【CONTINUE】 狩・獲物・標的!?
踏み荒らされた地面。物騒な雰囲気。突然駆け出したキト。理由もわからずマコトはキトを追う。
森の生き物にしては重い足音を響かせながら駆け抜けていく生き物がふたつ。
生い茂った草の中に潜み、ヤツは聞いていた。
切れ長な瞳をスッと開くと、本能に立ち返った獣が現れる。
剥き出しの狂気。
空腹は限界に達していた。
マコトが初めに遭遇したヤツより遥かにほっそりとしている。
地面にうずくまり、体を伝わる振動に獲物の位置と距離をはかっていた。
すぐ横で気配が動き出す。
同じ様に飢えたキューイが目を血走らせ、興奮気味に鼻息を荒くしていた。
キューイは狩場に入ると、数頭で一つの群れを形成する。人で言うなら、目的を同じくした者たちが手を組むのと同じことだ。この群れは、六頭のキューイから成っていた。
群れの中に一際体の大きいキューイがいる。
ヤツがこの群れのボスだ。
他の数頭が立ち上がり、今にも飛び出していこうかという態勢であるにもかかわらず、地面に臥したまま動こうとしない。焦れたように若いキューイがボスを見た。
群れの力関係は単純で、年功序列だ。
年をくったキューイの方が狩に慣れているのは当然のこと。
若いキューイたちも知っている。若いキューイだけで群れを形成しない理由の一つに経験値不足であることがあげられる。
獲物の匂いに、一頭がたまらず飛び出した。
触発されたように二頭が後に続く。
リーダー格のキューイがのそりと立ち上がり、咆哮を上げた。残っていたキューイも弾かれたように茂みの中から飛び出した。
さあ、狩の始まりだ。
走る二人の耳にも、獣の咆哮は届いていた。
思わず立ち止まり後ろを振り返るマコトをキトが叱咤する。
「止まるな! 走れっ!」
少年には似合わぬ剣幕に押されマコトも再び前を向いて走り出す。
キトも必死で足を動かしながら、コッカーの言葉を思い出していた。
『狩場には近づくな。ズタズタに引き裂かれるぞ』
コッカーが冗談などいう性格ではないことはキトもよ〜く知っていた。
嫌な想像が過ぎるのを頭を振って追い出す。
別の方向から気味の悪い絹を裂くような声が耳を掠めた。
恐らくキューイの狩場に踏み込んだ生き物の断末魔。
ぞわりと背筋を冷たいものが這い上がる。
『腹を空かせたキューイに遭遇したらどうすればいい?』
キューイの習性をコッカーに聞いているときのことだ。キトの質問にコッカーは簡潔に答えた。
『逃げろ』
『それだけ?』
『リーダー格のキューイをつぶすのも有効だ』
『つぶすって、どうやって?』
『足をつかんで岩に叩き付ける』
つぶすって、潰すって意味かぁと感心している場合ではない。
『や、無理』
そんなこと出来ないし。
『油をかけて火矢を射る』
『無理』
油も火矢も持ち歩かないし。
『餌を撒く』
『エサ?』
『生肉』
『・・・』
そんなもんすぐ手に入るわけないし。
『他の生き物を囮にする』
『どうやって?』
『カウラバの群の所まで逃げればいい』
鈍足だから、そこまで走ればキューイの目がカウラバに向くと言いたいのだろうが、鈍足と言われたカウラバよりも早く走れる気がキトにはしない。
『だぁーー! 無理だって! もっとマシな方法はないのかよ』
到底キトには出来そうにもないことばかり並べるコッカーにキトが切れた。
しばし、思案した後、何といえば納得するんだ?と諦めのため息を吐き、コッカーが口を開く。
『…狩場には近づくな』
ダメだ。
もう遅い。
先ほどの咆哮がまた鼓膜を揺さぶる。それは、恐ろしく近い場所から聞こえた。
あっとマコトが叫ぶ声が聞こえ、振り返ると木の根に躓いたマコトが転ぶのが目に入る。そして、その向こうからキューイが迫ってきていた。
「マコト!」
注意を促すと後ろを振り返ったマコトの顔が恐怖に歪む。
「さっきの力を使え!!」
言われて咄嗟に腕をキューイの方へと差し出した。
「ファイアー!」
突き出した手のひらから勢いよく炎のカタマリが飛び出していく。
それが先頭を走る一頭を捉えた。体を赤い炎が包み込む。
後ろから来ていたキューイの群れが怯むのを見てとったキトが、へたり込んだマコトに走り寄ると腕を強引につかみ、走れ!と引きずり起こした。
恐怖と興奮でもつれそうになる足を何とか動かして引っ張られるままに駆ける。
朝から走りづめで足の筋肉がブルブルと震え出していた。極度の緊張状態でそのことにはまだ気付いていないが、動けなくなってはもう逃げようが無い。
すぐにヤツラは追ってくる。
絶体絶命! 大ピンチだ!
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