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「走れないなら俺が抱えてやるよ! ほら早くしろ」


 リノに向かって俺は怒鳴った。小柄な彼女一人を抱えて走るくらいのことはできる。

 屈んで手を伸ばす俺にリノは笑みを消し首を振る。


「無理っす。あのドラゴンは翼がないっす。飛べないってことは足が早いんすよ。まあリノを置いていくならクロウっちは逃げれるかもしれないっすね」

「置いて行ってもいいのかよ」

「いいっすよ? リノが起こしちゃったんすから」


 口調は変わらないが顔は無表情。

 太陽を遮るジャングルにあって元々色白い彼女の顔は亡霊のように暗い。

 彼女が何を企んでいるか少しわかった気がする。


「つまりリノは逃げる気無いってことか? 俺そういうの好きじゃないんだが」


 自分を置いて逃げるのか。ドラゴンに挑んで食われ死ぬか。

 どっちか好きな方を取れ。言葉としては口に出さないが彼女はそう言いたいのだろう。


 俺は人に助けてと言われたら助ける事を前提に考えるくらいのことはする。

 もちろん言われなくても手の届く範囲で困っている人が居たら手を貸すこともあるだろう。

 だけど、その相手が自分の立場を理解してこっちに助けさせてくれと言わせるのは嫌いだ。


 でも、一番嫌いなのは。それを断れず飲んでしまう自分だ。


「これから家族になるんっすから、知らないことだらけなのは仕方ないっすよ。次は気をつけるっす」


 リノは目は笑わず、口元だけ僅かに歪ませ、悪びれずそんなことをうそぶく。


 ザザッザザザザザー。

 土や落ち葉が舞い上がる音。

 俺たちが小競り合いをしている内にドラゴンはゆっくりと立ち上がった。


 俺たちなんて食べても大して腹も膨れないだろうに首をこちらに向け長い足を伸ばしていく。

 頭だけでワゴン車くらいもあり、その顎は俺が立ったままでも十分に入れる程広い。


「リノは俺を殺したいのか?」


 俺は最後の確認をした。

 彼女はなんのために俺をこんな状況に落としたのか。なんでもいいから答えが欲しかった。


「クロウっちは死んじゃうんすか?」

「普通に考えたら死ぬだろこんなの」

「普通なのにリノ達と結婚しちゃダメっすよ」


「結婚に反対ならさっき言えば良かったろ。俺が乗り気じゃないのはわかってたろ」

「リノは二人が嫌がることはしない」


 やっぱりさっきまでのフレンドリーな姿勢はキャラ作りだったのだろうか。

 うわ、ドラゴンって足が6本もあるんだな。


「お前一人ならあれを倒せるのか?」

「さあ? どうっすかね。なんせ足くじいちゃったっすから。大丈夫っすよ食べられても恨んだりはしないっす」


 そりゃ平気で倒せるとは言わないか。

 だからって万が一があるなら置いていくわけにはいかない。

 なんで知らない世界で今日会ったばっかりの奴のために命かけなきゃダメなんだよ。


 やりたくない。やりたくない。やりたくない。

 そもそも抵抗なんて出来るのか。舌でペロンと一舐めされて終わるんじゃないか。

 ああでももうドラゴンも目の前だ。今更慌てて逃げても先に俺を狙うわ。


 髪が抜けそうになるほどガシガシと頭を掻いてから、俺は足元に落ちていた枝を一つ拾った。


「ぅえ……クロウっち流石にそれはないっす。そんな棒でどうするんすか」

「うるせえよ。丸腰の俺を連れてきたのはお前だろ!」


 棒の握り心地を確認しながら今自分が何を持っているか思い出す。

 今日はダンジョン攻略に連れて行かれると思っていたんだ、使えそうなアイテムをいくつか持ってるはずだ。

 ズボンの左ポケットには小さなカードや小瓶がいくつか。


 俺は生きていく為に必要だろう、と剣を教わっていたが訓練中に二度以上同じ物を使ったことはない。

 仕事場である様々なダンジョンの中、公園、路上、酒場。

 ゴライアさんは自分が暇なタイミングで勝手に訓練を始める。


 帯刀しそれに備えることは禁じられ、真剣を使う彼に対し俺はその時手近にある物のみで対処しなければダメだった。

 何故なら、あくまでも戦闘で勝つための技術ではなく生き延びる為の手段だから。


 最初のひと月はどうやっても彼の初太刀すら防げなかった。

 逃げ回りなるべく硬いものを探したり、鋼鉄製の工具で防ごうとしたことも有った。

 だがどれもバターの様にスパッと切られた。


 最初は彼のことをよく知らず、すぐに剣を振り回す狂人だとしか思えず怖かった。

 色んな先輩に訓練をやめられないか聞いて回ったりもした。

 だが何を言ってもやめてくれず、辞退を申し込めば申し込むほど訓練は苛烈になった。


 結局、訓練での大半の時間は、拾った得物に魔力を注ぎ彼の剣を受ける事。

 サキには剣の訓練を受けていると言ったが実は型など教わったことがない。


 その結果、この落ちていた棒切れでも鋼鉄のプレートを貫く程の強さを与えられるようになった。

 集中して魔力を注ぎ続ければもっと強く鋭くすすことは出来るだろう。

 問題は竜の鱗の硬さと近づく方法、そして致命傷を与えるには相手が大きすぎる事。


 今手元にあるアイテムはこれくらいか。

 左ポケットに突っ込んでいた手を出し、持っていたものを下に散らかす。

 どれもダンジョン内に置く新しい罠を開発する際に出来た余り物だ。


 まず輪ゴムでまとめられたカードが三種類。

 内訳はミニポータル、ミニゲート、ショートマジック。


 ミニポータル。

 手のひらサイズのカードで二枚ひと組で使う。

 前もって転移ポータルを書き込んでおきカード間を移動できる。

 ただし一度使えば壊れるので実質片道専用。更に使う直前に魔力を注がなきゃいけない。


 ミニゲート。

 魔力を使ってゲートを起動するカード。これも使い捨て。

 ダンジョン内に仕込んだら魔力を持った冒険者だけを飛ばして分断に使えるかもと作っていたもの。

 欠点はゲートがどこにつながるかは完全に相手依存になる事と、消費魔力が大きすぎて俺みたいな奴では使えないこと。


 ショートマジック。

 本当に弱い呪文を一つだけ記憶しておけるカード

 コップ一杯の水やロウソクの点火に使える火が出せる。


 あとは薬品が入った小瓶が5つほど。

 ……これでどうすりゃいいんだ。

 無理すぎて笑えるぞ。

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