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衝撃  作者: 木崎 るか
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【CONTINUE】 美少女とコッカー

狩場を抜けた三人。村で待っていたのはコッカーの……。

「…立てねえ」


 転がったままいつまでも起き上がろうとしないマコトを、村へと促したキトが頭を抱えた。

 マコトが冗談をいっているのでないことは明白だった。

 足はピクピクと痙攣(けいれん)し、キトの手を借りてどうにか上半身だけは起こしたものの、腰に力が入らないのだ。

 結局、キューイを拾い集めに行ったコッカーを待ち、肩に(かつ)がれ情ない姿で運ばれたマコトだった。



 村に着くと流石(さすが)に恥ずかしくなったのか、マコトはキトの肩を借りて自分の足で立った。なんとか足の痙攣も治まり、抜けた腰も復活したようである。

 森に一番近い茅葺(かやぶき)の家をキトが指して何か言おうとして止めた。

 扉が開き、中から少女が出てくる。

 少女は三人に気付くと小走りに駆け寄ってきた。


「コッカー」


 可愛らしい声と共に少女がコッカーの前で立ち止まる。

 満面の笑顔に上気した頬、緩く束ねられた髪はプラチナブロンド。細身の体にキトと同様白い麻の布で作られたブラウスとスカートを着ていた。

 近くで少女を見てマコトは驚いた。

 清楚・可憐・華やか、と三拍子揃った美少女。

 向かい合うコッカーが、ムサイ・暗い・何考えてるかわからねえボーっとした(ように見える)男なだけに益々彼女の美しさが引き立って見える。

 そのすっっっっげー可愛い子が恐ろしく冴えねー男(コッカー)にお帰りなさい、と抱きついている。前髪が邪魔でコッカーがどういう表情をしているかはわからないが、満更でもない様子で少女が抱きつくのを受け止めていた。


「……誰?」


「リリカラッテ」


 二人の様子にいつもながら仕方ないなあと苦笑を浮かべたキトが答える。


「リリ…なに?」


「リリカラッテ」


 大量のキューイの丸焼きに感動したリリカラッテが目をキラキラさせてコッカーを見つめている。コッカー以外は目に入らないといった様子にマコトがぱちぱちと目を瞬かせていた。

 コッカーとリリカラッテを交互に見ていたマコトが胡乱(うろん)な瞳でキトに向き直り、二人を指差した。


「似てねーけど、…妹か何か?」


 やたら仲良さ気な雰囲気を漂わせている二人を見て、マコトは瞬時に仮説を立てていた。

 1.幼なじみ(にしては、仲がいい)

 2.ただの知り合い(にしては、この親密そうな空気はなんだ?)

 3.恋人(っいやいや、それはない!!) ←断定的なところがコッカーに失礼だろ(汗)

 4.兄妹(きょうだい)(う〜ん、似てない。もしかして、異母兄妹とか?)

 5.イトコ(ありかな?)

 の中からなんとなく無難なモノを選び出したマコトだった。


「コッカーの奥さん」


 仮説には無かったキトの答えに、意味を理解するまでに少し時間がかかった。


「??? ! っんな、はあっ!!?? 奥さんっ!?」


 そう、奥さん。と頷くキトの耳にマコトは顔を寄せ、小声で囁いた。


「あいつって、若そうに見えるけど結構年いってんの?」


「十六だ」


「おにゃいでょしでゃ」


 すぽーんと魂が抜け出たような顔で言う。『同い年だ』と言いたかったのだろうが、あまりのショックに口が上手く回っていない。

 マコトの脳内にはこんな情景が映し出されていた。

 白い砂浜と真っ青な海。

 輝く太陽の陽射の中、現れたのは避暑地に遊びにきている深窓の令嬢。

 つば(・・)の広い白い帽子、流れ落ちるプラチナブロンド。細身の体に白いワンピース。白い砂浜にすんなり伸びた素足が眩しい。

 うふふ、あはは、と笑い海辺を駆ける可憐な少女。

 彼女の視線の先には誰もが振り返る白馬の王子さ、ま。。。

 ではなく、頭ぼざぼさのもっさい男。


―――って、あんだそりゃ!!


 自分の想像に鋭くツッコミをいれたマコトから勢いそのまま想いが言葉となって飛び出した。


「ダメだー! お兄ちゃんはそんな男認めません!!」


 クワッと見開いた目にはモサモサ頭がロックオンされていた。


「はあ!?」


 白い砂浜がどうの、深窓の令嬢がどうの、と意味不明なことをブツブツと呟いていたかと思えば、突然雄叫(おたけ)びをあげたマコトにキトが何を言い出す気だコイツは、と目を()く。


―――誰がお兄ちゃんだっ!


 我に返ったキトが止める隙を与えず、マコトはずんずんコッカーに近づくとムンズと腕を掴み、辺りを見回してコッカーを引っ張っていく。

 何がなんだかわからず引きずられていくコッカーをあ然と見ていたキトとリリカラッテにマコトが声を張り上げた。


「ハサミ持って来て!」


 マコトの勢いに押され、リリカラッテがハサミを取りに家へと駆け戻っていく。


「キト、汚れてもいい敷き物貸して!」


 指示を出している間にも自分はコッカーを適当な切り株に座らせてバックパックから取り出した櫛を使ってコッカーの髪を整えていく。

 敷き物を持って現れたキトからそれを受け取ると、コッカーの背中から敷物を(かぶ)せ前をコッカーに持たせる。そうこうしているうちに、リリカラッテがハサミを手に戻ってきた。


「あの…」


 不安げに差し出されたハサミを受け取ると、マコトは(おもむろ)にコッカーの髪の毛にハサミを入れた。


「「!?」」


 驚いて声も出せない二人の前で見る間にコッカーの髪が束で切り落とされていく。

 遠慮容赦なくハサミを振るうマコトの瞳が本人しか知りようもない使命感に燃えていた。


―――あんな可愛い子にこんなムッサイ男は似合わーーん!!


 ジャキンジャキンと重い刃の擦れる音と共にバサバサとコッカーの髪の毛が落ちていく。



 数分後。

 コッカーは敷き物を肩から外すと立ち上がり、衣服に落ちた幾スジかの髪の毛を払う。

 断りも無く髪を切られたことに不快そうに(しか)められた眉間にはシワが寄っていた。

 もっさりと暗い印象のコッカーは消え、今そこに立つのは流行(はやり)の雑誌から飛び出してきたようなモデルばりの優男。

 すっきり整った眉に奥二重(おくぶたえ)の目尻は少し下がり気味で、彼の優しさを表しているようだ。濃く(あお)い瞳からは彼の意志の強さや誠実さが(にじ)み出ていた。

 不機嫌な顔すら、コッカーを魅力的にみせる表情の一つに過ぎなくなっていた。

 いつの間にやらコッカーの正面にはリリカラッテが彼を見上げる形で立っていた。


「コッカー」


 指を胸の前で組み、名前を呼んだっきり、固まってしまったリリカラッテの反応は『恋する乙女』そのものだ。

 顔が、目が、片時もコッカーから離れない。

 リリカラッテのそんな様子に、深く刻まれた眉間のシワが消え、思いがけずコッカーが苦笑すると、クラリと眩暈(めまい)を覚えた人間が二人(・・)

 一人は言わずと知れたリリカラッテ。

 もう一人は、…マコトだ。


―――び、び、び、、、美男美女〜。お似合いだぜ、こんちくしょうめい!(意味不明。)


 なは〜と満足げににやけたマコトを見てキトがビクッとあとずさる。

 嬉しいんだか悲しいんだかわからぬ笑い泣き、目の幅涙を流す生き物に不安が募る。


―――ミツシ様、本当に! ほんっとーーーにっ! この男でいいんですよね〜〜


 キトの恨めしげな心の声が、本人知らぬ間に口から漏れていた。ヒクつく口元がキトの心境を如実に表わしていた。


                            【SAVE】

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