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 ドラゴンが混乱してる今のうちに考えろ。

 こいつを殺すか追い払うかをするにはどうすればいい。

 俺は揺れるドラゴンの背中にアイテムを並べ、それらが転がっていかないよう足を広げて座った。

 ヌルヌルの液体がズボンに染み込み、冷たさが気持ち悪い。


 殺す方法は心臓か頭を潰すことくらいか? 

 これだって生き物だしな。でもそれをできるなら最初から悩んでいない。

 俺が作れる魔力の剣ではウロコ一枚剥がせない。


 追い払うには俺がもっと明確な障害としてあれの目に映らなけらば無理だろう。

 ドラゴンに俺を食べて得るエネルギーよりも俺の捕食に使うエネルギーの方が大きいと分からせないと。

 今の状況のまま長引かせても冷静になった瞬間に振り落とされて踏み潰されるだけだ。

 そもそも3、4階程度もあるこの高さから落ちるだけでも死ぬかもしれない。


 さっきの様にポーションがうまく使えたら良いんだけど……。

 基本その時の気分で作って瓶につめるから中身はわからない。

 俺は頭を働かせながら無意識にカチャカチャと小瓶を弄っていた。


 そもそも中身が分かっても戦闘用のポーションなんて作ったことが…………。

 ポーションを作る時なんてダンジョンのメンテ中だし。

 ──なら今新しくポーションを作れば良いんじゃないか?


 俺のポーション作りにレシピはない。

 使用する状況を頭の中で考え、瓶に詰めた素材に魔力を加える。

 そうすると何故かポーションに変化する。


 今ドラゴンの首をスッキリさせているコケ滅却ポーションも材料は普通に売ってるスライムの体液だけ。

 ポーション制作法を習って最初に作ったのがあれだ。

 俺の魔力が弱いせいでただコケを燃やして黒煙を出すだけの液体になっているが、注ぐ魔力が強ければ瞬時に消し去る物にもなるはずだと言われた。


 ならこのドラゴンの魔力を使えば強力な、それこそドラゴン自身を倒すポーションを作れるんじゃないのか。

 だってドラゴンだぞ。今口から出しているブレス一回ですら俺の魔力一週間分くらいはある。

 やってみよう。


 俺はアイテムをしまうとポーションの小瓶を一つ持ちその中身をドラゴンの背中に捨てた。

 次に水の魔法が記憶されたマジックカードを破り小瓶を綺麗に洗い流す。

 そして媒体になる素材だが、それはこのコケでいいだろう。ドラゴンの背中に生えているくらいだ相性はいいはず。

 ヌメるコケを剣でこそぎ、瓶に詰めて封をした。


 最後に、どんな物になって欲しいか。

 俺は小瓶を両手で包み胸の前に持ち、目を閉じて願う。

『大きな音と光が出る爆発』を起こしたい。

 イメージとして花火を頭に思い起こす。


 もっと攻撃的な効果を願うこともできるが、もし俺の想像以上の効果になってしまったら広く被害が出るかもしれない。

 音と光だけならびっくりで済むだろ。


 目を開けると小瓶のコケが僅かに発光している。

 これで魔力を込めればすぐにでもポーションが出来上がる。

 あとは俺の魔力を入れてしまわないよう気をつけてドラゴンのブレスを受けるだけ。


 ……受けるだけ。なのだが、どうやってだ?

 俺はドラゴンの頭の方を見た。

 そいつは未だに自分の首から上がる黒煙と戦っていた。


『スゥゥゥゥ…………シュガッ!!』


 長く息を吸い込み一気に吐き出されるドラゴンブレス。

 それは白く眩しく正しく一息で広範囲の黒煙を吹き飛ばす。

 通り抜けた跡には残滓が粉雪の様にキラキラと舞っていた。


 自分の体めがけてわざと撃っているくらいだ自身に傷がつかないのはいい。

 問題はたまに大外れしたブレスが直撃した木は跡形もなく消滅しているという点。

 普通の木に魔力への耐性がないとしても完全に消えるなんて通常有り得ない。

 あれじゃあ俺が瓶を持ってブレスを受けるなんて無理だ。


 ポータルを経由させブレスを弱める? ポータルは起動するのにちゃんとした意思が要るから無理。

 俺が片方を持っていなきゃいけない。


 ならゲート?

 確かにゲートなら通る側の意思は関係ないし、ゲートの起動に魔力を使うのでブレスを弱めながら通せる。だが出口がどこに出来るかわからない。

 本来ならこれはダンジョンの罠用に調整されているので、ゲートの入口と出口は同一ダンジョン内に作られる。

 だがここは野外だ。


 だったらゲートにここをダンジョンと認識させれば。

 俺はゲートカードを取り出し裏面を見た。

【登録ダンジョン・無】


 裏面には日本語でそう書かれている。

 これは分かりやすいように俺が設定した物で、日本語で書かれているように見えるが実際には読もうとした人物が理解できる言語が表示される呪文が織り込まれている。

 ここが変わればダンジョンとして設定できたということ。


 このミニゲートカードは元々使い捨てで丁寧に扱うことは想定していない。

 これを持ってトイレにいくだけでトイレをダンジョンとして認識するくらいのアバウトな物だ。

 俺が身を隠せる程度のスペースさえあれば。


 俺は立ち上がり顎に手を当てて考えた。

 下に降りて木で小さなテントを作るか。

 ああダメだ。ポータルカードがリノのところに帰る物ともうひと組しかない


 ここにあるのはコケだけ。なら仕方ないコケでつくるか。

 俺は服を脱いでパンツ一枚になり剥がしたコケをその上に乗せる。

 コケの無くなった場所に火を起こしそのコケを少し乾かす。


 乾ききる前に服から外したがコケはそれなりに固まっている。

 それを二度繰り返して、寝そべった俺の上にかける。

 ペタペタで冷たく泥のパックみたいな感じだ。悪臭は酷くなっているが。


 俺とコケ布団の回りに火を増やし一気に乾かす。

 後はゲートカードを見ながらただ待つ。


【登録ダンジョン・不明】


 よし。ちゃんと変わった。

 名前をつけていないから不明となっているがこれでいい。

 ここを出ても登録が上書きされないように設定をし準備完了。


 俺はポーションの素材をそのコケダンジョンに置き、ズボンだけ履き直してドラゴンの顔の方へ歩き出した。

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