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 一時期ドラゴンの頭部までを覆った黒煙は燃やすものを無くし少しずつ薄らいでいっている。

 このままならこいつが何もしなくても数分ももたず消えるだろう。


 この足場でこっちを狙ってブレスを撃たれたら避けようがない。

 ゲートでブレスを受けてもその後ポーションを回収して使う必要があるからだ。

 別のポイントを狙うタイミングでゲートを投げ入れるしかない。

 時間がない中でどこまでブレスに近づけるか見極めないと。


『……シュッ!』


 顔に流れる冷や汗を拭いたいが体中どこもコケの匂いが酷い。

 そんな状況で顔を拭いても不快感が増すだけ。

 これが終わったらリノに風呂沸かさせてやる。ダンジョン内が臭っても俺は責任取らないからな。


『……シュッ!』


 少し間違えば一瞬で死ぬ。その恐怖を紛らわせる為この状況を作ったリノへ悪態をついて気を紛らわせる。

 今更立ち止まれない。嫌でも歩いていかなければならない。


「これ以上は無理だ。登れねえ」


 俺はドラゴンの肩甲骨辺りまで来て足を止めた。

 これより先は角度がキツイし絶えず首が動いていて簡単に振り落とされる。

 後はタイミングを──


『スゥゥゥゥゥゥ……』

「やっば──」


 しかし丁度近くを狙い始めたと思った瞬間。煙がすっと消えてしまった。

 ドッドッドッドッドッドッドッドッ。

 ブレスの溜め始めだけを確認して俺は完全にドラゴンから目を切っていた。

 鼓動の音が酷く遅く感じる。目が急に霞んでくる。


 その時、顔を上げあられた事は奇跡で。

 俺の両腕が反射的にそれぞれ別の動きをしたことはそれ以上の奇跡だった。

 ドラゴンの口がゆっくりと開いていき──


「ぅひゃあ!? なっなんすか!?」

「──はっぁ、はぁはぁはぁ」


 光に飲まれもうダメな気がしたが辛うじて間に合ったらしい。

 俺は柔らかく温かい物の上に転移していた。

 体が何かに引っかかって起き上がれないこと以外何も問題はない。


「って、クロウっち……もう戻ってきたんすか。──うわ、めちゃくちゃ臭うっすよ!?」

「ドラゴンは!?」


 リノは急な転移に驚いたのかテンションの上がり下がりがおかしい。

 だけど今はリノなんかよりもドラゴンだ。

 柔らかい枕に顔を埋めながら俺はリノに聞いた。


「ドラゴン? ああまだ元気っすよ。逃げてきたんすか? あとどいて欲しいっす」

「あ? ああゴメン」


 元気か。やっぱりダメか。ポーション作成が失敗したか、それとも作成だけは成功したのか。

 下に降りてしまったこの状況では確認ができない。

 ポータルは動いたんだからゲートも設置できたと思いたいんだが。


「──んっ!? ちょっとクロウっち! どこにいるんすか! あっ動かないで。やめてって!!!」

「どけって言ってるのはお前だろ。あと頭に引っかかってるこれ取ってくれ」

「だから──んっひ!? 分かった……っす。解くから! 解くから! 動かないで!」


 暗くてよく見えないがリノの上に転移してしまったらしく俺は急いで退こうと思ったのだが上半身が動かない。

 だから手を顔の近くで動かし頭についたものを取ろうとしたが、硬い紐のようなものが後頭部でピンと張られているらしく、見えないと取りようがない。


「──っぷはっ。悪い悪い。ゴメンなリノってなんだよその格好」

「誰のせいっすか! 信じらんないっす! 馬鹿なんじゃないっすか!」


 色白い肌を真っ赤に染めリノが怒っている。

 何故かオーバーオールの紐を外し手で胸元を隠していた。


「いやあ失敗したな。どうする逃げるか?」

「ふぅっふぅっ……ぅえ? 逃げる? ダメっす──」


 ──ッカ! ガガガガガガッババババババババババッ!

『ウゥゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥッ』


「ん、なんだ?」

「なっ何したんすか! クロウっち!?」


 手持ちを使い切りこれ以上どうしようもないのでいよいよリノを抱えて逃げようかと思い始めた頃。

 どこか聞き覚えのある爆発音が後ろから響いた。

 夏によく聞いた音に元の世界が懐かしくなり振り返るとドラゴンの背中からおびただしい数の爆発が起こっていた。


 ブレスの色である白い光以外にも赤や青黄色等の色とりどりの爆発。

 そこまで再現しろとは願っていないはずだが、さっき作ったポーションは俺の想像以上に打ち上げ花火を再現していた。


「うおっ綺麗な花火だな」

「花火? クロウっちまさかあれ仕掛けにいったんすか? 馬鹿なんすか」

「いやあれで驚いて逃げてくれればいいかなと。リノはどう思う? ドラゴンもなんか驚いてないか?」


 ドラゴンも自分の背中で急に始まった花火大会をじっと見てるし。


「……追っ払うだけじゃダメっすよ。肉を狩りに来たんすから」

「帰りに他の動物取ればいいだろ……今ならドラゴン以外のなんでも取ってやるよ」

「ダメっす。リノはドラゴンのお肉が欲しいっす。だか、ら──」

「どうした? ぽかんとして。あと胸見えちゃってるぞ」


 いい加減疲れたし問答無用でリノを連れて行こうと立ち上がったら、リノは口を開け惚けたような顔をしていた。

 しかも胸を隠していた両腕をだらんと下げた格好で。

 何故か緑のコケが付いた慎ましいものが見えてしまっているがいいのか?


 ズッダァアアアアアアアアアアアン

 一応結婚したらしいしそこを見ていてもいいのかと俺が悩んでいると、後ろで爆発とは違う騒音が鳴った。

 ドラゴンがまだ何かしてるのか!? 慌てて振り返った俺が見たのは、六つの足全てを折り地面に横たわったドラゴンの姿だった。

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