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衝撃  作者: 木崎 るか
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【CONTINUE】  ヒジャク

ようやくエンリの家に着いた二人。マコトは予想を裏切る火使い・エンリの容姿に多少げんなりしていた。そこへ。

「とまあ、冗談はこのくらいにしといてだな。うちのを迎えにやらせたはずだが。会わなかったか?」


 けろりと立ち直った男は首を捻った。本当なら一緒に帰って来るはずだったのだが当の使い魔だけがいない。


「そうそう。あれ、ヒジャクですよね。逃げられたので気のせいかとも思ったんですけど」


 思い出したようにいうキトにエンリも目を瞬かせた。


「逃げた?」


「ええ。マコトは見ただろ?」


「えっ、何を?」


 急に話を振られて、俺が?と自分を指差したマコトに身振り手振りで説明する。


「蛇だよ。このくらいの」


 両手で輪っかを作ってみせる。


「これくらいの長さで」


 両腕を地面に対して水平に伸ばした。


「どどめ色」


 ふっと口元をゆがめて嘲笑を浮かべる姿に本性が垣間見える。


―――黒っ!?


「どどめ色っていうなーーーーー!」


 キトの黒さにマコトとエンリが気持ち()いていると、幼い怒鳴り声とともに大きな音を立ててエンリの背後の家の扉が開かれた。中から飛び出してきた少年が両脇で拳を握り締め力んでいる。


「……」


「……(ダレ?)」


「なんでそこにいる?」


 迎えにやったはずの使い魔が、連れてくるはずの客よりも先に帰っている。しかも主人(エンリ)はそのことに気付いていなかったようだ。

 見つからないよう隠れていたのだろう。

 しまった、という表情(かお)で首をすくめた少年は口をへの字に引き結び、上目遣いに自分の四倍はありそうなエンリを見上げている。


「ヒジャク?」


 いまにも泣きそうな少年を見てエンリが戸惑いがちに声を掛けた。


「オレ、そいつキライ」


 ぷぅっと頬を膨らませ、そっぽを向いてへそを曲げたヒジャクにエンリが困り顔で頭を掻く。こうなってしまうと機嫌が治るのに手間を食う。

 指差されたマコトは、はじめて会ったばかりの、キトよりもさらに年少の子供(就学前の園児くらい)にキライと言われてワタワタと「俺、何かしたか?」と慌てふためいている。


「原因は何だ」


 エンリが訊くのにヒジャクは顔をうつ伏せ、そいつキライと判で押したように繰り返すだけ。これでは埒があかない。


「まあ立ち話もなんだし。とりあえず入れ」


 エンリは薪を蹴散らし道を作り、扉の前に佇んでいたヒジャクを抱え上げると逞しい腕に座らせマコトとキトを家の中へと招きいれた。

 ヒジャクは大人しくエンリの腕に収まっていたが、マコトから目を逸らし涙を我慢するように親指を噛み締めている。


―――可愛い(くぁわい)~~~~


 吊り目気味の瞳に涙を(たた)え、ただでさえぷくぷくなほっぺをさらに膨らまし唇を尖らせた様子に子供好きのマコトはもうメロメロである。(変な趣味はない)

 リリカラッテやコッカーのような美男美女も好きだがミニマムな生き物はもっと好きだ!!(何度も言うが、変な趣味はない)

 気の強そうな赤茶の瞳にこげ茶の髪。よく見ればその中にちらほらと赤茶や白茶けたものが混じっている。

 キトがどどめ色と言っていたがまったくもって汚い色ではなかった。

 活発な性格を現すように短くした髪の毛は幼いわりに硬そうだ。

 反して柔らかそうな耳たぶには二つずつ、小さな四角い石のはまったピアスが埋まっている。


「まあまあ、落ち着けって」


 先に入ったエンリが床の上に座り、膝に乗せたヒジャクの背中をあやすようにトントンと軽く叩いている。床とはいってもゥマクァイヤの村長宅と同じように敷物が敷いてあり、敷物の外で履物を脱ぐ。

 敷物の中央にはちゃぶ台のような円形の座卓があり、その上にはティーポットとも水差しともつかない大きめの銀の容器といくつかの小ぶりな湯飲み型の茶器が並んでいる。

 デザインはシンプルで使い込まれた優しい感じに、なんとなく日常を想像させて心が和んだ。

 座卓の向こうにいるエンリとヒジャクの姿は、ぐずる子供とそれをあやす父親の図にしか見えなかった。

 使い魔といっていたが実は親子じゃないのかと邪推してしまいそうだ。

 うっくえっくと嗚咽(おえつ)をもらすヒジャクを、正面から正座した姿勢で身を乗り出すように見ているマコトの目が輝いている。触りたい、抱っこしたい、あやしたいと目が語っていた。(しつこい様だが、変な趣味は断じて(・・・)ない!)

 マコトとしては殊更に憧れを抱くシチュエーションだったのだ。

 弟が一人いるにもかかわらず、ひとつ違いではたいして成長に違いも無く。ひとつのものを仲良く(?)奪い合った兄弟では好敵手(ライバル)には成りえるものの可愛がるにはいささか育ちすぎの感がある。兄貴風をふかそうものなら鼻で笑って退けられるのがオチ。

 その点、幼馴染の平次はマコトにとって羨望の的だった。

 その弟妹らにとって十以上も年の離れた兄・平次は両親以上に頼りがいのある存在で、いつも泣きつくのは一番上の兄(ヘイジ)

 横目で見ながら、なんどハンケチの端を歯で噛み締め、ひきちぎる思いをしたことか。。。

 くぅっと(うめ)いて悔し涙を拭うマコトを一瞥して、横に座ったキトが勝手知ったるなんとやらでお茶の用意をはじめていた。


「言いたくないのか?」


 座卓の向こう、事情を聞こうと宥めていたエンリが訊くとヒジャクがコクリと頷く。

 ならば仕方ない、とため息ついて無骨な指が優しく頬を撫でる。


「それについてはもう訊かないが、協力して欲しい。お前の力が必要なんだ」


 迷うように目をさまよわせた後、ヒジャクが再度コクリと頷いたのをみてエンリが表情を緩めた。

 それは美女と野獣ならぬ、幼児と野獣の図だった。


                            【SAVE】

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