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12話 竜人的求婚方

「…………」


 ふぅっふぅっと激しい息遣いは続いているが背中に回した腕が振りほどかれる事は無かった。

 でも教わった通りに抱きしめはしたが、これでどうなるんだ?

 とりあえず魔力は少なくなっていってる気がするけど。


 それにしてもなんで背中なんだろうか。

 まさか背中に洗脳できるスイッチでも有るってのか。

 ああなんだか左手がじくじくと痛んできた。右手はそんなに痛くないのに。


「……あっあのっ」

「ん? ああもう離して大丈夫か?」

「ああ、いや……はい」


 どうやら完全に治まったらしく、彼女は少し慌てた様子で俺から一歩離れた。

 彼女と俺の背丈はほぼ同じなので、今みたいにうつむかれるとその表情が読めない。


「えっと、ゴメンな。急に抱きしめたりして」

「いえ、……っあの! 私の名前は誰から? リノですか?」

「……? ああそれもゴメンな。急に呼んだりして。ゴライアさんからああしろって言われてさ。なんて呼べばいい? 俺のことはクロウって呼び捨てにしてくれ」


 うつむいたまま、しかし少し力がこもった彼女の質問。

 なんだかさっきとも最初ともちょっとテンションが違う。

 なんといったら良いんだろう。……ソワソワした感じというのが一番近いのか?


 俺がゴライアさんの名前を出すと、彼女はビクン! と反応し小さな声で「父様が……」とつぶやいた。

 その後も少しの間ごにゃごにゃと何かを言っていたがそっちは聞こえなかった。


 まだ喋っているのか、それとも黙っているのか。

 痛む左手をプラプラさせながら待っていると、ガバッと彼女が顔を上げた。


「いっいえ。驚いてしまっただけで。名前を呼ばれて不愉快だとか……そんな」

「そうなのか? じゃあ名前で呼んでもいいんだな?」

「はい! どうぞお好きに。名前だろうと、なんでしたら「おい」や「お前」でも構いません」


 名前で呼べはわかるけど後の二つはなんなんだ……。

 彼女がまっすぐ俺の目を見つめてくる事に別の恐怖を感じる。


「……いや。流石にそれはちょっと。じゃあサキ、よろしくな」

「はいクロウ様。早速ですが、お怪我の治療をさせていただけますか? ……お怪我を負わせてしまったこの身、本来であれば即刻叩き切っていただくところですが、その腕では剣を持つことも叶わないでしょう」

「そんな大げさな。そんな痛くないから気にしないでくれ」


 本当は泣きたくなるくらいに響いて痛いが俺にも少しは意地がある。

 左手を軽く握り、傷が残っているであろう部位を隠す。


「っつぅ────」


 畳んだ左の指先が掌に触れるとそこが傷口だったらしく、説明出来ないほどの鋭い刺激が全身を走った。

 痛すぎて感覚が鈍ってるのか、指が今どこに触れているのか分からない。

 ただ、指先がヌルヌル滑り、熱い冷たいという反対の情報が頭に流れる。


「……っうっふぅ……な? 平気だ」

「いえ、あのすいませんがそちらではございません。右腕です」

「──は?」


 いや痛むのは左手だけだ。

 さっきサキの背中を触った時から痛かったんだ、間違えるわけがない。

 右手で攻撃を防いで左手で抱きしめたことはまだ覚えている。


 俺が首をかしげているとサキが「あっ……」と小さく漏らした。

 彼女は何かに気づいた様だ。

 なんだろうか。でも俺の右手を見ているんだからそっちに何かあるんだろう。


「何かついてるか?」


 俺は彼女の視線の先を追おうとした。だが。


「ダメですっ!」


 駆け足で距離を詰めた彼女が俺の顔を両手で掴む。

 さっき抱きしめた時よりも近い。呼吸音が聞こえるくらいだ。


「なっなにするんだよ」

「いえ。私が間違っていました。意思を確認することでは無かった」


 至近距離で彼女が喋るとなんだか爽やかな匂いがする。

 あまりの密着具合に少し恥ずかしくなり意識をそらそうとしたが、気をそらせる物は手の痛みくらいしかない。

 いくらなんでも羞恥心を克服するために痛みを強くするのは嫌だ。


「ああ、そうなのか?」


 彼女が何を言っているのかわからない。

 理解したいとは思う。だが頭は働かず生返事をすることしかできない。


「はい。ですので貴方を今すぐに姫様の寝所へお連れいたします。少し手荒になりますがどうか身動きをなさらないでください」


 そういうと彼女は髪をまとめていた布を解き、俺の顔へ巻きつけた。

 目隠し? なんで今更。

 急に視界を奪われ戸惑っていると、体にも布が巻かれ何か柔らかな物に固定された。


「んっ……では、行きます。舌を噛むかもしれません。口は閉じてください。それと、絶対に動かないでください」

「? ああわか──っ!?」


 返事をしようとしたが、急に体が浮き上がり驚いたせいで言えなかった。

 サキが俺を浮かせているんだろうが彼女がそんな術を使えるだろうか。

 いや、答えはわかってる。


 サキの背中に有った翼と今俺の体に密着した柔らかく熱い物。

 今俺を浮かべているのはサキ自身の力で、この心地よい物は彼女の体だ。

 何をそんなに急いでいるのかわからないがこれはかなり役得といえるんじゃないか。

 こんなご褒美があるなら少しの怪我くらいどんとこいだ。




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