ドワーフ達と独得な方言?
ミネアの案内の下、アレク達はトッティントンの街を進んでいく。アレクにとって、いや、ここに来るターニャにとっても始めてくる待ちになるので観光したい気持ちもある。しかし、天上にはめ込まれている吸光石と呼ばれる、この街の太陽とも呼べるものが、重要な問題を抱えていることを知った以上、寄り道は出来ない。
進行方向にこの町の建物の雰囲気とは少々ミスマッチな建物が一つ見えてくる。ほとんどの町が壁をくりぬいて作ったような形をしているのに対してその建物は明らかに木製。そこに明らかに持ち込まれたものである。アレクがこの町の周囲の山に入ってから一本も立派な木を見ることは出来なかった。つまり、この辺りにあった木を使って作った建物なのではなく、わざわざこの山を越え、持ってきて作った建物である事が分かる。さらに言うのであれば、この建物は地区20年は優に超える修繕の痕が各所に見られることから、アレク達が通ってきた古い坑道を透していた可能性も考えると相当の労力が掛かったことだろう。
イグニアス王国とは逆方向に隣接している国から運んできた可能性も考えられるがそれにしてもであろう。
「あれが町長の家か?」
「そうニャ。みんなあそこで待ってるニャ。」
木製の家は、やはり町長の家のようなのだが、今まで見ていた偉い人の家にしては少々こじんまりとしている感じが否めない。
木製であること自体がこの町では特別なことなのかもしれないが、二階建てくらいの高さに、豪勢な庭も、奇抜な装飾も、仰々しい門もありはしない。いいとこ、ちょっと裕福な平民の家くらいの大きさで、見た目の建物である。
といっても、アレクが今まであってきた偉い人の中ではこの町の長が一番下っ端なのでこれくらいでも無理はないだろう。
門がないので門番など居はしない。なので、ドアの前にある二段の石畳を昇ると家の中に入るための両開きの扉が目の前のある。インターホンなどあるわけもないので、ドアの右手のドアにはノック用の金具が付いているのだが、先頭を歩いていたミネアはそんなものお構いもせずに扉を押し開く。
扉を開けた瞬間に男性のものと思われる怒号が玄関先にまで響き渡る。
「そがな話をすとるじゃなーだす!!」
アレクは今までにも独特の話し方をする人とは何人かあったことがある。その中でも特筆できるのはピリアリス(ピリア)や、セベ(シャノンも含めるかも)などの自警団の仲間や、今回初めて出会ったミリアなども独特の語尾やイントネーションで話すことがある。
その中でも今回は、セベの方言なまり以上のものを感じざるを得ない。と、言うか舌足らずで上手に発音できていない様にも感じる。
そんな言葉が野太い男性の声で家の中に響き渡る。声の数からして20人ほどが会議をしているのだろう。そして、その野太い声に混じって、床を強く踏み鳴らす音や、何かが強く叩きつけられる音が響いていることも加味すると、その会議は非常に穏やかなものではないのだろう。
玄関から伸びる一本の廊下。側面には二つづつ扉があるのだがその声はどうやら正面にある大きな両開きの先にあるであろう部屋から聞こえてきているのだろう。そして、ミネアの案内が正しいのであれば、その扉の先にセイビムを赴いているはずである。
先頭を歩くミネアが躊躇なくその両開きの扉を押し開く。すると、身の丈120センチほどの男性が円卓を囲み会議を行っていた。
いや、「円卓を囲み会議を行っていた。」という表現は、少々正確性に欠けていた表現であった。普通に想像する会議とは厳かなものであるはずである。互いの意見を尊重しあい、時には妥協することで最も良い方向に議題を解消していくものである。その要素は、この会議には存在していなかった。そもそも、真面目に円卓を囲んでいる椅子に座っているものは二人くらいしか見ることが出来なかった。それ以外の者は、立ち上がり、何かを手に持っていたり、床を踏み鳴らしていたり、円卓の上で怒号を放っているものまでいる始末である。
身の丈およそ120㎝前後。口の周りには立派な髭が生えている所が特徴的な亜人種。この鉱山と一体になった都市付近に昔から住み着いている亜人種、ドワーフである。
その小さな体には想像以上の筋肉が付いているのか、ここにいるほとんどのドワーフの胸部は大きく膨れ上がっていた。しかし、その毛の色が白く変わっている数人のドワーフは同じくらい腹部の膨らみも気になるところである。
「問題ばなどん解決してなかす! 石もなかば、金もねーだす。」
「だどん、どうしようもなかと。怪物んばことも終わってねーだす。」
と、このトッティントンの現在抱える問題をどこからどう解決するかという話し合いを地揺れ以降ずっと続けているのであることをミネアがため息交じりに語ってくれる。が、終始、騒ぎ続けるドワーフたちのおかげで何を言ってるのか聞き取れない部分も多々あった。
ミネアの話を要約すると地揺れの影響で天井に存在する吸光石なる太陽代わりの鉱石が砕けてしまい、半分程度の明るさになってしまうという問題が起きたのだという。新しい大きな吸光石を採りに行こうと、新たな鉱脈を探していると、見たこともない魔獣が出現し、多くの若いドワーフを失う結果になってしまった。そのこともあり、鉱物資源が思うように取れなくなり、商品売買が最も盛んであったマリージョとの交易ルートが閉ざされたことも相まって、地揺れ以降トッティントンには解決できない問題で首も回らない状態になっているのだという。
「・・それだけじゃないニャ。小さな問題から上げたら切りが無いのニャ。そういった問題を細かく考えるのは、ドワーフは苦手なのニャ。」
「それは、・・種族的な問題、なの、か?」
「知らないニャ。でも、頭が小さいことは関係あるかもしれないニャ。」
かなり凄まじい悪口が言っているようなミネアの発言なのだが、目の前で咆えているドワーフたちには届いていないので、アレクはホッと胸を撫でおろす。
確かに、ドワーフは、人間にしてみたらかなり小顔で、上半身が発達した体系をしている。それが直接脳の機能に関係しているか分からないが、確かに考えることが得意という見た目はしていない。唯一、円卓を囲むドワーフの中で立ち上がっていない三人のドワーフだけは知者のような雰囲気を感じることが出来る。
「あの三人は、偉いドワーフなのか?」
「そうニャ。向かって左から商業長、産業長、鉱山資源長ニャ。ちなみにミー達警備部隊は、基本的には、マリージョ様達直轄ニャ。」
その辺りは奴隷制からの名残なのだろう。それに、元々亜人種の奴隷と良好な関係を持っていたマリージョ家を信頼しているという一面もここでも見て取れる。
よく見ると、机の上に立ち演説しているドワーフの後ろには、何とか落ち着いて話し合いをするように訴えるセイビムの姿が見て取れる。
「そんなんじゃ駄目駄目ニャ。ちょっと見ているニャ。」
そうセイビムの肩を叩きながらミネアは、スー。と大きく息を吸い込み始める。そして、隣にいるアレクとセイビムに予告もせず、お構いもせず唐突に叫ぶ。
「うるさいニ”ャーーー!! 話を聞くニ“ャーーー!!」
耳の中に、キーーンという耳鳴りが響き、思わず目が点になる。アレクとほぼ同じ距離にいたセイビムも同様の現象に見舞われたようで、耳を抑えた手掌に出血の後がないかどうか確認している。
しかし、その犠牲のかいがあったようでドワーフたちの会議と言えない討論(いや、闘論のが正しいかも)に初めての沈黙が訪れる。
「なんだす、ミネア。そだら大声ば出さんとも聞こえとるだす。」
「嘘だニャ。入ったことにも気付いてないニャ。」
図星を突かれたのか、豊かな髭を蓄え、三つ編みにしている男性のドワーフは机の上で頭を掻く。
やはりミネアはこの街においても一目置かれている人物なのか、先程までの罵声が嘘のように円卓のあるこの部屋に静寂が訪れている。
「マリージョ様が来てるニャ。難しい話は考えるだけ無駄ニャ。」
今までセイビムが真後ろにいたドワーフですら気付いていなかったようで、そのドワーフを含め全員が驚いた表情をする。
「マリージョ・・様? なんだら妙ちゃ若いだすな。」
「違うニャ。子供の方のセイビム様ニャ。」
「おお、そだら道ば開通しただすか?!」
「申し訳ないが、それは何とも。通常の街道ではなく昔の坑道を通ってきたので。」
先程からミネアやセイビムは簡単に会話しているのだが、ドワーフたちの方言の癖が強く、アレク達初めてドワーフと会う人たちからすれば何を言っているのか分からないときが時折見受けられる。
「そだら、問題ば解決だす。」
そう言うと、数人のドワーフを残して半分以上のドワーフたちはこの円卓のある部屋から出ていってしまう。恐らく、彼らのリーダーとなるドワーフだけをこの部屋に残したのだろう。
さらに、今まで規律も何もなかったこの部屋にも、自身らの直轄の領主であるマリージョ家の人間が来たことで、机の上に立っていたドワーフですら椅子の上に腰掛けている。
こうしてみると、やはり円卓と椅子までの高さがドワーフの身長には適当でないようで、首から上だけが出るような不釣り合い感が否めない。
「すまないが、今ある問題を聞かせてもらってもいいか?」
ミネアからトッティントンの抱える問題を聞いていたアレク達に対し、ドワーフ達を治めるために集中していた為、ドワーフ達が何について話しているのか上手く聞き取れなかったのだろう。
アレクからしてみれば、落ち着いていていてもドワーフが何を言っているのか分からないのだが、見た感じセイビムはドワーフの方言を理解しているようなので、残ったドワーフの内先程ミネアが紹介した三人の老ドワーフが話し始める。
「まずぅ、天上さの鉱石だす。もう半分以上暗ぁくなっただす。どがらぁ、新しい鉱脈を探しに潜っだら妙な魔獣に出くわしただす。マリージョへの行路も黒かぁ怪物さに閉ざされ、多くの勇者を失っただす。」
「それだじゃなかぁ! これまだぁの鉱脈も潰されちゅう! 今は若者が減っちゅうから問題ばなか。だがら、今後は多くのもんが死ぬぅ!」
ドワーフ達が話して思ったのは、やはりミネアが紹介した老ドワーフはすぐに怒鳴りだす若い(と言っても髭もじゃなのでアレクよりかは上だろう)ドワーフに比べると、比較的何を言ってるのか聞き取りやすかった。恐らく、領主であるマリージョ家の人間と会話する機会多いからだろう。そういうのであれば、商人の方が人間の取引相手と会話アする方が多い気もするのだが・・・。ちなみに、勇者というのは俗にいうような、偉業を成し遂げた強者という意味ではなく、勇猛な若い成人ドワーフ。つまりは、働き手となるようなドワーフのことを言うらしい。
「なるほど。問題は深刻という訳だな・・・。」
短く切りそろえられた藍色の髪にボーイシュな雰囲気のセイビムは、凛とした雰囲気を醸し出している。セイビムは騎士としての修練を積むと同時に、領主としても教育を受けてきているので、非常に博識である。問題解決のためのすべを幼い頃より学んできている。
「その問題の内、黒い魔獣は来る途中にここにいるアレク殿が解消してくれた。一体以上いるのであれば別の話だが。」
そう、セイビムはアレクの方に手を出しながら紹介してくれる。周りのドワーフからも「おぉ。」という感嘆の声が漏れている。しかし、その言い方にはアレクはもうしたいことがある。確かに来る途中で黒い怪物の討伐には成功したが、一人で成したことではない。ターニャを含めアレーナなどの存在が無ければ討伐は愚か、生き延びることも出来なかったと言っても過言ではない。なので、「ちょっと待ってくれ・・」と、言う前に老ドワーフの一人が声を発する。
「そのモノ達はなんだす?」
「かの有名な自警団に名を連ねるものだ。今回、訳あってボクに力を貸してくれている。」
正確に言うのであれば、自警団に名前を入れるために必要な特定異邦人証を取るために奉仕活動中な訳で、まだ自警団に名は連ねていないというべきなんだろうが、基本的にドワーフの声は大きく、途中にはいろうとするアレクの言葉は儚くかき消される。
「アリシア様の自警団ば!」
「英雄サイラス殿の!」
「安心ば。安心ば。」
口々に放たれる言葉はどれも無条件の安堵の言葉ばかり。自警団の人間とほとんど接点のないアレクからすればあれが基準値なのだが、やはり、自警団の面々は相当の強者であろうことを再確認させられる。
「問題の鉱山に潜むという怪物に関しては、アレク殿に一任したいのだが・・構わないだろうか?」
「もちろん。その為に来たと言っても過言じゃないからな。」
厳密に言うのであれば、防衛兵の軍事教官的な意味合いで派遣されたものだと思っていたのだが。と言っても、誰かに剣術を教えるよりも魔獣の討伐の方が危険度は高いもののアレクの性にはあっている。訓練兵をまともに育てるよりかは、幾分か時間はかからないだろう。
「・・と言ってもさすがに一人じゃ厳しいものがあるぞ? 魔獣を倒したとしても帰ってこれない。」
当然、これからはいるのは一度も訪れたことのない洞窟の中で、どこにいるかもわからない魔獣を捜索することになるのだろう。どれくらい洞窟が入り組んでいるのか定かではないが、素人が入って無事に出てこれるほど甘い場所ではないだろう。それ以前アレクは自分で思っているより方向音痴であることは、何度か訪れた町で単独行動した際に思い知った事実である。太陽の下、多くの住人のいる町ですらそのざま出るのに、誰もいなく、くらい洞窟で帰ってくるのは魔獣討伐以上にアレクにとっては難易度の高い目標といえるだろう。ターニャはついて来てくれるだろうが、初見が何人いたところで結果は変わらないだろううし、戦闘中、明かりを持ってもらう必要もあるので、そのくらいの人数はせめてほしいところである。
「もちろんだ。討伐隊を編成し随行させる。それくらいは出来るだろう? 長?」
老ドワーフ三人の総意を求めるときは、一人一人の名前ではなく長と呼ぶ。それは、呼ぶ順番によって優劣をつけないために必要なことである。なぜなら今回の様に炭鉱内で起きた問題解決なら、鉱山資源長が最高責任者になるのだろうが、派遣される討伐隊は、マリージョ家が管理する人員から選抜される。加えて、優先すべき商品鉱石、加工可能鉱石。等々、こと坑道内における問題には、最高責任者というものは存在しない。それほどまでにこのトッティントンにおいて鉱物の採掘に関係する問題は重要なのである。
「むう。問題ないだす。次は、交易路だすな。」
「それに関しては、ミハヤ殿にお願いしたい。雇われてはくれないだろうか?」
「おっ。儲け話ってやつだね。いいねぇ。」
「お願いしたいのは、マリージョまでの護衛だ。来る途中のことも考えると何もないと思うが、護衛を付けないのは愚策だろう。」
トッティントンで問題となっていた黒い魔獣は来る途中にアレク達が倒してきた。トッティントンでも観測した黒い魔獣は一体だったが、それだけとは限らない。それに、今は災害後の少々安定しない時期にある。元々平和なイグニアス王国だったとしても、このような非常時では全員がよからぬ考えを持たないとは言い切れない。偶発的に発生する野盗や、諸外国からの侵入も少なからずあるだろう。
そうでなくとも野獣たちの心配がある以上は、今回の行商団に護衛を付けないのはありえないだろう。
「ついでに街で飲んだくれてる奴らも金が無くなるころ合いだしな。」
ミハヤが部下たちをマリージョの町に置いてきてもうすでに一日以上は経過している。ミハヤたちがどのくらいの期間あのマリージョの町に滞在しようとしていたのかアレクには分からないが少なからず、このトッティントンを往復する器官は想定していなかったことだろう。必然的に彼らの持ち金は、そのうちそこを尽きる。そうなると、領主であるマリージョからの正式な依頼は、寝耳に水の果報であろう。
ミハヤとの商談はまとまり、次はどこの誰のどんな荷物をまずトッティントンよりマリージョに運ぶかどうかの話に入ろうとした時、
「そのことなんだが、最初は積み荷はない方がいいと思うぞ?」
と、アレクが割って入る。
「どういうことだアレク殿? トッティントンとの貿易は、マリージョにとっても有益だ。一刻も早く開通したいのだが?」
「そりゃそうだろうけど、少なくなった働き手を出せるほどトッティントンに余裕があるのか?」
先程の話を少し聞いた限りでは、この町の若く力のあるドワーフのほとんどを失ったという話だった。ミネアのような獣人の亜人が大半を占めているといっても、そちらもだいぶ減っているであろうことは大体想像がつく。でなければ、ある程度の犠牲を覚悟してでもこの状況を打開させるためにマリージョへと伝令を送ることだろう。そのことからも考えて、あの黒い怪物より、先に鉱山に住む怪物が出現し多くの住人が犠牲になったことの想像もたやすい。
アレクの言葉にトッティントンの長たちやセイビムは口ごもる。恐らく彼女たちの頭の中では、現在、復興に必要な人材と余っている人材の数の計算が行われ、その差がマイナスに近い数値になっていることを再確認することが出来たであろう。
「それに、そんな大所帯を守る戦力だってないんじゃないか?」
もし仮に荷運びの人員をトッティントン側で用意できたとしても、その商業団を警備するための人員が必要になってくる。しかし、ここにいるミハヤの傭兵団の団員は、団長を含め三人。うち一人は戦闘を得意としていないヒーラーであることを加味すれば現実的に確実な安全を保障できる人数も一桁、いや三人にも満たないだろう。
「イグニアス王国が平和といっても、非常時にはそういった足枷は外れやすいモノだろ?」
アレクはその言葉を口にした瞬間、久しぶりの頭痛を覚える。記憶のフィードバックからくる、頭の痛み。以前にもこうしたことをよく言っていたのか、聞いていたのかは分からないが、記憶の失う前のアレクのいた国は相当治安が悪かったのだろう。
「マリージョにさえ到着すれば安定的に護衛は付けられるだろうし、互いに必要な人員だって補えるんじゃないか?」
二つの町の管理者は目を合わせる。
現状、マリージョで必要としているのは物資である。王都ほどではないにしても復興は進み始めているし、瓦礫の撤去にはめどが立ちつつある。しかし、商品がないのであれば商人たちの復興という問題は解消できない。だからこそ、トッティントンの鉱山資源が商品としてほしいのだ。対して、トッティントン側では、金銭をとアレクが問題を解決した後の人材が欲しいところである。なけなしの鉱物をいくら採掘しても、加工してもトッティントンの住人には需要もなければ、買うための金も存在しない。多くのドワーフはとってきた鉱物を売って、その金を使って次の鉱物を掘る。その為には、交易路の開通は急務である。
互いの町の管理者にとってすれば、一回の往復より安定的な街の再興が最良の手であることは理解できるだろう。しかし、
「まづだ! そがば、銭はいづ入るだす!」
看過できないのは、働き手となるドワーフたちだろう。彼ら職人兼炭鉱夫からすれば、自身の作品ないし、商売道具は早いうちに万全の状態にしておきたいのだろう。彼らからしてみれば何の商品も人員も持たずに待望のマリージョも街に一度行かなくてはならない時間ですら勿体ないのだろう。
「ずっと、まっただす。これ以上は無理だす!」
口を開けたドワーフにつられるように他の若いドワーフたちは声を上げる。
しかし、これが最も効率的かつ安全で、恒久的な街の発展につながる第一手段なのだが、即物的な利益を望んでいるドワーフにはその言葉の意味は上手に伝わらないようだ。こうなってしまうと、先程同様体の割に声の大きいドワーフ声量の圧倒され、アレクの言葉は届かなくなる。
先程の見事な鎮圧を見せたミネアも今回の怒号はその大きな耳には厳しかったようで、猫のような耳を手で折り畳み抑えている。再び無法地帯となりつつあった会議を収めたのは、老ドワーフの内の一人、中央の白く長い直毛の髭を蓄えたドワーフであった。そのドワーフが持つ木槌のようなものを机に叩きつける音が響くと、一斉にドワーフたちは静まり返る。そして、老ドワーフは一喝騒いでいたドワーフたちに睨みを利かせる。
「アレクどんのいうことば聞くだす。そがば、期待には応えてもらうだす。」
老ドワーフのいう期待というのは当然魔獣の討伐の事だろう。アレクからすればかなり身勝手な期待であるといわざるを得ない。魔獣の出現も、貿易路の閉鎖も、吸光石の破損もアレクとは一切関係ない問題であるはずである。その問題を解決するのにアレクは力と知恵を貸してやっているといってもいいだろう。しかし、老ドワーフの言葉をきついものに変えるのなら「不満はこっちでなんとかするか、それに見合った働きをしてくれ。」と。冗談じゃない。そう怒ってもいいところかもしれないが、
「ああ、任せてくれ。」
アレクは、胸にドンと拳を当て笑顔で答える。そんな、アレクの姿にターニャは、フードの下で疑問の表情をあらわにする。なぜそこまでするのか理解が出来ない。確かにこの町には必要があってきたわけだが、アレクの本来の目的はイグニアス国民として認めてもらうための許可証のはずである。それを取得するのは難しいことであると聞き及んではいるが、何人ものドワーフを死に追いやった魔獣を討伐しに行かなくてはいけない理由にはならないだろう。身もふたもないことを言ってしまえば、別の奉仕活動でも構わないはずである。
アレクは強者であるが、ここまで過剰な期待に応える理由がどこにあるのかと。
そんなターニャの思考など置いてけぼりにして話は進んでいく。
「んじゃま、人選云々は口を出さないから決まったら読んでくれ。ちょっと疲れた。」
そういうとアレクは未だ緊張感漂うこの会議室で大きく伸びをし始める。
「待ってくれアレク殿。もう一つ、問題があるのだ。長。」
そうセイビムに促されるように老ドワーフの一人、先程のキューティクルのいい髭の左隣の老ドワーフは懐の中から一枚の金属片を取り出す。




