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15話 第一回家族会議

 その後、とりあえず座って話そうと全員テーブルについた。

 俺は楽しげに喋る彼女らを邪魔するのはなんとなく憚られたので、鮮やかに赤く染まったお茶をちびちび飲んでいた。

 爽やかな香りのする甘いそのお茶が元の世界にも有ったものなのか。

 そんなことをぼんやりと考えていた。


「彼の部屋はどうする?」

「空いてる部屋じゃダメっすか? あっちの物置になってる部屋の横とか空いてたっすよね」

「確かにそのほうが簡単なのだろうけれど……せっかく夫婦になるのなら……ねえ?」


 左隣に座るのは竜人の女の子。名前はサキ。苗字は知らない。

 髪は金色でお尻の辺りまであり、長い布でその髪を何重にもくるくると巻いて一本にまとめてある。

 背中には翼があるが見た目は傘の骨組みの様な物。髪の下に隠れている。


 その骨組みを魔力で覆う事で大きな翼をつくる。

 最初に会った時から今までずっとかなりきわどい水着を着ていて、未だに着替えずそのままお茶を入れたりお菓子を出したりと細かい仕事をしていた。


「ええ……確かに。より近い他の部屋を空ける方がいいかと。ですが準備に時間も要りますし。……今日は姫様とリノの部屋の間にある私の部屋に泊まっていただくということが良いのではないでしょうか」

「ぅ? でもすぐそこっすよ? お布団しくだけならすぐっす」

「いえ、サキ。私思うの。ここでの生活に慣れてもらうにはこの部屋に住んでいただくのが一番ではないかしら」


 右隣に座っているのはオークの娘。名前はリノ。彼女も苗字は知らない。

 かなりの小柄かつ色白であり彼女が父親だというオークの技術工チャンプさんとは全く似ていない。

 そもそもオークという種族の特徴がいまいちわからない。


 彼女は動きやすそうなオーバーオールを素肌の上に直接着ていて、雑にざっくりと開いた胸元がかなり危ない。

 さっきは気づかなかったが腰のあたりには簡単な工具がぶら下がっている。


「もちろんその方が良いとは思います。ですが……大事な姫様の側に常に居るということは、常に姫様の事を思ってしまうもの。慣れる前に気疲れを起こしてしまうのでは? そういった点からも私でしたら彼も気にすることもないでしょう」

「ふふっ大丈夫です。私たちの夫となるほどの御方ならばきっとすぐにでも慣れてくださいます」

「だーかーらーお部屋の準備はできるっすよー?」


 そして正面に座っているのが姫様と呼ばれる少女。名前はグローリア・バンクシア。どっちが名前は知らない。

 彼女は小人巨人という矛盾していそうな種族なのだが、監督よりもはるかに背が低く普通の大きな人くらいしかない。

 それでも俺よりは大きいんだけど。


 まあでも小さいですね! とも、大きいですね! とも言わないように心がけておこう。

 普通の人相手でも身長の話しは微妙だし、それが体のサイズを種族名に持つ彼女ならなおさらだろうし。


 外見の特徴は身長以外に斜めに赤いメッッシュの入った黒髪と長いドレス、そして手袋を身につけている。

 サキとリノからは姫と呼ばれていて、サキなんかは完全に彼女へ従者のように接している。


「クロウっちはどこがいいっすか?」

「え?」


 お茶を飲み干し暇なので彼女らの姿を眺めていたらリノに突然話を振られた。

 大きな群青色の瞳と目があう。

 ニコニコしている彼女に何を言ったのか聞き返すと左隣から答えが。


「ちゃんと聞いていてください。貴方の今晩の寝所の話です」

「俺泊まっていくのか? 着替えとか持ってきてないんだが」


 ああ寝るところね。

 今の部屋なんて何しててもザーザーうるさいしそのせいでジメジメして臭う。

 そんなところで寝起きをしているせいで寝る場所なんて何処でもいい。

 というか俺は今日何しに来たんだっけ?


「泊まる? 貴方は今日から私達の家族なのですよ? ここが貴方と私達の家であり帰る場所です」


 俺と結婚することは既に決まったことだ。そう言いたげに姫様が「私達」と自分ら三人を順番に指す。

 いや、もう彼女らの中では俺たちは夫婦であり家族なのだろう。

 でも俺は彼女たちがどれだけ可愛くても素直に『はい』と言うことは出来ない。


「あー。あのさ、それ本気なのか? だって今日会ったばっかりだぞ」

「……それ、というのは? まさか婚姻のことではありませんよね?」

「……そうだよ。おかしいだろ。俺だってそのことを言われてきたわけでもないし」


 サキの目がまた鋭くなった気がするがこれ以上流されるわけにはいかない。

 ここで言わないと、次に発言を求められるのはいつになるか。


「えーダメなんっすか!? でもでも、サキっち姫っちはいいんすよね!?」

「父様が望まれたことです。私は異存はありません。姫様も同じですよね?」

「ええ。お父様が貴方を信じ貴方が私に相応しいと連れてきたのですから。どこにも不満などありません」


 俺が首を縦に振らないことにリノが驚き他の二人に確認を取る。

 後の二人は全く疑問も持たずに即答。


「いやダメだろ! 少なくても俺は嫌だ。『親に言われたから』なんて奴とは絶対に結婚しない」


 俺は思わず強くテーブルを叩いてしまった。

 今までの人生で全くモテたことがない身としては可愛い女の子と仲良くなれるのは嬉しい。

 でもそれは友達や恋人といったステップを順番に登ってのことだ。


 今日からお前らは家族だと言われても相手のことを知りたいと思わず、すぐわかったと言われるのは嫌だ。

 それならば俺じゃなくて良いだろとしか思えない。


「ではどうすれば良いのです? 私たちは貴方に合わせ準備が出来ている。なのに貴方はそれを全て捨てろとそう仰るのですか? それとも醜い魔物など娶りたくないと?」

「いやそういうことを言ってるんじゃ──」


 だから可愛いのは可愛いんだっての! 外見だけなら完全に好みだしお付き合い出来るなら喜んでるって言ってるだろ! 心の中で。

 それに今寝床で揉めてたくせになんの準備が出来てるんだよ。


「姫様。問答など無意味では? 彼に私たちを抱く意思がなくとも、彼をここに縛りつけることが出来ればいいのです」

「おーサキっちなんだか悪い顔してるっす」

「縛り付けるってどうやって? サキ。今直した手をもう一度落とせば良いの? それとも足?」


 リノ以外の二人は怒っているのか泣きそうなのかいまいちわからない表情をしていた。

 ただ淡々と俺を一切見ずにさっきと同じ様に二人で会話を続ける。


「簡単なこと。彼の子を作れば良いだけです」


 怖い表情のままサキが言った。

 子供……………………子作りは魔物と人間共通なんだろうか。

 いや、結婚はダメだが参考の話しとして。


 いやでもそうか。そういう特典があるのか。


「そういうわけで今晩は私の部屋で過ごしてもらいます」

「…………ダメね」

「…………ダメですか」


「私の部屋が良いとさっき言ったでしょう? 一緒に私のベッドの支度をしなさい」

「ですが姫様!」「ダメよサキ!」


 結局そこに戻ってくるのかよ。


ギスギスはしませんほのぼのと続きます

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