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衝撃  作者: 木崎 るか
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【CONTINUE】  アルサの街

ゥマクァイヤの村を出てはじめて訪れた街の名は『アルサ』。ここに住む火使いの男とはいったいどんなヤツなのか。

「人が多いな」


 ズィンギーのおかげで予定よりだいぶ早くアルサへ着いた三人は、道が石畳に変わった辺りでズィンギーから降り、街の入り口でバニアと呼ばれる乗り物(・・・)の預かり所へズィンギーを預けた。

 街を十字に走る大通りの両脇には様々な店が立ち並び、その中には宿屋の看板らしきものが見えた。他にも薬屋だろう薬草の描かれた看板に、二本の剣を斜め十字に重ねた看板は武器屋のもの。

 店の前にも入り口以外の場所に出店が所狭しと並んでいる。

 コッカーの言葉からもわかるように、アルサの街は常にはない活気にあふれていた。


「何かあってるんですか?」


 目の前で重そうな荷をおろした男にキトが声をかける。

 男は袖で額に浮いた汗を拭いながら目の前にたつ三人に目を向けた。


「どこから来た」


「西です」


 アルサ(ここ)で西といえばクァイヤ地方の一部と決まっている。

 男は当然のように返してくる。


ふれ(・・)が出てたろ。国防隊志願の選考があってんだよ。俺っちも出たかったんだが、女房にとめられちまってなぁ」


「アンタ! 遊んでる暇があんなら早くその荷物運んどくれ」


 男の店は目と鼻の先にある出店の一つだった。そこから威勢のいい女の声が、喧騒に負けない大声で飛んでくる。


「ま、あんな調子でな」


 どこの世界でも女性というものは強い存在であるらしい。肩をすくめた男が街の中央を指した。


「志願するならあっちで受付てるから行ってみるといい。今日は隊長のダガス様の剣舞が披露されるって話しだから、見物客も大勢でてるよ」


 人が多くてよくは見えないが、男が指差した先にテントのようなものが張られているのはわかった。通りに面した両側の建物の二階部分をつなぐように取り付けられたそれは、通りの一部をすっぽりと覆っている。


「ア~ン~タ~、わかってんなら早くしとくれ。商売になりゃしないよ」


 ぬっと背後に現れた女に、男は慌てて荷物を担ぐと逃げるように出店の方へと足早に去って行った。


「覗いて見るか?」


「そうだな、時間をみて決めよう。まずはエンリさまのところへ行くのが先だ。コッカーはどうする」


「用事が済んだらそちらへ向かう」


「わかった。じゃあ行くか」


 促したキトは何か考え込んでいる様子のマコトに首をかしげた。


「マコト?」


―――剣。少しは学んでおいたほうがいいのかな


 いつもコッカーがいるとは限らないし、何より自分の身も守れないでは情けない。


「キト、ちょっと打ち込んでみて」


 すらりと剣を抜いたマコトにキトが目を剥き飛び付いた。


「馬鹿っ、往来で剣を抜く奴があるか!」


 女性の甲高い悲鳴に衆目が集まる。

 女性が指差した先にあるのが自分の剣である事に、慌ててすぐに収めたが遅かった。警備兵が二人走り寄り、マコトに剣を突き付け詰めってくる。


「貴様、何のつもりだ!」


 両手をあげたマコトの鼻先で剣のきっ先が鋭く光る。

 言い訳しようとしたマコトを押し退け、背に庇うようにキトが間に割り込んだ。


「ごめんなさい。お兄ちゃんが変なことして。ちょっとふざけただけなんです。ダガス様の剣舞があるときいて感化されてしまって」


 二人の警備兵は顔を見合わせて苦笑した。

 その様子では他にもこんな輩がいたのだろう。国防隊に志願するものが集えばそれなりに腕自慢の者が集まるのも道理。

 肩をすくめ剣を鞘へ戻すと、立ち去ろうとするその後ろからキトが消え入りそうな声で謝罪する。


「……ごめんなさい」


「もうするなよ」


 年かさの男が振り返り、手を振って去っていく。

 姿が見えなくなるまで見送って、マコトを見上げたキトの眉がキリリと吊り上っていた。


「覚えておけ。街で剣を抜くのは御法度だ」


 たったいま見せた少年らしい殊勝な態度はさっぱり脱ぎ捨て言い諭す。


「牢にいれられるぞ。ここが王都なら最悪切られても――」


「かわいい」


 ムギュッと抱き締められて言葉が続かない。キトがギョッとその腕から抜け出そうともがくが首に巻き付いた腕が離れない。


「一体何なんだ!」


 怒鳴ってコッカーに目を向けるが八つ当たりもいいとこだ。


「お兄ちゃん。だって」


 抱きついたマコトが嬉しそうに耳元でプククと笑うのにキトの顔が羞恥でみるみる真っ赤に染まる。

 機転を利かせて兵士に連れて行かれるのを助けたというのにとんだ恥をかいた。

 離れた場所で成行きを見守っていたコッカーは大事にいたらなかったことを確認すると、自分の用事を済ませるべく踵を返し雑踏の中へ消えていく。


―――薄情者~


 注目を浴びる二人を見捨てるコッカーは、なかなか非道である。


「私たちも行くぞ」


 こんなところでぐずぐずしていてもしょうがない。キトが先を促す。


「おう!」


 あっさりキトを放すと、人々の視線から逃れるようにこの場を離れるキトの後を追うべく足を踏み出した。その時、マコトの肩を叩く者がいた。


「んぁ」


 振り返って仰天する。


「ぎぃゃぁああああああーーーーーーー!!!!」


「シャァアアアアアアアーーーーーーー!!!!」


―――あれ、どっかで聞いたな…


 不意に記憶の隅にひっかかる何かを感じ、マコトは叫び声をあげながらも首をかしげるのだった。


                            【SAVE】

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