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結局確認できたほぼ全てのメンバーが一緒にご飯を食べに行くらしい。
全員に日当を配るという監督を残して、準備の終わった人から順に店に歩いていくことになった。
チャンプさんが先頭で大きな旗を持ち、その後ろを魔物たちがぞろぞろついていく。
いかつい魔物が揺れる旗の後ろを必死についていく姿は遠足の子供たちの様で少し和む。
「クロウ! ボケっとしてんな、置いてくぞ」
「あっ了解っす監督。うわっもうほとんど見えないっすね」
列を作ってダンジョンからぞろぞろと出て行く魔物の塊を眺めているといつの間にか監督が近くに居た。
いつもならダンジョン内で残業をしてる人達を待つのだが、今日は全員すぐに出てきたらしい。
じゃあ俺も遅れない内に魔物の群れに混ざろうと皆の方を見るも、先頭の方はもう見えなくなっていた。
今日仕事をしていたダンジョンはノマオ一の繁華街すぐそばに有る。
大小数千を超える店が並んだここはノマオに住んでいる魔物たちのほぼ全てが毎日利用する。
お祭り等のイベントではなく普通の日常として、常に数万数十万の魔物が来ているのだ。
身長や見た目がかなり個性的な魔物たちがこんなに集まると知り合いなんてどれだかわからなくなる。
そんな中で彼らはどの店に行くかも決めずに行動する。
だから、もしここではぐれたらその日はもう確実に会えないのだ。
「監督、チャンプさん達見えますか? 俺じゃあ探せないんすけど」
「ハッハッハ! ちいせえと不便だなクロウ。どーれどれ? ああ大丈夫だ入った店まで見えてるぞ」
「良かった。危うく監督と二人きりの飯になるとこでしたね」
「ああ? 俺とサシじゃ不満だってのか?」
「いや不満って事はないっすけど……だって監督デカイから酔われたら俺じゃ介抱できないし。俺、ダンジョンで仕事してるときより酒場での方が死にかけてますよ」
「ああ? ──ダッハッハッハッハッ! 違いねえ。今日も潰しちまわねえよう気をつけて飲まねえとな! んじゃほら行くぞ」
「ぅわっ!? ちょっ! ちょっと持ち上げないでくださいよ」
監督が俺の胴体を後から鷲掴みにして持ち上げる。
クレーンゲームの景品か、手土産の様に俺を片手に掴んだまま監督は歩き出す。
「俺とまではぐれたら面倒だろ。運んでやるよ」
監督は100%親切心なんだろうが、運ばれるこっちはたまったもんじゃない。
元気よく両手を振って歩いてるせいでそこら中の魔物にぶつかるし、腕や足が地面にスレそうになって危ない。
ちょっとした絶叫マシンを味わいながら俺は叫んだ。
「いやっこんな目立つタコのオブジェみたいな人見失ったりしませんって! 下ろしてください!」
「おめえ本当に失礼な奴だな。ハッハッハッ!」
「あぶっ! ちょっおっさん! おい! 聞けって! 笑い事じゃねえええええ!」
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「おう! ほらっ着いたぞ!」
「…………っうう」
魔物の群れをまっすぐ突き抜けること数分。俺はようやく恐怖のアトラクションから開放された。
頭はグワングワンと痛むし、魔物とぶつかったり地面を擦った体にはあざがいくつも出来ている。
でもなんとか命だけは無事だ。動かない地面はなんて優しいんだろう。
「おいおい。なんだヘタレやがって飯も食えねえのか? ならお前の分も俺が食っちまうぞ。ガッハハハハ!」
「……いや食いますよ。むしろ監督が奢るのを後悔するほど食ってやりますよ」
「おおいい元気だ! おめえの飯の量なんざ腹一杯詰め込もうがどうせ俺のおやつにもたんねえくれえだ。たまにゃ後悔させてみろ」
ガハハハと笑い「先に言ってるぞ」と、まだ四つん這いで地面に倒れてる俺の背中を軽く叩いて監督は店に入っていく。
俺もすぐに行きたかったが心臓はまだバクバク鳴っている。
落ち着かせようと深呼吸をしていると店の中から肉を焼くいい香りが漂ってきた。
「いい香りだ……」
ぐぅぅぅぅ。
心臓が収まると今度は腹が鳴り始めた。
怖くて食材は聞けないけどこの街の料理はどれもうまい。きっと今日の料理も美味しいんだろう。
なら、さっさと行かなきゃ。全部食われちまう。
あの人たちは全員揃うのを待つなんて事はしない。
最初にドンと大量の料理を注文しそこから各々好きに取るスタイルなので食うのが遅い奴は食いっぱぐれる。
匂いを嗅いだせいで口に溢れてきた唾液を飲み込み、店の中へと俺は走り出した。