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衝撃  作者: 木崎 るか
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【CONTINUE】  卵の殻

リリカラッテの頼みごととは?

 屋根は道々多く見られた茅葺で、大半は木で出来ていた。

 玄関は漆喰(しっくい)で塗り固められ、両脇には灯器(とうき)が二つ。

 迎え入れられた居間にテーブルや椅子は無く、床に敷かれた敷物の上に靴を脱いであがる。

 目の前には一組の老夫婦と二十代の女性が座り、女性の横にはゆりかごが置かれ生まれて間もない赤ちゃんがすやすやと眠っていた。

 老夫婦の爺さまが村長かと思いきや、キトは礼をかかない程度に老夫婦に敬意を払うと女性に向かって話しを始めた。

 女性の名前はメリア。

 彼女がゥマクァイヤ村の村長だという。

 僻地の村では女性の村長は珍しくないのだ。

 何故かといって、村の中のことを取り仕切るのに女性である方が何かと都合がいいからである。男性が村長をしていると、何かコトが起こったときになかなか進行しないという問題があるのだ。

 特にゥマクァイヤのように半数以上の男性が猟師をしているような村では会合を開こうにも、


「困ったねぇ。ウチの亭主は昨日から森に入っちまってしばらくは戻らないよ」 


 だの、


「毛皮を売りに街のほうへ出ていて帰ってくるのはいつになるやら。なにせ全部売ってくるまで帰って来るなって言っちまったからねえ」


 だのと、一向に揃わないのだ。

 なので自然と家のこと同様、村の内情は女性に任せようという流れになった。

 メリアの夫も猟師をしていて、やはりこの時間は出掛けているという。

 マコトの件はすぐに了解を得ることが出来た。

 外からの移住であればいろいろ面倒な手続きなどもあるのだが、マコトの場合ミツシ様の知り合いということですんなり話が進められた。

 マコトが冷めた茶に手を伸ばすその横ではキトも同じ様に茶に手を伸ばしていた。

 一息ついたキトがリリカラッテからの頼みごとを思い出す。茶器をもどすと老夫婦の方へと向き直る。


「こちらにある卵の殻を少しお借りしたいのですが」


 爺さまがほうほうと目を細め孫のメリアにいいつける。


「メリアや。そこの棚にしまってあるだろう。持ってきておくれ」


「はい。お爺さま」


「リリカラッテかい?」


「はい」


「子供はいい。あの二人は年こそ若いが、きっと立派な猟師が育つだろうよ。時が流れるのは早いものじゃ――――――――――――――――――」


―――長っ!!


 永遠に続くかと思われた村長の昔話にあやうく意識が飛びかけたマコトは、キトがにこやかにお礼の言葉を告げるのをどこか頭の隅で認識してすっくと立ち上がった。


―――これ以上ここにいたら俺がジジイになっちまうよぅ!


 挨拶もそこそこに外へ飛び出すと、手を組み体を伸ばして大きく深呼吸。体の隅々にまで酸素が行き渡り、細胞が生き返るようだった。

 帰りは予定通り共同浴場を覗いて鍛冶屋に寄った。

 鍛冶屋ではキトが旅用の剣を買い求める。

 ナイフほど小さいものではないが剣というには長さも幅も中途半端な大きさのもので、用途は護身用であると同時に簡単な料理にも使えるという。キトにいわせればなかなかの優れものらしい。

 剣帯も購入し、それをマコトの腰にしっかりと巻きつけた。


「俺用なのか!?」 


 驚くマコトにあっさり頷く。


「アルサはそう遠くないけど危険がないとは言い切れないからな。コッカーも一緒に行くといっていたし大丈夫だとは思うけど、……用心に越したことはない」


 腰に巻いた剣帯がずしっと重みを増す。


―――その意味心な『……』は一体なんですかー!? そこに入るのは、盗賊が出るから、とか、危険な獣が出るから、とか物騒な響きを多分に含んでいる気がするのは俺の気のせいですかっ!?


 聞きたい気もするが、聞いたら聞いたで後悔しそうな予感がひしひしとする。

 でも、きっと大丈夫。

 だって村一番(・・・)の猟師が一緒だもん。

 なんて、ちょびっと遠くを見つめてみたりなんかして。

 ただ、そういった予感というものは得てして外れないものだったりするのだが。

 持ち帰った卵の殻を袋から出していると、ミツシが奥から顔を出した。


「それどうしたの?」


 キトの手に握られている包みを見て首をかしげる。


「リリカラッテに頼まれたんです」


「ああ。子供欲しがってたもんね」


 卵の殻といっても小さいものではない。

 元はダチョウの卵かそれより一回りは大きそうな卵の一部だ。手のひらに縦に乗せると手首から中指の先まであり、横幅も人差し指から薬指まで届くくらい大きい。


「それってお守り? 子宝祈願とか、安産祈願とか?」


 なぜリリカラッテが卵の殻(そんなもの)を欲しがっているのか解らずマコトが疑問を投げる。


「違うよ~。子供が欲しい女の人はこれを持って神殿に行くんだよ。そうしたら卵が一つもらえるの」


「卵?」


「そう。どこの誰だか分からないと困るでしょ?」


 うん。まったく意味がわからない。

 なのに逆に質問で返されてもそれが困る。

 ミツシと話していると、なぜか謎が深まっていく気がするのは気のせいだろうか。

 キトから包みを受け取ったミツシが、中から卵の殻を取り出しマコトに手渡した。


「しばらく持ってると文字が浮かび上がってくるよ」


 はい、と渡された卵の殻に目を落とすと、そこには既にうっすらと文字が浮かび上がってきていた。

 地図を見せられていたときに気付いたことだが、どうやらこちらの文字はこちらの文字のままで見えているらしい。つまり、脳に到達する時点でそれが自分の言葉として認識されるのだ。

 どこで変換されるのかはわからないが、意識を集中して文字を見てみると良くわかる。見たことのない文字らしきものの羅列が並ぶ。それだと読むことが出来ない。

 まるで3Dアートのステレオグラムのようである。

 つまり適度な集中力が文字を読むのには必要なのだと気が付いた。


「ノグリ?」


 浮かんできた文字を声に出してみたが意味がわからない。

 キトが頷いて意味を教えてくれる。


「出生や身許が不明な者を指す言葉だ。異世界から来たんだから当然だな」


 一般に子供が母親の腹で育つことを胎生というが、腹に子供が宿ってから三月以内に卵の中へ移し育てることを卵生という。

 遥か昔、戦争が多かった時代に安全に育てるためにそのやり方が流通したのが起源だといわれている。

 そうやって育った子供は胎生の子と同様に十月十日で生まれてくる。産声に反応した卵が自然と殻を破り中の子が出てくるというわけだ。

 その卵は神殿の中にある泉にわく(・・)という。それを貰うために両親の身元を証明する手立てとして、卵の殻が使われるのだ。

 子供が卵から生まれてくると聞き驚いたマコトだったがなぜか。


―――異世界ならそれもありか


 なんて、あっさり納得してしまうのだった。


                            【SAVE】

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