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衝撃  作者: 木崎 るか
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【CONTINUE】 異世界ですってよ〜

・・・

 あの後、裏の泉に沈んでいるのを見つけたキトが、ミツシを引き上げ説明を求めたのだが、「頼みたいものがあったんだよ」の一言で片づけられてしまった。

 あの女がどういう人間かわかっていてそんなことを平然というミツシに、キトは深いため息をつかづにはいられなかった。

 マコトと二人きりにしてしまうのはどうかとも思ったのだが、メディマージが見えるのであれば大して危険は無いだろうと判断した。

 それが正しかったかどうかはよくわからないが。

 水気を飛ばしたミツシを連れて家に戻ってみると、女の姿は既に無く、立ち尽くすマコトのみが取り残されていた。というわけだ。

 どうにか挨拶を済ませた二人が、向かい合う形で椅子に掛けるのを見計らって、キトは台所へと消えた。

 濡れネズミの乾きかけにしか見えないミツシと顔をあわせても、マコトが驚くことはなかった。いくらか耐性がついたためであろう。少し湿っているがミツシの着ているものはキトと大差ない、あえて違いをあげるなら、袖や裾の部分に独特の刺繍が施されているところだろう。


怪我(けが)はない?」


 唐突に話題を振られて、なんのことだ? と首をかしげているとミツシが笑った。


「キューイに追いかけられてたでしょ」


 なんでそんなことを知ってるのかと思ったが、裏の泉から戻ってくるときにキトが話したのだろうと勝手に解釈して頷く。

 痙攣(けいれん)を起こしていた腿の震えはもう止まっていたし、体を触ってみたが特に痛いところはない。


「大丈夫」


「良かった。コッカーは間に合ったようだね」


「間に合った?」


「うん、水鏡で探してたら大変なことになってたから、コッカーにお願いして迎えに行ってもらったんだ」


「???」


 これ以上は曲がらないという所まで首を捻ってミツシの言葉の意味を理解しようしてみたが無駄だった。

 水鏡を使うと聞けばこちらの人間なら間違いなく「ああ、彼は水使いなんだな」と納得しただろうが。

 マコトはひたすら首を捻り、頭を捻り、クエスチョンマークを飛ばすのだった。

 そんなマコトの様子を知ってか知らずか、そういえば、とミツシが手を叩く。


「君は別の世界からこちらの世界に来たんだよ」


 世間話をするような気軽さでミツシが言う。それはまるで「今日はいい天気だね」くらいの軽さだ。一瞬何を言われたのかわからなかったマコトだが、言葉の意味に目を瞠る。


「別の…世界?」


 マコトが呆然と問い返すのに、ミツシは首を縦に振ることで答えた。

 次々と突きつけられる出来事に、マコトの脳みそは今にも耳から溶け出しそうだ。

 異質なものを異質と感じる機能が麻痺(まひ)していた頭が一気に覚める。


「で、で、でも、俺、言葉だって分かるし、さっきキトが書いた文字も読めたぜ」


―――別の世界って何だよ!? い、異世界ってことか? これが噂のタイムスリップ!!


 マサミがいたら、冷静に「タイムスリップじゃないだろ」とツッコミを入れられているとこだろう。残念なことにマコトの心の声の間違いを正すことの出来る人間はココにはいない。


「それはコレのせいだよ」


 どこから取り出したのか、マコトの顔に手鏡を突きつける。


「鏡?」


 なんの変哲(へんてつ)も無い普通の鏡に見えた。木製の枠にはめ込まれた鏡に、首を傾げたマコトの顔が映っている。


「額をよく見て」


 言われるままに前髪をかきあげ、鏡に映った自分の額を見る。


「なんだコリャ?」


 ちょうど額の中心に、光るものが見えた。

 額に張り付いていたのは米粒より少し大きいくらいのガラスのような物体。

 撫でてみるとつるりとした感触で、ほんのり青味がかった透明なそれを通して肌の色が透けて見えていた。かなり意識して見ないと、気付かないだろう。


「水の結晶だよ。私が貼り付けたの」


「いつですか!?」


 茶器を持って台所から出てきていたキトが驚きの声をあげた。

 それはそうだ、マコトと出会ったとき、キトの言葉はマコトに通じていた。

 時折マコトがキトにはわからない言葉を発していたことを除けば、話すのに不自由は無かったと思う。


「西の泉に落ちてきた時だよ。その時にね」


 キトに説明していたミツシが、マコトに向き直る。


「無理やり剥がそうとしても、痛いだけだよ」


 ムギギギと指先に力を入れ、その張り付いた水の結晶を引っ張っていたマコトに、ミツシが眉を(ひそ)めた。


「だって、そんな得体の知れねーもん気味悪ぃじゃん」


 気味が悪いと言われて、ミツシの頬がプウッと膨らむ。


「水の結晶だって言ってるのに〜。取っちゃうと、言葉も字も通じなくなっちゃうよ」


「取れ」


「もう…」


 強固に言い張るのに、仕方なくミツシがマコトの額に手を伸ばす。指先をツイッと水滴でも拭き取るように動かしただけで、結晶は姿を消した。

 鏡をとり、なくなったことを確認したマコトが何か喋っている。

 キトもミツシも初めて耳にする言葉だった。


「わかるわけないでしょ〜」


 ミツシが言うのに、マコトがなにか強い口調で騒いでいる。


「なんて言っているんでしょう」


「『俺にわかる言葉で話せ』だって。知らないよ、そんなの。彼、結構ワガママだね」


 ミツシに同意すべきか迷って、キトは黙った。

 どうやらミツシにはマコトの言葉がわかるらしい。

 ミツシの額の水晶が、明るい場所ではそうとはわからない程度に輝いている。

 またもマコトが何か言うと、それを受けてミツシが不貞腐(ふてくさ)れたように呟く。


「気味が悪いから取れって言ったくせに〜」


「なんて言ったんですか」


「『すぐ、元に戻せ!』だって、面白いから放っておく?」


 余程、気味が悪いといわれたのが(しゃく)に触ったらしい。笑顔なのに目が笑っていない。


                            【SAVE】

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