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市街地戦 終戦

 「さすがだなぁ。黒髪ぃ!面白くなってきたじゃねぇか!」

 「悪いけど、俺は全く面白くないね。完全に手詰まりだ。」

 互いの距離は約五メートル。たった数歩で埋まってしまう距離など当てにならない。首領と会話しながらも次の一手を必死に考える。

 その時、首領の頭上の変化にアレクは気が付いた。ほんの僅かに不自然な光が首領の頭上に生まれる。そして、


 「≪ホーリーアロー≫。」

 

 拮抗する者同士の戦いにおいて死角からの一手、それも援軍の到着はその戦いを決定づける一手になりえる。しかし、それは、互いにその戦いを終わらせられる一手を持っている時だけに限る。

 アレクと首領の立ち位置は最初の場所から180度入れ変わり首領の後方になったリズベルは好機を得た。この立ち位置なら野盗たちの首領に勘繰られることなく祈祷による直接的な戦闘援護が出来る。アレクが敵に攻撃をすべてよけ今のところ無傷なため何一つとしてすることがなかったリズベルはここぞとばかりに詠唱を開始する。元々プリーストであるリズベルは高位の戦闘呪文を有していないがそれでもアレクの手助けとなりうる一手は持っている。

 

 「≪ホーリーアロー≫。」


 最も低位の攻撃呪文の一つ。相手を殺す、もしくは肉体的なダメージを与えることはない。体中を無数の針で刺されたくらいの痛みしかないのだが、一時的に相手の足を止めることが出来る。セバスの話では、拮抗した戦いであるならばなおのことその一瞬の隙で勝負が決まるらしい。アレクと盗賊の首領との戦いは戦闘の素人であるリズベルにはセバスの言うそれに見えた。

 リズベルの祈祷による呪文≪ホーリーアロー≫。無数の光の矢が盗賊の首領に突き刺さる。しかし、相手の足が止まったとしても、アレクには首領に止めを刺せるような一手など持ち合わせていない。リゼベルの思いとは裏腹にアレクは一歩たりとも動かないばかりか困惑の表情を浮かべる。


「せっかく盛り上がって来たってのによぉ。水差してんじゃねぇぞ!。」


 ようやく怒りが収まりかけていたところに、アレクとの楽しくなってきた戦闘に水を差す資格からの一撃。戦闘をこよなく、愛し傭兵崩れの盗賊にまでなって強者との戦いを待ち望んでいた首領にとってこの一撃は許せないものだった。もちろん、ここは戦場だ。必ずしも一対一が成立する訳ではない。死角からの攻撃、敵の援軍、奇襲作戦。多種多様な手段を使って相手を殺すのが定石だ。ただ、こんな今までの戦闘を見ていればわかるような、無駄な足止め攻撃をしてきた素人に首領は激昂した。

 アレクの存在など忘れたかのようにリズベルの方を振り返ると、一気に走り出す。さすがというべきか30メートル以上も距離が開いていたにも拘らずものの数歩でリズベルのもとへその距離を縮めていく。

 アレクも必死に追走するが元々開いていた5メートル分のハンデがある。


「リズ!逃げろ!。」


 そう叫ぶが、リズベルもこちらに迫ってくる首領の威圧で聞こえていないようだ。その時、再びアレクと首領の戦場に変化が起きる。リズベルと首領の距離が残り10メートルを切ったとき、一つの影が両者の間に割って入る。


 「遅れてすみません、リズベル様。」


 まさに見計らったような英雄的タイミングでセバスが現れる。


 「(ほんと、タイミング見計らってたんじゃないだろうな。)」 


 などと考えつつよく見てみるとアリシアも既にリズベルの側にいる。

 セバスの登場。アリシアの確認。それにより心のどこかにあった不安がアレクの中から抜けていく。頭が瞬時の回転率を上げ体もそれに呼応するように動いてくれる。

 懐にしまっておいた魔導書を取りだっすと野盗の首領めがけて持てる魔力のすべてをつぎ込む。


「≪ファイヤ≫」


 炎の塊は首領の背後で爆散するとその体を一気に押し飛ばす、バランスを取ろうとするがすぐ目の前にはセバスがいる。急な状況の変化にも、セバスは難なく対応する。持っている槍を馬の上で器用に回すと槍の尻。刃のついていない部分で首領の胸部を突き刺す。


 「ッくかッ!」


 流石の首領もセバスの一突きに魔法による加速。これほどの一撃を胸部に食らってしまっては耐えられず昏倒する。

 手際よく首領を縛り上げるともうすでに縛り上げていた側付きの二人のもとに置く。


 「いや、間一髪だったよ。ありがとうセバス。」

 「いえいえ。アリシア様とリズベル様を御守りするのが当然の責務ですから。」

 「そうだぞ、リズ。それにこの二人はずっと俺たちの戦いを監視してたんだから。」

 

 アレクの言葉に三者三様の反応を示す。


 「えっそうなの!?ちょっとセバスどういうこと!」

 「ははっ。気付いておられましたか。さすがですね。」

 「すみません。どうしてもアレクさんの強さを見極めたくて。」

 「ちょっと!セバス!無視なのー!」

 「はっはっは。」

 リズベルとセバスはコントのようなことをし始め、アリシアは必死に頭を下げつつける。

 かまを吹っかけてみるものだな。と思いながらアレクは微笑を浮かべる。戦闘が終わり、とりあえずは全員が無事だった。まあ、腑に落ちに点はいくつかあったもののとりあえずは勝利を喜ぶことにしよう。


 「まあ、とりあえずお疲れ。全員無事で何よりだよ。」

 「そうですね。助かりましたアレクさん。」

 「ほんとだよ。アレクさんがいなかったら大変なことになってたもん。」

 あまり人から褒められることに慣れていないからか、アリシアとリズベルの称賛に苦笑いする。その称賛の言葉を浴びたとたんアレクの足から急に力が抜ける。張り詰めていた精神の糸がプツリ、と切れ立っているのもままならなかった。簡単言ってしまえば腰が抜けたのである。


 「大丈夫!?アレクさん。」


 リズベルがすぐに駆け寄ってくるなり呪文の詠唱を始めようとするがそれをアレクは片手をあげることで制す。


 「大丈夫だ。ただ気が抜けただけだから。それよりあの屋敷にまだ二人残ってるはずだからそっちを頼むよ。」


 アレクは、座り込んだ情けない状態からアリシア達にそうお願いするがすぐ後に聞こえてきた第三者の声によってその必要もないことを悟った。


 「おお。すみませんすべてお願いしてしまって。やはりさすがですね、なんとお礼を言ったらいいか。」

 「いえ。不要ですよ。」


 アリシアは優しい笑顔を浮かべながら来て早々頭を下げようとした人物のことを制す。それは、この街の正門のところで出会ったこの街の防衛隊長さんだ。ようやく街の住人たちの避難誘導が終り、正門からこちらに向かったことの旨を聞きつけて十数人の兵を引連れて安吾に来てくれたらしい。

 アリシアとセバスが成り行きとまだ野盗たち数名が残っていることを伝えると、さすがに街の防衛を任されている責任はあるようで、すぐさま橋の向こうにある大きな屋敷に向かって走り出そうとしたので、


 「それならこの辺りで一番狙われそうなのに全く手の付けられていない屋敷も調べてください。たぶん、賊どもの内通者がいると思うので。」


 と、アレクが付け加える。

 兵士たちはなんの疑うこともせず二つ返事でアレクの要望に応えると走り去ってしまった。

 そんな慌ただしい兵士たちを見ながら、ボロボロになってしまった鈍らの剣を鞘の上から撫でながら心の中で、お疲れ様。と、アレクは呟く。

その時、


「おい。黒髪。早く俺を殺せ。」


 ロープで縛られたまま兵士達にも連れていかれなかった野盗達の首領が目を覚ましアリシア達に突然、殺すことを要求してくる。


「生きていても何の意味もねぇ。ならせめて戦いの中で死にてぇんだ。」


 その言葉からは切実さというものが伝わって来た。戦いだけが生きる理由でそれを続けるためだけに傭兵を止め野盗に落ちた者たち。その中でもこの街の中に入ってきた者たちは戦いの中、強者と戦い、人生を終えることを目的に生きてきたのだろう。それ故の強さが最初、アリシアとセバスをあんなにも追い詰めたのだろう。


 「殺しません。初めにも言いましたがあなた方の身柄はこの街の領主のもとに明け渡します。そこで正しい裁きを受けてください。」


 アリシアは凛とした態度で首領の願いを一蹴する。


「生きてる理由がねぇって言ってんだ!わかってんのか!」


 首領の激昂にリズベルがピクリと肩をすくめる。


「そうですか。」


 アリシアはそう呟くと首領に詰め寄る。



「なら。私にはあなたを殺す理由がありません。」



 いつの間にかアレクの側にいたセバスも同意見のようで兜を外し完全武装も解いていた。


「はッ!甘ちゃんだな。いつかお礼参りにあっても知らねぇぞ。」


 野盗の挑発の言葉はアリシアには理解できなかったらしくセバスの方を見るが、セバスも軽く肩をすくめる。

(まぁ、三人とも育ちは良さそうだしな)

 この中で唯一首領の言葉を理解したアレクは、ようやく立ち上がるとアリシア達の隣に立つ。


 「そん時はまた返り討ちにしてやるよ。」


 終始険しい顔をしていた首領の顔が緩み「ふんっ。」と、鼻で笑う。


「ならせめてこの剣を持っていけ。俺は一度死んだ。これでそういうことにさせてくれねぇか。」


 セバスによって野盗たち全員の武器が一か所に集められた場所を顎で指す。そこには有象無象の中、一際輝くさやに納まった剣があるのが見て取れる。形状はアレクやアリシアの使っている両刃の直剣に近い片刃の剣。体の大きい首領が使っていた時はあまり大きいものではないと思っていたが、アレクの借りた剣とあまり変わらない大きさらしい。

 一応、セバスの方に一度目線を飛ばしてみたが、こちらを見ていない。どうやらなかったことにするらしい。


 「大金をはたいて買った業物だ。好きに使え。」

 「じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ。」


 そういうとアレクは武器の山から煌びやかな鞘の剣を手に取る。すぐに鞘をその場に捨てると、素朴な、装飾のない片刃の剣があらわになる。白銀の刀身には一切の刃こぼれもなく切れ味も言わずもがなの一級品の剣。柄の部分の手になじむ感じも兵士から借りたそれとは違うことを感じた。


 「礼は言わないぞ。」

 「要るかよそんなもん。虫唾が走るわ。」

 

 その後、屋敷の方で残っていた野盗達とそれを手引きしたと思われる貴族を連れて戻って来た兵士達に連れられ首領も兵舎のある路地の方へと消えていった。

 その後は、街の偉そうな人たち(商業組合やその他の組合の長たちらしい)とセバスとアリシアが話し始める。


 「それにしてもアレクさん。魔導書だけでなく剣も使えるなんてビックリだよ。」

 「ほんとだよ。なんとなく借りておいてよかったぜ。」


 初めのうちは内心びくびくで抜刀していたのだが、やはり記憶を失う前には使っていたらしく、一度打ち合った瞬間に難なく使いこなせた。


 「本当よ。魔剣士なんて初めて見ちゃった。」


 突然、背後からかけられた声にアレクとリズベルは驚いて振り返る。そこには魔導書を買った店のピンク色の髪の毛の女主人だった。

 身長はアリシアと同じくらいでアレクよりも少し低い。髪より少し赤みの強い瞳で顔も美人と呼べるほどに整っている。歳も二十代の健康的な褐色の肌の女主人は両手を体の後ろに組んでそこに立っていた。


 「あんたずっと見てたのか?」

 「まあね。店には大事なものいっぱいあるし。」


 よく見てみると魔導書を買った、この女主人の店もすぐそこにあるのが分かる。


「ほいこれ。その剣には鞘が必要だろ?これはお礼だよ。ありがとね。」


 そう言って後ろから取り出したのは革製の鞘だった。鞘を受け取ってはめてみると、驚いたことにサイズはぴったりだった。


 「すごいな。でもいいのか?」

 「いいさ、いいさ。その代わりあたしの姉妹を外で見かけたときにはなんか買ってあげてよ。見た目もそっくりだし、全員ミハヤって名前でやってるからさ。」

 「なるほど。売り上手だな。」


 ウインク付きの笑顔をアレクとリズベルに残すと今度はアリシアの方へと行ってしまった。


 「すごい人だね。」

 「ああ。ああいう人は強いな、きっと。」


 身体的にではなく、メンタル的にも。


 待ちの偉い人たちとの話し合いが終わり、アリシア達がアレクとリズベルに同流する。少し離れたところでは、街のお偉いさんたちと防衛隊長が話し合いを始めている。


 「アレクさん。魔剣士だったんですね。」


話し合いが終わったアリシアはキラキラした目でアレクに詰め寄る。


 「やっぱり、珍しいのか?俺には分からないけど。」

 「珍しいってもんじゃないですよ!魔剣士なんて古の物語に出てくる大英雄様くらいしかイグニアス大国にはいなかったんですから!」


 アリシアのこんな表情初めて見た気がする。リズベルのように感情をむき出しにしてアレクに熱弁してくる。


 「・・・アレクさん。改めてありがとうございました。あなたがいなければ・・・」

 「アリシア。そうゆうのはなしだ。俺もアリシア達がいなければ生きていられなかったよ。お互いさまってやつだよ。」


 アリシアが頭を下げようとするのをアレクは食い気味に制す。互いに助け合ったのだからアレクとしては、謝罪も礼も不要に思える。


 「そうですか。では、お礼もまたの機会にしましょう。」

 

 アリシアは若干、不服が残るような表情を浮かべたが、最後には笑顔アレクにこたえる。


 「アレクさんはこれからどうするの?この街に残るの?」


 リズベルの問いかけにアレクは頭を悩ます。自分が何者かわからない以上それを探すのも悪くはないのだが、何せ独りぼっちだ。確かにこの街なら仕事の面では困らないかもしれないが、せっかく仲良くなることのできたアリシア達と別れるのは少々寂しいものだ。

 うーん。と、アレクが頭を悩ませていると、アリシアが真剣な表情を向けてくる。


 「でしたら・・・。」


 その言葉を遮る形で今まで沈黙を続けていたセバスがアリシアの前に出る。その表情は先ほどの戦闘中にフルプレートの仮面の下に浮かべていたであろう厳しいものだった。


 「アリシア様その前に一つよろしいですか?アレクさん。他に思い出したことはありませんか?何でも構いません。あればあるだけのことを言ってください。」

 「剣も魔導書も思い出したというよりは、感覚で動いたに近いから、実際には何も思い出していないぞ。」

 「そうですか。」


 そういうと一度目線を下に落とす。しかし、眉に浮かべたその額のしわは消えることはない。全員の視線がセバスへと向かう。


 「アレクさん。あなたを捕縛させていただきます。」


どうも片桐ハルマです。

ようやく、戦闘が終わり一区切りまで書き上げることが出来ました。古の大英雄のような戦い方をするアレクとアリシアの物語は、まだまだ、というより始まってもいないと言えるくらいなので、これからも頑張って書いていきますので楽しみしていただけると幸いです

コメント感想何でもいいのでもらえると嬉しいです。

では、最後まで読んでくださった方々に心からの感謝を。次の作品もしくは別の作品も読んでいただければ幸いです。

では

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