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衝撃  作者: 木崎 るか
33/36

【CONTINUE】  エンリ

アクシデントはどこにでも転がっている。御使い様とて油断してたら怪我するかもよ?

 悲鳴をあげたソレは身を翻すと、驚く速さで地を這い逃げていく。

 突然背後で上がった二つの悲鳴に振り返ったキトが見たのは、大口開けて固まるマコトと視界の隅に捉えた尻尾(・・)

 見覚えのあるそれを目で追ったが、それは一目散に行き交う人たちの足元を(うごめ)きながら器用にすり抜けていく。

 人々は自分たちの足元の存在に何の関心も示さなかった。

 それもそのはず、彼らにはその存在が見えないのだから仕方がない。第一ソレが見えていれば大騒ぎになること間違いなし。

 マコトの反応はある意味当然といえた。

 メディエルマージの使い魔・メディマージが見えたことから考えればアレが見えても不思議はない。

 にしても、とキトは考える。

 主人である火使いのエンリにいわれて迎えに来たのであろうソレが、逃げ出す理由がわからない。

 確かに人見知りする性質(たち)ではあったが、自分がいるのに声も掛けず逃げ出していくなんてことはないはずだ。

 首を傾げつつも気を取り直してマコトの服を掴んだ。


「マコト。行くぞ。……マコト?」


 ダメだ。動きそうにない。

 口どころか目も見開いて瞬きひとつしない。


―――またか……


  行過ぎる人もちらちら気の毒そうな視線を投げてくるのがなんだか居たたまれず、どこか諦めと呆れの雑じった目を向け、固まったマコトの腕をとってぐいぐいと引きずり歩き出した。




「ようやっと来たな坊主ども、待ちくたびれたぞ」


 ゥマクァイヤで多く見かけた茅葺の家とは違い、土を固めて作られたそれはレンガと呼べるほど硬いものではないが、積み重ねられ間を漆喰のようなものでつなぎ固められた頑丈なものだった。

 家の前で男は一心不乱に薪割りをしていたのだが、近づく人の気配に顔を上げると笑って二人を迎えた。

何処(いずこ)かの世界へと旅立っていたマコトの焦点がぴたりと重なったそこにいたのは、がっはっはと豪快に笑うひとりの男。

 

「……おっさん」


「誰が『おっさん』だ!」


 マコトの言葉に唾を飛ばしてツッコミを入れる。

 少々、暑苦しいカンジの男を上から下までじっくり眺めて再びマコトが口を開く。


「……赤い……おっさん」


「誰が『赤いおっさん』だ!」


 じっくり見ての感想がそれかよと目を見開いて焦るエンリは、赤髪がくるくると乱雑に広がり、顎には不精鬚(ぶしょうひげ)

 瞳は濃い茶色のワイルドと、いってしまえば響きもいいが、ぼさくれた容姿のゴツイ男だった。

 しかも睫毛(まつげ)は無駄に長いし、顔の彫りも深い。

 マコトの感想に一言付け加えるならば、「赤くて濃い(・・)おっさん」というのが正確な表現かもしれない。

 着ている服はコッカーのものと似ている。

 生成(きな)りのシャツに皮のベスト。下は幾分ゆったりしたズボンに足は頑丈なブーツを履いていた。

 (めく)り上げた袖からは隆々といっていいほどの筋肉の盛り上がりが覗いている。

 コッカーのそれが猟師のものであるように、この男の筋肉は山の男といったつき方をしている。見事な逆三角形。

 御使いだときいていたのでミツシのようにおっとりした感じの人だろうというマコトの予想はあっさり裏切られた。

 待ちくだびれたの言葉どおり、暇を持て余していたのだろうその手には薪割り用の斧があり、トントンと肩を叩いている。足元にはどれだけ待っていたかを示すように割られた薪が大量に転がっている。

 エンリを中心に薪が円状に散らばり、よけて通ろうにも積み重なった薪に足をとられ兼ねない状態になっていた。


「お久しぶりです。随分、お待たせしてしまったようですね」

 

 薪を踏まないように気をつけながらも、なるべく近づいてキトがエンリに挨拶する。笑みが引きつったものになってしまったがそれは仕方のないことだろう。


「おお久方ぶりだな。にしても」


 にこやかに笑みを浮かべた男は、足元に積み重なった薪をまるでなにも無いかのようにかきわけ近づいてくると、キトのマコトの肩くらいまでしかない頭を、


「相変わらず小っさいな~」


 と小動物をなでるようにポンポンと叩き、さらに豪快に笑っている。

 されたキトの顔がどよんと暗く淀んだ。


―――余計なお世話だ。くそじじい


 マコトの耳におよそ今までに聞いたことの無い、地底から響くような声がきこえたが、空耳か? と何も無い(くう)をきょろきょろと見まわしている。

 正面ではごついオッサンが焦ったように何か言っているが、マコトの耳には入っていなかった。


「や、心の声のつもりかもしれないけど。声になって出てるからねソレ。俺『おっさん』でも『じじい』でもないから。キト? キト~? お~い、何か黒いモン出ちゃってるからねー」


(うるさ)い」


 いまのはもしや空耳ではなく、キト? とマコトが隣の少年を見下ろせば、渾身の右ストレートが容赦ない一言とともにエンリのボディにめり込んでいた。

 どこにそんな力があったのか。

 体重の差がありすぎたせいか吹き飛びこそしなかったものの、ガハァッと一気に息を吐き出し(うづくま)るエンリをみてマコトは感心したように頷いている。


―――おお、リアル『生まれたての小鹿』


 感心するところが若干ずれている。

 マコトに変な感心をされているともしらず、腹を抑えて蹲った男は最期の言葉を吐き出した。


「俺の……口……から……変なもの……出そう」


 ち~~~ん。(合掌)

                            【SAVE】

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