【CONTINUE】 突然始まる異世界講義 〜Part2(中級-A-)〜
予備知識って大切だよね。
朝食をとりはじめてマコトが、そういえばとスープ皿から顔を上げた。
「訊きたいことがあるんだけど」
ミツシがなに?と視線だけで問い返す。視線とはいっても見えているわけではないが、目線が違いなくマコトを捕らえているので違和感は感じない。
「コッチとアッチって繋がってんのか」
「アッチって元いた世界のこと? どうして?」
「携帯が使えるってことはそうなのかと思って。なんていうか、…全くの別世界ならコレは使えないはずだろ?」
指差された白く輝くものに手をかざしてミツシが訊ねる。
「コレってどういったシロモノ」
「え、と、離れた場所にいる相手と話が出来たり、写真を撮って送ったり、メール…文章を送ったり出来るモノ?」
「ふ~ん。昨日、夕食のときに話していた相手はつまりアッチの世界の人ってことだね。だからかな、どうにも妙な波動を感じる」
波動というのはもしかして、電波のことか?とマコトは首をかしげた。
「多分、コレが唯一元いた世界と繋がってるものだから無くさないようにね。そういう分野はメディが詳しいから、それについてはあの子に聞くのがてっとり早いんだろうけど」
そこで一旦言葉をきり、キトの方を窺ったミツシにキトがぶんぶん頭を振って抗議する。
「そういうわけだから、そっちはとりあえず保留って事で」
何が『そういうわけ』なのかはわからないがミツシは話を進めていく。
「マコト、手から火の塊が出たというのは本当?」
「ああ、なんなら出して見せようか」
手のひらをミツシの方にむけたマコトにミツシが首を振る。
「ううん。いい。火については専門外だから。それでね、君の適性についてはエンリに相談してみようかと思うんだ」
新たに出てきた名前に興味をひかれた。
「エンリ?」
「ここから少し東南に行ったアルサって街に住んでる男だよ。火使いだからマコトの属性についても詳しくわかるかもしれないと思う。行ってみない?」
東南、アルサ、といわれたところで昨日少し見ただけのこちらの地図はマコトの頭に入っていない。
「いいよ、何かすることがあるわけじゃないし。この世界をもっと見てみたい」
マサミが聞いていたらとっとと帰り方を探せ!と怒鳴りつけられそうな台詞をあっさり吐く。
キトがマサミの気苦労を思って暗い顔になっていた。なにせその役が自分にまわってくることは、予想に難くないからだ。
「そうだね、どのくらいコッチにいることになるかわからないから、コッチの世界のこともいろいろ知っておいたほうがいい。それにエンリにならマコトの適性も調べて貰えるしね」
属性?適性?と、その違いがどこにあるのかと首を捻るマコトにミツシが簡単に説明を加えた。
力は大別して5つに分けられる。
属性は水、火、他に木(気、風)、土、金といった具合に、生来もっている人の核のようなものであり、適性とはその力を伸ばしたり使うのに適した力の伸ばし方や使い方だという。
ミツシは水の属性であり、適性は水使い。
生まれながらに力を使うことに長けており、他の属性に関しては使用することが出来ないといった特性がある。
エンリは火の属性であり、適性は火使い。
当然これもミツシ同様であり、生まれながらに力を使うことに長けているが、他の属性に関しては使用することが出来ない。
メディエルマージは木の属性であり、適性は魔法使い。メディエルマージはあの黒い貫頭衣を纏った女で、ミイラのような化け物はメディマージ。あの奇妙な生き物は使い魔だという。なんともややこしい名前を付けたもんだと思ったがそういう趣味らしい。
行を積むことによって力を高める術を身に付け、それに応じて使い方を学んでいく。属性に関しては真性(生まれながらに持つ属性)以外の外性(真性と反対の意味をもつ)も使うことが出来るが、相性があるので使えても真性以上に使うことは出来ない。
他にも適性はいくつかに別れているが代表的なものは御使い、魔法使い、呪術師となる。
呪術は力をあまり必要とはしない上、行をつめばそれなりに術を使うことが出来る。代わりに相応の代償が求められ、不足分は己の身をもって払うことになり、術の内容によっては手酷い反撃を受ける場合もある。
力の強さを表すと、御使い>魔法使い>呪術師となる。
反比例して数の方は、御使い<魔法使い<呪術師となるのだ。
マコトは火を操ったというのだから当然属性は“火”ということになる。
火使いのエンリに見極めをお願いするのは、マコトの適性次第では彼に預けた方がいいと考えたからだった。
「てことはキトは水の適性があんのか?」
不意に話を振られてキトが言い淀む。
「私は…私のことはいい、いまは自分のことだけ考えていろ」
逡巡したあと怒ったように言うキトに、マコトがキョトンと目を丸くする。ミツシに目を移せばその視線に気付いたのか、訳知り顔で困ったように首を傾げ、それは訊いたら駄目だよというように軽く首を振った。
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