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変化する日常

広い広い草原を抜け、街道は森と林の中間のような木々の生い茂る間を進んでいく。


 「もう疲れた、歩けないよ。」

 「リズの言う通りだ。もうきつい。」

「そうですね。もう日も落ちてきますし、この先にある川の近くで野宿にしましょうか。」

 「え~。また野宿なの。お風呂にはいりたいよ~。」

 「はっはっは。まだそれを言うのですか?」


 全員が口を閉ざしセバスの言った川を目指して歩き続ける。

 この会話は町を出るときにも行われた気がするのは、気のせいではない。名実ともにリーダーはアリシアで間違いないのだろうが、こういった場面ではセバスが完全に主導権を握っている。

 

それは、数時間前からさかのぼる。


 野盗達との戦いが終わり、アレクから申し出る形でなんとか自警団に入ることが出来た。正確な時刻はわからないが、この街に入ったのが昼過ぎぐらいだったので、もうすぐ夕暮れの時間になっていくことだろう。

 この街の住人も門の兵士達もそれぞれの仕事へと戻りここには、自警団のメンバーと商業組合の恰幅のいいおっさんしかいない。

 

 「それでこれからどうしますか?もう少しこの街に残りますか?」

 「俺としては、このままアリシア達についていくから、そっちが決めてくれて構わないよ。」

 「そうですか。では、私たちはこの騒動の報告のために一度王都に帰還しようと思っています。」

 「それに、正式に自警団に入るには王の許可も必要ですしね。」


 自警団に入れてもらった立場にも関わらず、アレクに一度許可を取ろうとしてくるのは、きっとアリシアの性格なのだろう。記憶を取り戻すため。自分の国を見つけるためという名目で自警団に入ったが、実際のところは違う思いがアレクの中にはあった。

 自分のことを知りたい以上にアリシアやリズベル。自分を救ってくれた人たちに恩返しをしたいし、何より、もっと彼女たちのこと知りたかった。


 「分かった。とりあえず、次の目的地は王都ってわけだな。」

 「はい。宜しくお願い致しますね。」

 「でしたら本日は、我が屋敷にお泊り下さい。街を救っていただいたお礼をしたいと思っていたのですよ。」

 「いえ。それは自警団の務めですのでお礼などいらないです。」

 

 善行は自警団として当たり前。お礼を受け取る方がおかしい。この意見には満場一致で賛成だった。


 「自分たちの宿は、自分たちで探すから大丈夫だよ。」

 「そのことですが、すぐにでもこの街をたとうと思っております。必要な旅の道具は一通りそろえてありますので。」

 「えぇ!?お風呂は!?ふかふかのベットは!?」

 「はっはっは。そんなもの王都に帰ればいくらでも堪能できるではないですか。」


 王都に帰れば。アレクの持っている少ない記憶の中の記憶では、この街に来るのに大体、3日以上かかってきたと言っていたのは気のせいではないだろう。一直線で帰ったとしても、今出発すれば野宿は確実だ。


 「セバスがああやって笑っているときは、逆らってはダメな時です。」


 アリシアがそっと耳打ちする。確かに今のセバスはなんか怖い笑顔をしている。


 「アリシア様。なにかおっしゃいましたか?」

 「いえ。なにも。」


 自警団のリーダーであるはずのアリシアも思わず背筋を伸ばして返事をする。逆らってはいけない上に地獄耳。まったく厄介な騎士様だ。


 「そういうことですのでお気遣いなど無く。」


 そう告げると、心配そうに呼び止める商業長に背を向け、文句を言い続けるリズベルを抱きかかえセバスは、正門に向かって歩き出す。

 ああ、この自警団の力関係が少しわかってきた気がする。



 そして、時間は現在に至る。


 河辺でセバスの作ってくれた食事が意外にうまいことに驚きつつアレクにとっては、生まれて初めての野宿が始まる。夜になるにつれて、焚火の光が届かないところは何も見えないくらいなのだが、夜が完全に更け始めると、大きな月のおかげか、目が慣れてきたのも併せて、かなり遠くまでの視界を取り戻していた。

 夜は、アリシア達が今まで自警団として訪れた村の話やきれいだった風景のことについていろいろ聞いた。

 エルフのいる、入れずの森やオーガの谷のこと。海底に沈んだ都市の話や万年生きる湖の主のこと。いつか自分の目で確かめられる日を夢見ながら、アリシア達一行は、明日に備え眠りについた。セバスの話では大体半分くらいの帰路にはついていて、明日の昼過ぎには王都につくらしい。

 夜完全に更け切ったころ、アレクは妙な胸騒ぎを覚え目を覚ます。周りではアリシアもリズベルもセバスですら寝静まっている。ふと、空を見てみると。月がある方角と真逆の方角の空に奇妙な光源があることに気付く。その光源を見るためにアレクは川の中へと入っていく。


 「なんだあれは・・・。」


 その光源は正確には一つではなかった。二つの大きな魔法陣が空に描かれていたのだ。

 その魔法陣を観測したのは、この世界でアレク以外にもいたことは、股別のお話。


 「アレクさん。どうしたの?」

 「悪い。起こしたか?」


 アレクが川に入っていく音で起きたのか、アレクのつぶやきが意外と大きかったのかは不明だが、目を覚ましたリズベルが話しかける。リズベルは、ブーツが濡れないように裸足で両手にブーツを持ち、アレクのいる川の中にはいって来る。アレクは、リズベルがすぐそばにまで来たことを確認すると再び空を見上げるが、奇妙な光を放っていた魔法陣は一つも残っていなっかた。


 「あそこの空に魔法陣がでっかく描かれてたんだよ。」


 と、アレクは先ほどまで大きな魔法陣が描かれていた空を指で円を描くことでリズベルに示す。


 「本当に!?だとしたら、すごいことだよ。」


 魔法陣が書くのではなく具現化したとするならそれは、発動者の魔力量に比例する。故に、必然的に空に直接魔法陣が書けない以上、先程の魔法陣を発動させた者の魔力量は、空を埋め尽くす規模のものであった。と、いうことになる。普通に考えればそんなことは不可能だ。リズベルの知る限りそんな魔法使いはこの国にはいないし、古の大英雄ですらそんなシーンは描かれていなかった。つまり、アレクの見た現象が本物だとしたら古の大英雄を超えるほどの魔術師がいることになる。


 「リズ。ちょっと行ってみるか?」

 「そんなに近かったの?」


 幸か不幸か、魔法陣が起動したのは川を渡った向こう側の森の中の空。朝起きれば向かわなくてはならない方角だ。もしも、敵だとしたら何かしらの対策を取る必要もあるだろう。この先に起こるであろう不確定要素は、排除するに限る。


 「ああ。この先の森の中だ。」

 「分かった。行ってみよ。」

 「じゃあ、アリシアとセバスも起こすか。」

 「待って。お姉ちゃん達はいいよ。何かあったら知らせに来よ。」


 戦闘で最も負担がかかるのは、アリシアとセバスの二人だ。アレク達よりも体力があるといっても精神的には常に糸を張っている。アリシアに関して言えば、女性な上に、団長の責任もある。このくらいは休ませてあげたいというリズベルの優しさなのだろう。


 「分かった。ならなおのこと見に行くだけにしておくか。」

 「そうだね。もし何かあっても帰って来よ。」


 そういうとリズベルとアレクはアリシアとセバスを起こさないように川を渡ると、空に魔法陣が描かれていた森の中へと歩みを進める。昼の獣たちは寝静まり、夜の不気味な雰囲気が森を包む。幸いにも月の灯りは大きく、森の中にも前は見えるくらいに光は届いていた。


 「本当にこの辺り?」

 「そう言われると弱るな。鳥だって意外と遠いことも多いだろ。」


 空に飛んでいる者の正確な位置をつかむことは容易ではない。他に観測できる対象があるなら話は違うだろうが、何もない森や草原では難しいだろう。 

 怪しみながらも進んでいくとアレクの耳に奇妙な音が届く。


『・・・ミ・・・・。・・・ニ・・。』


 ほとんどがかすれていて聞き取ることのできなかったが、何かしらの音にアレクは足を止める。


 「リズ。今何か聞こえなかったか?」

 「?。何も聞こえなかったよ?」


 リズベルは、急に止まったアレクの背中にぶつかりそうになりながらも答える。確かに、気のせいで済ませられる音量のものであったが、その音は、人の声にも聞こえた。


 「そうか、わかった。この先だ。ゆっくり行こう。」

 「うん。」


 アレクとリズベルは茂みの中に体を隠すようにしゃがんで進む。フクロウの鳴き声だろうか、夜の森にふさわしい鳥の鳴き声と木々の騒めきに合わせて足音を殺す。


 「アレクさんあれ!」

 「ああ。」


 叫ばないように細心の注意を払ってリズベルは指を進行方向に向ける。そこには、今で見たこともないものがあった。


 黒い塊。


 しかし、自然界にあるような黒とは少し違った黒。まるで景色の中のその一部分だけが光を失ったかのような黒。そして、その黒い塊は、呼吸するかのように動いていた。


 「この国にはああいったものが、いっぱいあるのか?」

 「そんな訳ないじゃん!」


 アレクの渾身のジョークも少し声の大きくなってきたリズベルの真剣な表情の前に悲しく一蹴される。そんな冗談を言わなくては、落ち着いてこの茂みの中からあの黒い塊を見ていることが出来ないほどだった。

 まず、あれは生物なのだろうか?

 だとすれば、体長はかなり大きい。今が手足のような部分を抱えうずくまっていたとしたら、全長は5メートルはくだらないだろう。そもそも、これだけの異常な生物が、自警団が知らない時点でかなりやばいものであることは確実だ。


 「アレクさんの見た魔法陣は、この生き物を召喚するものだったのかな?」


 召喚魔法。

 異界もしくは空想上、現実世界の生物、非生物に関係なく術者の契約もしくは所有しているものを呼び出す魔法。その距離は魔法陣の規模に比例し、魔法陣の規模は術者の能力に比例する。地面に直接大きな魔法陣を書いたとしても起動できる魔力を必要とする。


 「だとしたら術者が近くにいるはずなんだが。」

 

 急な記憶のフィードバックに目眩を覚えつつもリズベルの疑問に思考を巡らす。

 召喚魔法を発動するときには必ず、召喚する地点に魔力が必要になる。召喚魔法はいってしまえば、召喚するものと同等の魔力との位置交換魔法に過ぎないなのだ。故に、この場所にこの黒い塊を召喚したいのであれば、遠く離れた地点にあれだけの大きさの魔法陣を生成できるだけの魔力を有しているか、この場所に同等の魔力の素となる物が必要となる。こんな森の中に魔力の素になる高価な魔石を置き去りにする理由も無いし、空を埋め尽くすほどの魔法陣を起動させる魔力というのも現実味がない。したがって、この場所に、魔石と一緒に術者が居なくてはならないはずなのだが・・・


 「でも誰もいないよ。」


 暗い森が広がるばかりで辺りには、二人以外の姿も気配もない。そして、この時まで完全に失念していたが、アレクが見たものは魔法陣一つだけではなかった。


 「そういえば、魔法陣は二つあったような・・・。」

 「え!?じゃあ、この黒いの、まだどっかにあるってこと?」

 「確証はないが、恐らく。」


 まったく同じ形と色をしていた二つの魔法陣。召喚の魔法陣に限った話ではないが、召喚するもの、その地点までの距離、術者の魔力特性によって魔法陣の色や形状は変化してくる。まったく同じ魔法陣ということは、同じ場所から、全く同じ術者が、同じものを召喚させたという事だ。しかし、そうなってくると、先程の魔力と術者の問題がまた出てくる。あれだけの規模の魔法陣を同時に二つ出したとなれば、もう人間ではない。

 アレクとリズベルは茂みの中から出る。最初に決めた何もせずに帰るということも忘れ、リズベルとアレクは黒い塊に歩み寄る。


 「本当にこの国にはこういう生物いないんだよな?」

 「怪物や魔物を含めて、こんな生き物見たことも聞いたこともないよ。神に誓おうか?」

 「そこまで言うなら本当なんだな・・・」


 だとしたらこの黒い塊も正体不明なのか。と、自分のことを含めアレクは思う。先程から感じる、背中を刃物でなぞられているような感覚。もしかしたらこの生物を記憶を失う前のアレクは、知っているのかもしれない。

 呼吸するかのように動いていた黒い塊は、基本的には無臭だった。しかし、よく見てみると剣のような刃物で切り取られたかのような傷がいくつか見つけることが出来る。


 「何かと戦ってたのかな?」

 「だとしたら、もう一個の魔法陣から出てきたのと戦ったんだろ。」


 同一の生物でなくても構成要素が酷似していれば同様の魔法陣は二つ形成される。

 そこでアレクは一つの仮説を立てた。術者が二体の生物を二つの魔法陣で飛ばした。その術者は、ここの地下にでも存在する、大きな魔石の鉱脈を取ることが目的で、ここに二体の生物を飛ばした。これが人間規模で起こり得る可能性で考えたアレクの見解だ。しかし、二体の生物が戦うことにも疑問は残る。魔石鉱脈をほり当てるときに、その魔石と同等の価値があれば何でもいいわけで、わざわざ戦っている二体の生き物の近くで召喚魔法を発動する理由もない。


 「それともこの二体をその場所にいるのがここの魔石の鉱脈を引っ張っていくことに最適だったのか・・・」


 そうなれば、話がうまくいきそうではあるが、

 しかし、そもそもそこまで正確に魔石の埋蔵量が分かるものだろうか?また、それだけの規模で地中内の魔石が消えたとしたら・・・


 「ああ、もう。考えがまとまらない。」


 頭を悩ませているアレクと違いリズベルはおそらく死にかけの黒い塊に近づいていく。


 「主よ。この者に罪があるというのなら私が償います。せめて死にゆくかの者を主の前へ等しくお導き下さい。かの者の罪をお許しください。天界の光、等しく地に注ぎて、無情の理へと導かん。≪セイクリット・ピュリフィケーション≫。」


 その言葉と共に黒い塊を光が包む。呼吸するように動いていた黒い塊は、ゆっくりと穏やかにその動きが遅くなる。そして、完全に動かなくなった。


 「さすがはプリーストだな。」

 「まだ、見習いに体なものだけどね。」


 えへへ。と、照れたようにリズベルが笑う。すると、黒い塊に変化が起きる。


 「リズ!離れろ!」

 「きゃッ!」


 とっさに危険を感じたアレクはリズベルの黄色いローブの首元をつかみ強く引く。

 黒い塊は動きはしないものの、体のいたるところが沸騰したようにふつふつと、中から気泡を出し始めたのだ。その気泡の数は徐々に増加し、それに比例する形で黒い塊の体積は小さくなっていく。


 「リズの魔法はこれも込みなのか?」

 「ううん。こんなの初めて見た。」


 アレクが早とちりで騒いでいないことが分かり、多少なりともホッ、とするが気は抜けない。黒い塊から目を離さないようにゆっくりと距離を取る。

 黒い塊だったものとの距離が5メートル近くになったとき、完全に黒い塊はなくなってしまった。そして、


 「なっ・・・。」

 「アレクさん。・・・これって・・・」


 黒い塊が消えた場所から現れたのは、一人の成人男性だった。身に纏うものを見る限りは、そこそこ裕福な騎士のようで、豪華な鎧を着ていた。急いで駆け寄り脈を計ってみるが、完全に絶命していた。


 「わ、私がやったの・・・?」

 「大丈夫だ。リズのせいじゃない。」


 普段から自警団で活動しているのなら人が死ぬことにも慣れててもおかしくないだろうが、優しいリズベルは、理由のなく人の命を奪うことには慣れることは無い。それはきっとアリシア達も同じだろう。

 泣き崩れそうになるリズベルを支えながらアレクはリズベルとセバスの寝ている河辺へと向かった。




どうも片桐ハルマです。

 季節の挨拶を入れたいところですが、これを読むのはきっと不定期なので割愛します。(今まで一度も入れたことなど無いのですが(笑))

さて今回は、アレクさんが自警団に入って王都に帰還するまでに一つの事件が起こりました。この騎士はいったい何者なのか?あの魔法陣は?黒い怪物は?いろんな疑問が生まれ今後の展開の中心となるものですので、他紙身にしたいただければ幸いです。


 毎回かなり短いお話の連続ですので、つまらないと思いますが、温かい目で見ていただければ幸いです。

この話まで読んでくださった方に心からの感謝を、今回から見た方はぜひ最初からお会いできることを願っております。そして、次のお話でもお会いできることを楽しみにしております。

 

 では

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