第一歩
「アレクさん。あなたを捕縛します。」
もちろん、セバスにだってアレクが味方してくれたことには感謝はしている。しかし、
野盗達の襲撃を受けたのも、その野盗達によりアリシア様が手傷を負ったのは事実だ。そして、それ以上にまずいことにこのままではなりかねない。
今で何度もアリシア様の口からきいてきた、
『私に力を貸してください。』
その人徳は素晴らしいく、見る目も確かだ。そのおかげで自警団は今や国最強の部隊にまでなっているのだから。しかし、今回だけは言わせるわけには言わない。
アリシアとアレクの間に立ち、険しい表情を崩さない。とは言えアリシアにもそれなりの意地がある。セバスに言われてはいそうですか。と、言って引き下がる玉ではない。アリシアは、セバスの前に出て言い放つ。
「どういうつもりですかセバス!アレクさんは!」
「アリシア様こそ、その言葉がどれほどの意味を含んでいるのかお分かりですか?」
そんなこと百も承知名アリシアは反論しようとする。しかし、それをアレクがアリシアの肩に手を置くことで止める。
「落ち着けよ、アリシア。セバスの意図も酌んでやれって。」
今まさに捕縛されようとしているのに、なぜこんなにもアレクは落ち着いていられるのだろうか、アリシアには不思議でしょうがない。アレクはアリシアの向こう側にいるセバスに目線を飛ばす。
「悪いな、セバス。悪役買ってもらっちゃって。」
「いえ。アレクさんに伝わっていたようでよかったです。」
最初から険悪な雰囲気だったアレクとセバスのみが、互いの言わんとしていることを理解したらしく、早々に和解し、笑みを浮かべ合う。一方、アリシアとリズベルの疑問は晴れておらず納得がいかない様子だ。
「え?え?どういうこと?」
「リズベル様よく考えてみればわかりますよ。」
そう言われてアリシアとリズベルは頭を使うが、捕縛しようとする理由しか分からない。そこからアレクと顔を合わせて笑い合える理由までは浮かばない。
「分かんない。ギブアップ。」
リズベルがギブアップ宣言をしたと同時にアリシアも頷き答えを求める。セバスは少し疲れたように小さなため息をつく。この二人には一度信用した人物を疑うということを知らないらしい。こんな事ではいつか痛い目を合う。その時も、しっかり支えなければと心に誓う。
「アレクさん。説明をお願いできますか?」
「自分で言うのは少し気が引けるが、ご指名とあれば。」
うぅん。と、一つ咳払いをする。
「アリシア達の話を聞く限りじゃ、オレの剣術はこの国最強のアリシアに匹敵するくらいの実力はあるんだろ?」
「私は最強ではありませんが、多分、いい勝負になる実力をアレクさんは持っていますよ。」
「それに加えてアレクさんは、魔導書使うことが出来るもんね。」
「それだ。」
リズベルの発言にアレクは指を鳴らし、即座に肯定する。
剣術に優れ、魔導書を扱う戦士はこのバルダーム大陸では古の大英雄以来歴史に姿を見せていない。故に、リズベルとアリシアがあそこまで驚き、あの女店主は、アレクに無料で鞘を渡し、恩を売っておいたのだ。
「そんだけ強かったなら記憶を失う前、つまりはオレの国にいたときも戦士だった可能性は高い。それもアリシアのように軍の中心だった可能性もな。」
「絶対そうだよ。だって作戦も指示も的確だったしね。」
「そうなると、アリシアからオレのことをこの国の国防軍である自警団に誘うことは、かなり危険なんだ。」
「なぜでしょうか?」
いまだに理解できていないアリシアとリズベルに、ついにセバスが説明を始める。
「アレク殿をアリシア様が誘ってしまった場合、他国の英雄を引き抜いたと言われても反論が出来ないのです。しかも、かなり乱暴な方法で引き抜いたと言われても。」
「なんでよ。アレクさんは記憶を失って倒れてたんだよ。」
「ええ。ですがどの位の人がその言葉を信じてくれるでしょうか?アレク殿は記憶を失ってしまっている。その要因が引き抜いた我々が作った。と、言われてしまった場合、それこそ取り返しのつかないことになってしまいます。」
「つまり、形式上であってもアリシアにオレ自身の意思で自警団に入りたいと言わないと、最悪、オレの国と戦争になりかねないという訳だ。」
もちろん、それ以外にもセバスの頭の中には懸案事項はいくつか存在する。まずは、本当にアレクという人物は、信用できるかどうかという問題だ。剣術の才に魔法の才。兵法の才に加えここまで読みも深い。こちらを信用させようと野盗討伐の一芝居をした可能性もある。次に、今言った内容のことを他国が罠としてこのアレクを我々に仕掛けてきたという可能性だ。このまま、アレクをこの国に置いておくことは、後々この国によくないことを及ぼしかねない。しかし、この二つは、アリシアの言葉を尊重しよう。アレクを信用すると決めた君主のことを。困っている人を見捨てないという団長の方針を。
「そういう意味があったのですか。すみませんセバス。感情的になってしまいました。」
「いえいえ。最終的にはご理解いただけて何よりです。」
本当にこの女性は上に立つものとしての自覚が足りない人だ。しかし、素質も人徳もずば抜けている。完璧な人などいない。なら、足りない部分を補ってあげるのが私の務めだ。
「だとしたらアレクさんは自警団の仲間に成れないってこと?」
リズベルが大変残念そうにセバスの顔を見る。不安そうな顔はたいへん破壊力がある。セバスもそんなことは無いと言いたいところだが、こればっかりはアレク意思のみがその先を決めることが出来る。
その結論はほぼ同時に全員がたどり着いたようでアレクの方を見る。
「そんな風に見なくったって、こちらからもお願いするつもりだよ。アリシア。」
「俺に力を貸してくれないか?」
「はい。喜んで。」
その結論を出すのにアリシアは時間をかけることなくその答えを出す。
二人の物語が一歩進み始
どうも片桐ハルマです。
本来はここまで書きたかったのですが意外と忙しくて今週の投稿になってしまいました。
ようやくアレクがアリシアの仲間に入ることが出来ましたようやくお話が始まりそうといった進行具合ですがこれからも楽しみにしていただければ幸いです。
次の話や別の小説でもお会いできることを信じて短い挨拶は終わりにしたいと思います。
最後までお読みいただき心からの感謝を。
では