太陽と呼ばれる石
「・・・お兄さん。本当に人間かニャ?」
予想の斜め上すぎるミネアの言葉に全員の思考がアレクの返答に耳を傾ける。しかし、これだけは言っておきたい。その回答を知りたいのはアレクの自身の方であると。
ミネアにとってその男性、先ほどアレクと自己紹介された男性の匂いは今までに嗅いだことのない匂いであった。いや、厳密には嗅いだことはあった。
「あったかい草原の匂いとかするニャ。でも、血の匂いがしないニャ。」
「それってどういうことだ?」
そういいながらアレクは自身の服の匂いを嗅いでみるのだが、当然血の匂いも草原の匂いだってしないはずだ。
ミネアが鼻がいいのは嗅覚という面では無い、鼻の良さなのである。人間の五感とは少々異なるので、獣人独自の感覚もしくはスキルと感がる方が自然だろう。
その感覚から、アレクからは他のすべての人から感じることのできる、「血の匂い」なるものを感じることができなかった。それは、生を受けたモノには微かでも確実にあるはずの匂いであるはずの匂いなのに。
「アレクさんには血が通ってないってことですか?」
「いや、出血したことは、あると、思うんだけどな・・・。」
「手当した時に切り傷があった。しっかり、赤い血が通っていたぞ。」
アレーナに言われることで記憶をたどった限りでは、ケガをした経験がなかったアレクは少し不安になったのだが、エルフの里に落ちた時はさすがに無傷ではなかったようで、ターニャが手当てしてくれた時に出血していたことを教えてくれ、ひとまず安心できる。
「そういう事じゃないニャ。生まれるときつく匂いみたいなものニャ。それがアレクからはしないのニャ。まぁ、ミーも初めてだけどあんまり気にすることでもないかもニャ。アレクの匂いも結構好きな方ニャ。ポカポカして眠くなるニャ。」
と、大きく伸びをするとニカッと、笑って横一列に並んでいたアレク達の前にミネアは立つ。
「さっきも言ったけど、ミーは観光案内は出来ないニャ。なのですぐにマリージョ様の向かった町長の家に着くと思うけど悪く思わないでほしいニャ。」
「構わないよ。オレらも観光に来たわけじゃないからな。」
「そういってもらえるとこっちも気が楽ニャ。じゃあ、行くニャ。」
そういいながらもミネアは、町長の家に着くまでの間にあるものについいて足を止めない範囲で説明をしてくれた。そこに、この町の生い立ちや、生業についての説明を含めつつ、しっかりと初めてこの町に来るものには丁度いい観光案内になっていた。
「この町は基本的に鉄鋼業を生業にしてるのニャ。あの赤い光が出てる建物でドロドロに溶かした後で、綺麗に成型するのニャ。そのまま、原石のままで売ることもあるニャけど、加工して製品にしてから卸す方が多いニャ。」
「商業の街って聞いていたけど、産業の方が中心なんだな。」
「チッチッチ。アレクは甘いニャ。トッティントンの産物は、マリージョに卸しても王都に卸しても、トッティントンの商業権を持ってないと売ることができないのニャ。だから、ここは商業の街なのニャ。」
確かにこの町でしか発行されない商業権がなければこの町の製品を売買することができないのであれば、商業にも強いのかもしれないが、商業の街というのはそういうものではないような気がする。
そんなアレクのぬぐい切れない疑問に答えてくれたのは、ミハヤであった。
「それだけじゃないさアレク。この山脈を超えた先の国との仲介貿易でも稼いでいるのさ。山を越える前にも感じたかもしれないが、この山の向こうには不毛な荒野が広がっててね。イグニアス王国農産物と向こうの産物を交換するのもこの町の仕事ってわけさ。」
なるほど、貿易業でもこの町はイグニアス王国を支えているという点では、商業の街ともいえるかもしれない。さらに、この町を経由して持ち込まれた輸入品もこの町の商業権がなければ売れないのであれば相当の収益が出ていることだろう。
「そこがネックなのさアレク。昔はこの町の産業も商業も貿易も奴隷に行わせていた。それで一番儲かるのはどこのだれかって話さ。」
なるほど、ミハヤが付けつ加えて説明してくれることでようやく、この町の奴隷制時代の重要性がよく分かった。奴隷のみが住み、奴隷が他国と貿易するなど普通であればあり得ないことかもしれないが、それが可能であるのならこの国の産物も加工品も鉱石も貿易で得た品々の利益の全てはこの町を領地に持つ貴族、ないし、イグニアス王国の100%の利益になるのである。
そんな不労所得であったこの町を簡単に手放す決断をしたセイビムの親であるセイビムやメリンダの寛大さをアレクは再確認しつつも、そこまでの制度を簡単に引いたであろう、イグニアス王国の前王たちに関しても思いを巡らせる。
そんなアレクの思案など知らないミネアは、街の紹介を兼ねた自身の紹介に貼り始める。」
「それでミーはこの町の警備をやってるのニャ。侵入者も検閲、警備とミーは多忙なのニャ。」
元々が奴隷の街であったことを考えると、ミネアのようにその町の警備を行う者たちはそこそこ高い地位にあったことだろう。いつこの町から奴隷制がなくなったのかは定かではないが、メリンダの改革であるのならミネアはその頃からこの仕事についていた可能性は非常に高いだろう。
それに、ミネアが警備の仕事に付いていることを聞いて、一番最初に彼女がアレク達の前に来たことも納得できる。何せ、もう使われていない通路から人が出て自身の住む町に向かって来ているのである。たまたま目に入ったとしても自身が行こうとは思わないだろう。
ミネアの連れられながらトッティントンの街歩いていると、説明通りにこの町は産業を中心とした加工業の街であることがよく分かる。通りに面した建物の半分以上から溶鉱炉と思える炎の明かりが出てきているし、街の中には、金属同士を当てる音が響いている。
もちろん、何かを叩き売り商人の声や、アレクが見たこともない品が露店に並んでいることもあるのが、その声は、マリージョや王都に比べれば微々たるものであった。
と、そこである疑問がターニャの頭の中によぎる。
通りを行き交うものの多くは、ミネアのような獣人種であることだ。
比率にして8:1,7:0,3。最後の0,3は、たまに見る人間で、町全体の比率でいえばもっと少ないのだろう。恐らく、離接する国とやらの商人ないし、傭兵や旅人といった風貌もの者たちを、ごくたまに見かける。
そのくらいの比率で獣人ばかりを目にするといってもいい。奴隷が多くなるのは、ターニャもある程度の学がるので理解できることなのだが、それでも四倍以上の人口がいるというのは少々疑問が残るところである。何せ、全ての獣人種がこの薄暗い洞窟内の生活に適しているとは限らない。ある程度、種族的に不利なものは去っていくだろうし、性格的に適さないものも多くないだろう。
それに対し、ドワーフは元々この地に住んでいるのだから、もっと数がいてもおかしくないと思い、ターニャはアレクの肩を叩く。
「アレク。この町やけに獣人種が多くないか? 元々、ドアーフの町なのだろ?」
「ああ、それは多分、生産能力の差だと思うぞ。前に本で読んだんだけど、獣人種は多産な種類が多いらしいんだ。逆にドワーフは比較的晩成型で、出産可能になる年齢が人間より遅いらしい。」
「博識なのね。」
「暇人なだけだよ。自警団の詰め所にいてもやることがないからな、そんな本ばかり読んでる。」
それにしても獣人の数が多すぎるのではないかと、説明したアレク自身が思う。ドワーフ族を多く淘汰した歴史書はなかったと思うし、そんな歴史があったのならここまで友好的にマリージョ家が受け入れられていないだろう。
奴隷から解放された獣人はまだしも、自身の住処を侵され、自身の同族を間引かれたとなれば仲間意識が非常に強いと書いてあったドワーフ族が再び人間と関りを持とうとは思わないはずである。
なので、ドワーフを見かけない事と、セイビムがいち早く町長たちのもとに赴くよう促されたのは、無関係ではないような気がしてくる。
そしてそ、それはこの町と連絡が取れず、この町もセイビムに連絡を取ろうとしていたことに関係があるのだろう。
「ずっと気になっていたんだが、天井にあるあの明るい石なんなんだ?」
「? ああ、あれは吸光石ニャ。」
吸光石。そういう名前の鉱石に関する資料をアレクは見たことがない。自分自身で発光する石など知らないので、勝手にプリズムの様に光を反射させることで増幅させ、小さな光源を大きな光源にしているものを想像する。
「あの石は、街から漏れる光を吸収して輝くんだニャ。一番最初の鉱石が輝けば、隣の鉱石がその光を吸収して輝く。そういう鉱物が数百個集まって、トッティントンの町を手rしているのニャ。」
「ってことは、一個の鉱石じゃないのか?」
「そうニャ。といっても効率よく光を吸収してもらうために加工してるから、隙間なんてほとんどないニャ。」
なるほど。しかし、驚きである。ミネア達トッティントンの住民もなんで光るかに関しては全く分かっていないようであったが、光を吸収し、自身が発光する鉱石が存在するとは。何を媒介に、何を消費することで光を発生させているのか少々気になるところであるが、深く考えたところでアレクの頭では理解できることはないだろう。
「でも、この間の地揺れで半分くらい砕けちゃったんだニャ。それ以来トッティントンは問題だらけニャ。」
「これで半分の明るさなのか?」
「そうね。以前来た時はもっと明るかった印象だわ。そういう理由があったのね。」
なんでも吸光石には、他の石を栄養するだけの光量を放つためにはある程度の大きさが必要なんだという。その為、地揺れによって砕けてしまった吸光石は、光放つのだが他の石を輝かせるだけの光を出すことが出来ない。なので、徐々にトッティントンの光は失われつつあるのだとか。
確かに、この町に入るために、松明なしでは歩けないほど暗い古い坑道から出た時は非常に明るく見えたが、太陽の光と比べれば少々弱々しく、薄暗いと思うようになってきた。
「でもそうなると昔はずいぶん明るかったんだな。光を吸収、放出し続けるなら夜って概念もないだろ?」
「いや、吸光石は強い衝撃を与えると、その光をともさなくなるんだ。だけど、今は、その衝撃ですら危ないって、このア明るさで過ごしている。」
確かに現在のトッティントンの街は朝とも夕方ともとれる位の明るさである。しかし、寝るには明るいし、働くには少々くらいイメージが持ってしまう。つまりは、この問題は街の活気に関わる重要な問題なのだろう。
「さぁ、もうすぐ見えてくるニャ。そこでみんな待ってるニャ。」




