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衝撃  作者: 木崎 るか
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【CONTINUE】  類友

正しくは類は友を呼ぶ(かな?) 冷静沈着そうに見えて実はかなり…な平次。

 異世界にてマコトが雄叫びをあげている土曜の午後、人気(ひとけ)の無い柘植家ではインタホンの音が虚しく響いていた。

 この不況の最中にあって多忙を極める柘植家の大黒柱(ちちおや)は、今朝も早くから出勤して行き、二本目の大黒柱(ははおや)も一本目の三時間後には仕事へと出掛けていった。

 残るは柘植家次男坊・マサミだけだが、彼は当然の権利を主張するかのごとく二階の自室、布団の中で惰眠を貪っていた。

 寝起きに関していうならば、マコトとは正反対。

 休みの朝(太陽は高く昇り、干された洗濯物がその日差しによって乾きはじめている時間を朝というならば)は目覚めるまで寝倒し、平日も学校に間に合えばいいだろうとぎりぎりまで起きることは無い。

 兄・マコト同様、弟・マサミとも付き合いの長い来訪者は、玄関先で仕方ねぇなと頭を掻き裏へと廻る。

 縁側の横にデザイン重視の壁が格子状に突き出ているのは当時流行の建築設計。

 なんとも犯罪者に易しい作りだった。

 勝手知ったる他人の家。

 庭に立ち二階部分を見上げてみたがやはり家人がいるかどうかまではわからない。

 伸びた前髪をかきあげ料理のとき以外は掛けている眼鏡を外して胸ポケットに突っ込むと、壁に手を掛け躊躇なく登りはじめた。

 しあげに二階のベランダを両手でつかみ、懸垂の要領で軽々とベランダの上に身体を持ち上げればあっという間に到着だ。

 ベランダからマコトの部屋を窺いみるがカーテンは閉じている。

 休みの日でも早起きのマコトが起きていないはずはなく、カーテンが閉じているということは不在を意味した。

 マサミの部屋をみるとこちらもカーテンがひかれていたが、こちらはいつものことなので外からでは中の様子は窺い知れない。

 ジャケットのポケットに手を入れ携帯を取り出す。

 履歴からマサミの名前を探しだすと発信ボタンをおした。

 数秒後、カーテンが揺れたのを確認して電源を切った。

 軽く拳を作って窓を叩く。

 のろのろと開かれたカーテン、窓の向こうでは寝ぼけ眼のマサミがもそもそと口を動かしている。

 何か喋っているらしいが当然窓は閉じたままなので何を言っているのかは不明だ。

 来訪者・平次がジェスチャーで鍵を開けろと指差す。目をこすりながらマサミが指示されたとおりに窓をあけると靴を脱ぎ部屋に入った。


「平ちゃん。どうしてベランダ(そんなとこ)から?」


 間延びした寝ぼけ声のマサミがぼそぼそいっているあいだに平次はマサミの部屋をよこぎりドアに向かいながらも律儀に答えていた。


「呼び鈴は鳴らしたぞ。着替えたらウチに来い。飯、まだだろ」


 それだけいうと部屋を出て行く。ドアを開け放したままなのはすぐに来いという意思表示にほかならず、マサミは温かいベッドに未練を残しつつも出かける支度をはじめるのだった。

 


「というわけなんだ」


 出した料理を残すと怖いが、行儀は大して気にならないらしい。

 目の前に並べられた家庭的な料理を寝起きの胃に詰め込みながらマサミが話すのを、作った平次は時折相槌を打つだけで口も挟まず黙って聞いていた。


「ご馳走様でした」


 マサミが食事を終えるのを待ち構えていたように平次の手がマサミの後頭部に添えられる。

 後頭部に添えた手が頭を固定し、マサミの額にコツンと平次のそれが押し当てられた。

 小さい頃ならいざ知らず、互いに十分育った男同士、この行為はなかなかにして恥ずかしいものがある。

 されたマサミが所在無げに目を彷徨(さまよ)わせるのとは対照的に、小さい弟妹がいるせいか慣れっこの平次は平然としている。

 額を離すと、わずかに眉を寄せた。


「熱は無いな」


 (おもむろ)に立ち上がるとマサミの首根っこを掴んで立たせ、否応無く引っ立てていく。

 一体どこへと訝る間もなく辿り着いた先は、風呂場。

 一家の長である平次の父親の趣味で、外観は一戸建てのどこにでもある造りの家屋の中で風呂(そこ)だけが規格外にでかかった。

 総ヒノキで作られた浴槽は温水循環装置が備え付けられており常に適温のお湯が張ってある。湯気でカビが生えないようにと常に換気も万全。

 下にやんちゃな弟妹がひしめいている平次だ。

 年端も行かぬものが多いのも理由の一つではあるのだろうが、時に言葉を連ねるより手っ取り早いと行動で示す方を採る。


「や、ちょっ、待っ」


 嫌な予感に無駄な足掻きとしりつつも、抵抗を図るマサミの足を平次は軽く払って湯船に投げ入れた。

 一瞬宙に浮いたマサミの身体が豪快な水しぶきをあげて湯船に落とされる。

 普通なら腰を強打しそうだがそれはない。

 落ちた瞬間、上へと引き上げられたからだ。

 それでも豪快なしぶきが頭から降り注いだおかげで、頭の天辺から全身くまなくびしょ濡れである。


「~~~~~っ」


 マサミからうめくような声無き声がもれる。


「目は覚めたか?」 


 見事な足払いを決めた本人はマサミを引き上げると同時に手を離し、しぶきが掛かった様子も無い。

 頭上からかかった声に思わず恨めしげな目を向け、浴槽の縁に手をかけてガクリと頭を落とした。


―――やっぱ、平ちゃんは間違いなく兄貴の同類だよ


 柘植兄弟には水難の相が出ているらしい。



*** *** ***


「冗談でも寝ぼけてたわけでもなかったか」


 腕を組んで見下ろしながら眼鏡の位置を直す。見下ろした先には濡れた髪を拭うマサミの姿。


「ま、俺で力になれることがあったら言ってくれ」


 それだけ言うと、何事もなかったかのように汚れた食器を片付け始めた。いつもとかわらない様子にマサミが口を尖らせた。


「平ちゃん、兄貴のこと心配じゃないのかよ」


 頭を掴むとぐしゃぐしゃと濡れた髪をかきまぜ、真摯な瞳でマサミの目を覗き込む。


「心配はお前に任せるよ。俺に出来ることがあるなら協力は惜しまないさ」



                            【SAVE】

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