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衝撃  作者: 木崎 るか
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【CONTINUE】  火使いの素質

適性検査。

 エンリの言葉に従い奥の部屋に向かったヒジャクが扉代わりの衝立(ついたて)の向こうでごそごそと衣づれの音をさせている。

 なにをしているのかとマコトが座ったまま身体を傾けた瞬間、衝立の横から丸い頭がするりと這い出てきた。


「ぁあーーーーー!! さっきの蛇ってお前だったんだな!!」


 傾いた姿勢でゆびをさしたものだから勢い余って倒れこむ。

 なるほど。

 人間の姿であればわからなかったが、この姿には見覚えがある。キトがいった言葉の意味も理解できた。

 目の前に現れた蛇のウロコはこげ茶が(しゅ)、なのにところどころ()がれたのか剥がれていないのか、主となるこげ茶よりも薄かったり濃かったりと混ぜこぜで確かにこれは「どどめ色」かも。。。と思わせる有様なのだ。

 髪の毛だと対して違和感もなったがウロコになってはじめてわかる表現だ。

 マコトの大声に怯えたようにエンリの後ろに身を隠したヒジャクに、エンリが苦笑を浮かべた。


「一応迎えには行ったようだな。まさか、使い魔が見えるとは聞いてなかったから驚かせたろう。ミツシも不親切なヤツだ、一言言っておいてくれればいいものを」


 最後は眉間に皺を寄せ、愚痴じみた独り言になっている。

 エンリの腰に後ろから巻きつき、左脇の下から尻尾を、右脇の下から顔を出したヒジャクがエンリの太腿にぽてりと頭をのせ撫でられている姿をみて、マコトが悔しげに地面に懐いた。


「なんだよ~。先に言っててくれたら俺にも仲良くなれるチャンスがあったかもしれないのに~。……ミツシ様のバカヤロー」


 マコトの愛は年齢問わず、性別問わず、種族(?)すら問わず、彼自身の基準でそそがれるものらしい。

 口から零れ落ちるのは、屁理屈というべきか単なる駄々というか……エンリと方向性はだいぶ違っていたが、ともに二人の愚痴はミツシに向けられていた。


「エンリ様。ミツシ様から連絡は」


「ああ。水蛇がきた。……あいつもなぁ、もう少し口のきき方と愛想がよけりゃ、ブツブツブツ」


 いつまでも愚痴大会になりそうな様相にキトの機嫌はゆるやかに下降中。黒い笑みを口の端にはいてそろそろはじめませんかという業を煮やしたキトの言葉にマコト、エンリ、ヒジャクの二人と一匹は揃って引きつるような悲鳴をあげた。


「は、はじめるか。マコト、手の上に炎を出せるか?」


 途端にまじめな顔でエンリがいうのに、マコトはカクカクと首を縦に振ると手のひらを上に向け、ファイアと口にした。

 右腕が重くなり、手のひらが燃えるような熱を帯びてくる。いままでどおりの反応に問題なく出そうだと感じ、手のひらにゆっくりと力を入れると力加減と比例するように炎の塊がじわじわと右手からでてくる。

 マコトが「あっ」と声を出すと、それがトリガーとなり手のひらから半分ほど出ていた炎が飛び出した。


―――しまった!


 炎を出すことは出来るが手の上で維持なんてのはしたことがなかった。

 せめて外で、地面へむけて出すべきだったとおもいついたときには後の祭り。

 止める術もなく、炎は勢いよく天井向けて放たれた。 


「おっと」


 マコトの手から離れた瞬間、炎の固まりをエンリが横から掻っ攫うように掴み取り、ヒジャクに向かって投げつけた。


「ひぇっ!?」


 手掴みしたのも驚いたが投げたのにも驚いた。

 何をするのかと問う暇もない。

 口をあんぐりあけたヒジャクは一口で炎の塊を飲み込むと咀嚼するようにもごもごと口を蠢かし。ご馳走様の代わりに舌でぺろりと口(?)の表面を舐めた。


「気にするな。こいつは火喰い蛇だ。大抵の火は食っちまうよ」


 手掴みはスルーですか。火使いというくらいだから大したことでもないのかもしれないとマコトもあえて見なかったことにする。


「どうだ?」


 ヒジャクに向けていわれた言葉だ。


「甘い!」


「甘いのか?」


 腕組みして唸り首を捻る。


「ちょいとコレ握ってさっきの呪文唱えてみな」


 渡された朱色の石。手相がはっきりと透けて見えるほどに透明度が高く、同じ大きさの水石よりも随分軽い。

 手のひらで包み込むと仄かに温かかった。


「火石ですか?」


「おうよ。中身は空っぽだけどな。大体ヒジャクに食わせりゃ適性くらいはわかんだよ。〈ぴりぴり〉は魔法、〈香ばし〉けりゃ御使い、〈まったり〉だと呪術って具合にな。他にもまあ程度の差こそあれ(おおよ)そその辺りの味なんだが。それをこいつのは〈甘い〉と来た。御使いなら可能性はなくもない。ヒジャク(こいつ)は俺のしか食ったことねえからわからんのかも知れんだろ」


 エンリとキトの会話を適当に聞きながし、呪文ってあれか? と再度ファイアと口にすれば右腕が重くなる。手のひらが燃えるように熱いと感じたのは一瞬のことだった。ぐっと火石を握る手に力を込めれば一気に熱がひいていく。


「マコトいいぞ。見せてみろ」


 促されて手を開くと火石は透明度の高い朱色から、全くべつの色へと変化していた。


「ありゃ?」


 間の抜けた声を出してエンリは頭を抱え込んだ。

「真っ白ですね」と、訝しげにキト。

「真っ白だな」と、想定外の結果にエンリ。

「真っ白って?」と、おかしいのかどうかもわからないマコトが疑問を顔に浮かべ首をかしげた。


「説明しよう!! 人が作り出す炎にはいろいろと特性があってだな、味だと魔法が〈ぴりぴり〉、御使いが〈香ばし〉く、呪術は〈まったり〉ってのはさっき説明した通りだ。同じように火石の中にそれぞれの魔力を入れると色が変わるんだが。魔法は濃い赤、御使いは濃い朱色、呪術は黒っぽい赤って具合に基本赤系統の色に染まるはずなんだが……」


 つまり、わからないってことか。

 段々声が小さくなっていくエンリに白けた目を向けているマコトの服が下へと引かれた。

 肩越しに顔をそちらへ向けると、人型に戻ったヒジャクがマコトの服のすそを掴みクイクイと引っ張っていた。


―――おおう、急接近!!


「どうした~?」


 とろけた笑顔で屈み込んだマコトが見たのは、様子が一変した火喰い蛇のヒジャクだった。

 相変わらず視線を合わせようとはせず俯いたままではあったがさっきまでの警戒心はなりを潜め、ほっぺを薄桃色に染め、なにやらもじもじしている。


―――シッコか?


 平次の末弟がまだ言葉が旨く喋れないときによくみせた仕草だ。しかしヒジャクのそれは意味合いが違った。


「これ、オレ、すき」


 単語で喋るのは見た目どおり幼いせいか。これ、と開いた小さな手に乗るのはマコトの魔力で白くなった火石。


「お前の、喰ってやっても、いいぞ?」


 上目遣いにちらりと見上げたその瞳がキラキラ輝いていた。やたら火石の周りがべたべたと濡れ光っているのはヒジャクが舐めたせいらしい。どうやら炎と同じように火石の方も甘かったようだ。


―――おねだりか? これはおねだりなんだなっ!? ツンデレってのはこのことかぁっっ!?


 脳内にて喜びのファンファーレが鳴り響く。

 ヒジャクはマコトの炎の味がお気に召したようだ。

 いつか抱っこできる日を夢見て、エンリに用意してもらった空っぽの火石に魔力が続く限り(煩悩の赴くままに)ファイアと唱え続けるマコトだった。


                            【SAVE】

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