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「だってそうでしょ。いつかこういう日が来るだろうって本で勉強したしサキとも練習した。それなのに貴方は拒絶する。それは私が人間ではないから」

「え、いや違うって」

「いいえ違わない。私が醜い化物だから!」


 俺は激昂し今にも布団から出ていこうとする彼女の腕を手袋の上から掴む。

 少しためらってからもう一方の手を彼女の背中に回した。

 なぜそこまで怒っているのか俺にはわからない。


「だから、俺の問題だっての」


 だから言葉で説得しようとした。

 さっきも言ったように、誰かに聞かれても自信を持って俺が口説き落としたと言えるようになりたいだけなんだが。

 俺の魅力で惚れさせたんだぜ! と。


「──っじゃあこれを見ても問題ないと言えるの?」


 微妙な男のプライドをどう説明しようか。

 素直に一から十まで説明するのは恥ずかしすぎる。

 上手くごまかす言葉を考えていると、サキが俺の手を払い除けた。


 彼女は俺から体を離し、自分の長い手袋を引っ張っる。

 肘まである長い黒手袋、それは彼女が食事の時も布団に入る時もつけていた物で、俺も何故だろうと気にはなっていた。

 少しの引っかかりもなくすっとそれが腕から抜ける。


「ほら! 見なさいよ」

「……………………?」

「醜いでしょ? 気持ち悪いでしょ?」


 手袋に隠されていた彼女の素肌。

 それは確かに想像もしていない物だった。

 だが……なんて言ったら良いんだか。


「ごめん」


 いい言葉が思い浮かばず俺は一言謝った。


「…………そういう反応には慣れて──」

「正直、全く気にならない」


 彼女の手のひらには赤い大きな宝石が埋め込まれていた。

 それは薄暗い部屋の中でも色と形が分かるくらいに光っている。

 手袋を外した彼女はそれを俺に押し付け、硬く温かな物が顔に触れた。


 額にそれを当てられながら俺は考えた。

 確かに手のひらを貫通している石は目立つ。光ってるし。

 でもだからといってそこまで隠したい物なんだろうか。


 そこまで勿体ぶる物だったのか?

 なんだったら赤色灯みたいでカッコよくないか? とすら思ってしまう。


「……気を使ってくれてありがとう。でもいいの、こんなもの誰でも嫌だもの」

「いやだから、隠したいって気持ちはわかるけど俺は気にならないって」

「これでも?」


 そう言うと彼女は手に魔力を込め始めた。

 力の集まり具合に応じて宝石の輝きが増し、手から腕に赤の線が伸びていく。

 それを俺の額近くでやっているせいで眩しくてしょうがなかった。


「そう言われても……そうだな、光ることに意味はあるのか?」

「え? ええ。さっき言ったと思うけど私は灼癒という種族でこの輝きは体の痛みや疲れを取る効果があるの」

「ああそれで怪我を治すのか。じゃあ良くないか?」


 ヒール効果が有るなら恥かしがる必要なんてないだろ。

 そういえば監督も同じだよな。あの人にも石があるんだろうか。


「でもお父様がこれは人に見せてはいけない物だって……隠さなきゃいけないって」


 監督が? 娘を溺愛してそうな感じがしたのにそんな傷つける事をいうのか?

 むしろ逆なんじゃないか。


「うーん。まあなんにせよ、俺は全然醜いとは思わない。それを気にするなとは言わないけど。俺がそれを原因にシアを拒むことはない」

「じゃあ……じゃあ! なにがダメなのよ! 私にそれ以外の欠点なんてないわよ!」


 半泣きになりながら光る拳でシアが俺の胸を叩く。


 ドスッ!


 ヒーラーとはいえ流石監督の娘なだけあって殴られたダメージはかなり高い。

 しかしヒール効果を発動しているせいですぐに痛みは和らぐ。


「うっ、だーかーら!」 ドスッ!

「ぐっき、聞け」 ドスッ!

「おいっ!」 ドスッ!


 意識してのことか無意識か。俺が喋ろうとする度にシアは俺の胸を殴りつける。

 いくらダメージが後に残らないとはいえ一々ベッドでバウンドするくらいに殴られれば喋ることができない。


 ドスッドスッドスッドスッドスッ!


「痛えよ! 叩くのやめろ!!! もうただ叩きたいだけだろ!?」

「ふーっ! ふぅーーーっ! じゃあどこがダメか言いなさいよ」


「だから、親父に言われたからってすぐ受け入れて結婚するとか言ってるのが嫌だってさっきも言ったろ。馬鹿か? それ以外にお前らみたいな子を拒否する奴なんているかよ馬鹿がよお」

「聞いたわよ。だからこうして自分の意思で! それなのに貴方が拒否するんじゃない」


「いーーや何もわかってねえ! まだ俺のターンなの。お・れ・が! お前らを惚れさせるまで俺はお前らに手は出さねえの」

「そんな回りくどいことする必要ないでしょ! 私が抱けって言ってるんだから今すぐやりなさいよ!」


 喋っている内に吹っ切れたのかシアはパジャマを脱ごうとする。

 俺は彼女のパジャマの裾を掴んで脱げなくして怒鳴った。


「うるせえ! とにかく俺が『こいつ俺に惚れたな』って思うまで絶対に抱かない」

「……そうやって焦らしてる内にもし私達の誰かが別の男の所にでも行ったらどうするのよ」


 上が脱げないのなら下をとズボンを脱ごうとする彼女を、今度は逆に俺が押し倒し両手を掴む。


「どうやっても最終的に俺に惚れさせてやるから黙って口説かれてろ……わかったな!」

「……ずいぶん身勝手じゃない?」

「お前はこの街を支配するんだろ? だったらその夫になる俺も魔物ってことだろ? 魔物は自分勝手に生きるものなんだよ」


「わかった。待ってる。…………待たせる分真面目に口説きなさいよ」


 最後の言葉だけ横を見て呟くシア。


「ああ。じゃあ寝ようぜ」


 俺は彼女の上からどいて隣に寝転がる。

 疲れはヒールで取れたはずなのにとても疲れた。


「……おやすみ。クロウ」

「おやすみシア」


 俺の腕を勝手に枕にする彼女を見ながら、俺は今晩二度目の眠りについた。

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