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10話 室内の密林

 リノと別れ廊下を進み角を一度曲がると、言われた通り扉がいくつか有った。

 確か二つ目の扉に入れって言ってたけど。

 曲がって二つ目の扉はすぐに見つけられた。


 しかし、扉は廊下の両サイドに有った。

 どちらも全く同じ形で、ネームプレートもついていない。

 まあ二択なら両方開ければいいだけか。


 俺はとりあえず左側の扉を開けた。

「……なんか変な匂いがするな」


 そこは四畳ほどの小さな部屋で、扉と小さな屑かごと三段の棚以外には何も無かった。

 変な匂いは正面の扉の方からしているようだ。

 果物を大量に集めて発酵させたような濃い匂いだ。


 お香か?

 こういった匂いが好きな魔物なのかもしれない。

 俺は奥の扉を開いた。


 ザーーーーーーーーー


「──え?」


 耳を塞ぎたくなるような騒がしい水の音。

 巨大な花から漂う香り。

 その扉の先は──ジャングルだった。


「いやいや。室内だろここ!?」


 振り返れば今来た廊下が見える。

 確かに後ろはダンジョンだ。


 でも左右を見ても、目を凝らして遠くを見てもここに壁はない。

 それどころか天井すらない。

 完全に野外に転送されている。


 つまりさっきの部屋が転送ゲートの準備室だったのか。

 あそこの扉を開けるとゲートが起動するんだろう。

 それにしても、ダンジョン内に転送ゲートって。

 しかも罠とかではなく私室に。


「……馬鹿じゃねえのあのタコ親父」


 転送ゲートは街中で使われている転送ポータルと違い、世界の壁を超える力があるので設置コストも維持コストも高い。

 だから基本的にはノマオとダンジョンを繋げる通用口にだけ置いてある物だ。

 それをこんなジャングルとつなげる為だけに使うなんて。


 監督の親バカっぷりに呆れながら少しジャングルを見て歩いて、俺は迷わないうちにダンジョンへ戻ろうと踵を返した。

 うっかりでも転送ゲートを見失えばこのどこかも分からないジャングルで永遠に彷徨うことになる。


「誰だ……お前。侵入者か」

(……誰かいたのか。ダンジョンの奴ならいいが、現地の人間なら面倒だな)


 背後から誰かの声がかかった。

 ダンジョンから来た魔物なら事情を話せばわかってくれるだろうが、もしこのジャングルに住んでいる奴なら面倒だ。

 一度動いたゲートは誰でも通る事ができる。


 このまま下手に立ち去ればダンジョン内部に無関係な奴を案内することになってしまう。

 ふーっとため息を吐いて、俺は声の方へ向き直った。


 声の主は水着の様な物を身につけた少女だった。

 長い金髪を一つにまとめ、体中からポタポタと水滴を垂らしている。

 リノの件もありパッと見では魔物か人間か分からない。


「君は? 俺はちょっと迷ってこんな所に来ちゃったんだけど」

「迷った? 怪しいな。どの方角から来たんだ?」


 ダンジョンのことをボカシて答えたのだが、それを怪しく思ったのか彼女の目つきが少し鋭くなる。

 拳を握り、俺に対して半身で構える。

 静かに殺気を漏らす彼女の背中に髪に隠れて小さな翼が見えた。

 ああこの子も魔物だ。あの翼、どこか見覚えがある。


「正確に答えろ。じゃないと痛い目を見てもらうぞ」

「──ちょっと待った!」


「……なんだ? 時間稼ぎは無駄だぞ」

「君もしかして竜人?」

「……だったらなんだ。この世界の人間ではないな」


 会話をしながらも彼女は警戒を全く緩めない。


「いや俺も竜人の人にお世話になってるから。そうかと思って」

「竜人に? やはりあの街から来たのか。つまり我が家に侵入したのだな……」


 まだ変な勘違いしてるな。

 それどころか明らかにやる気が上がってる。

 魔力で全身が僅かに光っているし、小さく隠れいていた背中の翼が大きく広がっている。


 もっと分かりやすく説明しないと本気で攻撃されそうだ。


「ちゃんと話し聞いてくれよ。君ゴライアさんの子供だろ? 俺あの人に訓練付けてもらってるんだ。ここには監督に連れてこられた」

「父様を知っているのか? それに親方様か……わかった。信じよう」


 リノちゃんと一緒に居る竜人の娘ということで、ゴライアさんの子供じゃないかと思ったんだが当たっていたみたいだ。

 二人の名前を出すと彼女は少し考える素振りをして魔力を消した。


「ああ良かった。ここまでリノに連れてきてもらったんだが忘れ物が有るって戻って行って。それで迷ってたんだよ」

「リノに? フフッあの娘らしい。なら私が案内しよう。少し待っててくれ、着替えたいんだ」


 彼女が水着から着替えるというので、俺は見えないところで待っていることにした。


「ああじゃあゲートの前にいるよ」

「わかった。ああ一つだけ教えてくれ、父様は元気そうか?」

「ゴライアさん? 元気だよ。剣の修行の時なんて毎回殺されるんじゃないかと思うくらい」


「──え、剣を? 父様が?」

「ああ。生きるために必要だろうって」


「……名前は?」

「は?」

「お前の名だ」

「……クロウだけど?」


 自己紹介なんて後ででいいと思うんだが。


「クロウ。今剣は持っているか? 構えろ」


 なんで一度引っ込めた魔力がまた出てるんだ?

 それと、なんでまた拳を構えてるんだよ。

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