客で賑わっていた。
魔法の杖。使い魔にする動物。
呪術の媒体にする骨。希少な宝石。
この店が一番異世界を感じられて好きだ。
好きすぎて無駄遣いをしてしまうのであまり来ないようにしているくらい。
なるべく楽しそうな物を見ないよう、目的の棚まで下を向いて歩いていたらつい人とぶつかってしまった。
「っ! どこを見て歩いている! って貴様!」
「うわっまたお前かよ」
ぶつかったのはさっき服屋で変ないちゃもんをつけてきた男だった。
俺を追い出したくせになんでここに居るんだ。
「ごめんな。ちょっとよそ見してたわ」
さっきのことがあったとは言え今ぶつかったのは俺の方なので軽く謝って後ろを通ろうとした。
「どこを通っている。貴様のような低俗な存在が俺の近くをうろつくな」
「そこに用があるんだから通せよ邪魔だろ」
俺が邪魔だと手を振ると、男は指を鳴らし従者に合図を送った。
すると顔に黒い布を巻いた男が通路を塞ぐように立ちふさがる。
他の通路に出て棚を迂回すればその奥にはいける。
だがこんな意味のわからない喧嘩を売られたら意地でもここを通りたくなる。
「通せよ。それかさっきの店に帰って服でも見てろよ」
「俺がいつどこに行くかを貴様に関与される筋合いはない。貴様が今すぐに出て行け。先のようにしっぽを巻いてだ」
心底人を見下したような顔で男は俺に指を突きつける。
さっきは揉め事を起こすなと店員に頼まれたから折れてやったのに。
それを見ておいてなんて言い方だ。
流石に少し腹が立つ。
「じゃあ二人共出るか? ああごめん。お前は強そうなお友達がいるから四人か。四人で仲良く出ようぜ」
「……それはどう言う意味だ? 貴様まさか俺に喧嘩を売っているのか。彼我の差すら分からないとは貧乏人は頭の中まで貧相なのだな」
「それで出るのか? 出ないのか? まあ怖いわな。わかるよ。お友達と一緒でも怖いから変なことはしたくないもんな」
「はぁ……下民に教育を施すのも上に立つものの努めか。やれやれ、良いだろうどこにでも付き合ってやる」
俺はそいつらを連れ店外に出た。




