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衝撃  作者: 木崎 るか
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【CONTINUE】 ボーイ・ミーツ・ボーイ

準備を整え、西の泉へと向かったキト。そこで出会ったのは・・・

 村を出て半時。

 キトは西の泉の見える場所まで来ていた。

 出発前に干し肉とスープで軽く腹を満たし、ミツシの言いつけ通り西の泉へと向かった。太陽は高く昇り、季節は穏やかだが起伏の激しい道のりは喉を乾かす。水入れを持って出たのは正解だった。

 至るところから染み出る水で半分くらいそれを満たす。これだけ水の豊富な場所だ一杯にすれば逆に荷物になる。

 体の小さな子供なら当たり前の行動だった。こういう知恵は生きて行く中で身につくものだ。

 のどの渇きを潤し、小休止をとりながら泉を見下ろした。キトの立つ小高い丘からは、泉の全景が見て取れた。


「あそこに、私の指標となるものが、落ちてくるというのか?」


 キトは、子供らしからぬ口調で思案している。家を出るときミツシに言われた言葉が思い出された。


『その人多分、キトの道しるべになりうる人だよ』


 どうしてあの人は、そんな大事なことを出かける寸前にさらりといったりするのだろう。問い質そうとするキトに気付かないはずはないのに、『いってらっしゃ〜い』とにこやかに送り出されてしまった。

 挙句、たのしみだな〜と軽い足取りで自室へ戻っていくミツシからは陽気な鼻歌まで飛び出す始末。そんな邪気のない背中に掛ける言葉は見つからず、黙って出てきてしまった。

 西の泉は森深い場所にある。

 泉は降り注いだ雨が山でろ過され染み出たものと、湧水から出来ている。泉の背後に切り立った崖の一部、円状の穴からは清水が勢いよく溢れ出していた。その水は直接泉に落ちるのではなく、木の根を滑るように流れ落ちていた。

 木の根といっても周りのものとは桁違いに大きい。

 根の太さだけで普通の木の3倍はあるだろう。

 ミツシの家と同化している木よりもさらに数倍はあるに違いない。堂々たる幹は、生い茂る枝葉は、荘厳といっても過言ではない。

 西の大樹といえば、地図を書く時目印に使われる最たるモノであると同時に、見る人によっては一種信仰に近い想いを抱かせるに十分な風格をみせていた。

 勢いよく飛び出す清水に乗り、流れに負けるとも劣らない強い風が、崖に開いた穴からは吹き出していた。その風に乗って異様な音が聞こえてくる。

 風が通る音に混じり、聞こえてきた声らしきものにキトはすばやく反応していた。荷物をかつぎ直すと泉へ向かい森を駆け抜けた。

 小川を飛び越え、少し小高くなっている森の縁をものともせず滑り降りる。

 泉の端にたどり着いたとき、キトの息は上がりきっていた。

 肺が焼けるように熱い。

 頭を占めるのは、ミツシのあの言葉。

 心を支配するのは不安とそれを遥かに上回る期待!


「うおぉぉぉおぉぉおおお!!」


 絶叫が穴から響いてくる。

 穴から飛び出した黒い塊は木の根を滑り落ちてくる。


「うぇあぁあぁあぁあぁあぁ」


 いや、訂正しよう。

 横転しながらゴロゴロと、見事に転がり落ちていく。

 声が大きくなったり小さくなったりするのはそのせいだろう。

 木の根は泉に浸かっているとはいえ、なだらかとはいい難い形をしていた。まるで膝を曲げたような形になっていて、そのままいけばおよそ5メーターほどの高さから泉に放り出されること請け合いだ。が、当然勢いは止まらず、当然重力にしたがい泉の中へダーイブ。

 ダバーンとイヤな音をさせて勢いよく水の中へ沈んだ。水泳の飛び込みでいうところの「腹打ち」というやつだ。…態勢を考えると「全身打ち」といったほうが良さそうだ。


ごぼ ごぼ ごぼ


 沈んだ場所からは大量に空気が上がってくる。

 しかし、落ちたものは姿をみせない。

 キトは目を凝らして落ちた辺りをみていて、すぐ足元の水中にスーッと近づいてきた影には全く気付いていなかった。

 キトの目の前、足元の影からにょっきり手が出てきて泉の縁をつかむ。突然出てきた手に吃驚(びっくり)してキトがしりもちついて後ずさると、手の主はザバーと勢いよく水しぶきをあげながら立ち上がった。


「いえーーーーい! 俺ってグレーートーーー!!! 生〜き〜て〜るぅ〜」


 大声で訳のわからない言葉を喋り両手を上に突き上げる格好で出てきたと思ったら、腕と腰を振って踊っている。

 キトは驚きで声も出ない。

 呆然と見上げていたが、しだいに脱力していく。


―――これが、私の道しるべ。……イヤダ。つい目を逸らしたくなるこのバカモノが、私の……? ……ミツシ様、見なかったことにして、帰ってもいいですか?


 当然の如く心の問いに答えるものはない。ただ、アホのように歌い続ける男が目の前に現実としてあるだけ。


「いえーい、いえーい、生きてる〜」


 連呼し、変な踊りをやめようともしない。狂喜乱舞とはこのことをいうのかもしれない。


―――ミツシ様。…本当に、本当にこの男で間違いないのですか!?


 キトの嘆きを聞くものも当然いない。



『その人多分(・・)、キトの道しるべになりうる人だよ』



 ああ、ミツシ様の(無責任な)声が聞こえる。


―――『多分』って、どっちですか?


                            【SAVE】

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