【CONTINUE】 旅は道づれ
ようやくゥマクァイヤを出立した三人。なにごともなく、無事にアルサの街に着くことはできるのか?
ゥマクァイヤを出て山道を下り、しばらく平地を進んだマコト、キト、コッカーの三人は、アルサとミジェス、イシライルへの分かれ道の草原にて休憩を取っていた。
ミジェスとイシライルはゥマクァイヤ規模の村だという。
ミジェスは南下し岩山を登った奥地にあり、イシラエルはここから北東へ向かい更に東に行った地形の緩やかな地帯らしい。
対してアルサは街というだけあって街並みも整備され、人口も多いのだとか。
三人は、マコトが腹減ったと騒ぎ出したのをきっかけに少し早めの昼食にする。
皮、布、ステンレス、と三者三様の水筒(水入れ)を取り出し喉の渇きを潤した。
「アルサって街まであとどのくらいあるんだ?」
キトに頼んでいれてもらったバオジュのお茶はほのかに甘く、歩き疲れた身体に染み渡る。
「半分だ」
「半分……」
腕に目を落とせば十一時半を回ったところ。
出発したのが九時より少し前。
ここまで早歩きでおよそ三時間。
つまり、……あと三時間。
ぐはぁとうな垂れたマコトにキトが背負っていた袋から紙に包まれたコッペを取り出し手渡した。
疲れたことは疲れたのだが、初日の走りづめに比べれば肉体的には全然元気だ。
ただ、何も無さ過ぎるのだ。
こうやって辺りを見回しても草っ原が広がるだけ。
のどかな風景と晴れ渡った青空。
住んでいた街では決して見ることの出来なかった。
電信柱も高層ビルもない。
なにものにも邪魔されることなく見上げることの出来る空に感動できたのは、ほんの五分かそこらだった。
アクセントといえばところどころに生えた丈高い草や、疎らに生えた木。
稀に、見たことのない生き物の群れに遭遇したりもした。
襲い掛かってくるような凶悪な生き物に出会うよりは確実に平穏でいいのだが。のどかすぎて、もう欠伸もでない。
しかも同行している二人といえば、コッカーは無口。
キトはキトで何を考え込んでいるのか黙々とアルサを目指して歩くのみ。
話を振ろうにもこの世界についてあまりに知らなすぎて何を聞けばいいかがわからない。
―――退屈だはぁ
やけくそまじりにコッペにかぶりつく。
死んだ魚の目のようになっていたマコトの目がぱちりと見開かれた。
―――美味っ!
朝食べたのはもっちりとした食感で柔らかかったが、それを焼きなおしたためか縁はカリカリと香ばしく、中心はもっちりとしている。
キトは他にも取り出すと袋を敷物代わりに並べた。串に刺したキューイの肉を炙り焼にしたものと、大き目の葉で数種類の野菜を巻いた手巻き寿司風サラダ。
―――どれも美味い~
ぐったりしていたマコトが一口コッペを食べた途端、上機嫌でもぐもぐしゃりしゃりと咀嚼しながら目の幅涙を流すのに、心配するだけ無駄だと意識的に目を逸らしたキトも腹を満たすべくコッペを手にとった。
コッカーも燻製にしたキューイの肉を歯で引きちぎって、今は腹を満たすことに集中している。
「殺気を感じない?」
食後の腹休めにと、他愛ない会話を交わしていた三人はキューイの狩場の見分け方について話していた。
話を振ったのはキトだ。
猟師たちがどのようにしてそれを見分けているのかずっと疑問に思っていたのだろう。
気配が濃く、殺気に満ちた場所がそうだといわれてキトがなるほどと頷くのに、マコトが殺気なんて感じれるものなのか?と問い返したのだ。
「自分に向いている殺気すら感じ取れないのか」
重ねて尋ねてくるコッカーにマコトが額を抑える。
「あのさぁ、俺のいたとこじゃ普通そんなのわかんねぇの! キトだって同じ様なもんだろ?」
話を振られた少年は水入れをしまいながら首を振った。
「私は問題ない」
「ナニュッ!?」
意外な答えにマコトが目を剥く。
「ああ見えてミツシ様は尊いお方だ。命を狙われることはないが、連れ去られたことは何度か」
「……お前、苦労してんだな」
気の毒そうに見つめられ、お前の弟ほどではないというツッコミを無理やり飲み込み、そうでもない、と無難な返事をしておくにとどめた。
二人のやり取りを聞いていたコッカーが不意に硬い表情で口を挟む。
「キト。自分の身は自分で――」
「守るよ」
コッカーの様子に、敏感に危険を察知したキトが言葉少なに答えた。
立ち上がったコッカーはミジェス村の方へ視線を向け、遠くを見つめるように目を眇めた。
「マコトは俺の指示に従え」
危険は感じ取れなくとも二人から何かに対する緊張感、警戒心というべきだろうか、それは伝わってくる。
ここで意地を張るほどマコトも馬鹿ではない。
コッカーの視線が何を捉えているのかもわからずにマコトはただ頷くのだった。
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