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お兄さん。本当に人間かニャ?


 セイビムとミハヤを先頭に荷物を運ぶ動物、アレーナ、アレク、ターニャ、もう一台の荷馬車、オーエンと、人が三人横並びに並ぶには少々狭い洞窟を進んでいった。





 そこからどれくらい分かれ道を超え、引っかかってしまった荷馬車を押し、道を確認しただろうか。もし、もう一度一人でこの道を通れ。と、地図を渡されてもアレクは洞窟を通り抜けることも叶わなければ、戻ることも出来ないだろう。

 そして、松明なしでは歩けないほど暗かった、洞窟の先に光が広がっているのが見え、その先に出た時、


 「おぉ。すごいな。」


 アレクは思わず感嘆の声をもらしてしまった。アレクと同様にこの町、トッティントンを始めてみたモノであれば、同様に感動するだろう。現に、アレーナもターバンで表情を確認することのできないターニャも同様にこの場所から見える景色に目線を奪われていた。


 そこには、地底湖の中央に浮かぶ大きな島の上に立てられた町が広がっていた。自然の造形なのか、人工的に作り上げたのかは定かではないが、その島から三本くらいの石橋が対岸までかかっており、対岸のいたるところに山の中へつながる洞窟を見ることができる。

 そして、街の中も非常に麓美であり、高い建物は、鍾乳石の中身を削り取って住んでいるようになっており、そのほかの小さな建物も一枚の石からできているようである。町一面が蒼白色で統一されており、その合間から見える赤い光は恐らく鍛冶場の明かりなのだろう。


 何より、このトッティントンを含む地底湖一体は非常に明るいのだ。最初にこの広間へと出る洞窟の出口を見た時は外に通じていると見まがうほどに。しかし、実際はそこまで明るいわけではなかった。しかし、こちらから町を挟んで対岸の壁まで見えるのだから洞窟内にしては相当明るいことは伝わるだろう。

 それをなしているのは、天井にあたる部分にある大きな鉱石なのだろう。一つの巨大な鉱石がたまたまこの場所存在し、ここに街をなしたのだとすると、地底湖の有無からの奇跡の上に成り立った、自然の芸術作品ともいえる。


 その美しさは、アレクが今まで見てきたどの町にもない美しさを有していた。確かにイグニアス王国の町もベルディア公国の町も美しかったが、ここまで自然を調和させた町は存在していなかった。鉱石から漏れる光も、鍛冶場の明かりも、蒼白色の建物が反射する明かりの全てが、計算されているかのような美しさを有していた。


 「きれいな街だな。ここが目的の街か?」

 「そう。ここが商業と産業の街。トッティントンさ。」


 アレク達がいるのは、その町の最も高い建物よりもさらに高い洞窟の出口だったようで、ここからかなり急な下り坂を降りる必要がある。

 何とかしてその急な坂を下りきると、ちょうど三本ある石橋の前に到着することができた。というよりはこのことも計算してミハヤとセイビムが道を選定してくれていたのだろう。

 その時、橋の向こう側。トッティントンの街がある方向から何やらすごい勢いで接近するものの存在にアレクは気が付く。他には誰も気付いていないのか、そちらに視線を飛ばすものも、警戒しているものもいない。恐らく、この辺りは安全であると思っているのだろう。

 アレク自身もそう思いたかったのだが、一%でもある危険性を無視できる性格ではないアレクは、懐にある魔導書に手を伸ばす。


 しかし、幸いなことにその警戒は無意味なものに終わったなぜなら、


 「マリージョ様――!!」


 セイビムの名前を大きな声で叫びながら、橋の向こう側から走ってきた何かは、その顔の詳細が分かるくらいの距離になると、獣のように四足で走っているような状態から、人間と同じように二足歩行で手を振ってこちらに走り寄ってくる。


 「ありゃ? ネイビム様じゃないくて、セイビム様だニャ。ずっと連絡してたのに来るのが遅いニャ。さっ、早く行くニャ。」

 「待ってくれ、ミネア。話があるのはこちらも同じだ。」

 「ミーの話の方が先ニャ。みんなが待ってるニャ。」


 一応、セイビムはこの辺り一帯を治めている領主の娘で現在は彼女が取り仕切っているはずなのだが、この女性の獣人はそんなセイビムにもかなり強気の言葉遣いをしている所を見ると、相当の地位にある人物なのだろうか。それとも単にそういう気質の人物というだけか。


 「わかった。ならミネア、アレク殿たちの案内を頼みたい。」

 「ミーはガイドじゃニャいけどまぁいいニャ。任せるニャ。」

 「客人として粗相のないようにな。では、アレク殿、ミハヤさん、後程。」


 軽く一礼してから、セイビムは町の方へと走り出す。その姿はやはり、貴族というよりかは戦士のように颯爽と去っていく。


 「じゃあ、改めて自己紹介ニャ。ミネアの名前はミネアニャ。あれ? なんかおかしいニャ?」


 自分の名前を紹介する前に自分の名前を言ってしまい、違和感を覚え頭を傾ける。

 彼女は、恐らくこの地に元々住んでいたドワーフの一族ではなく、獣人の一族であろう。その証拠に、彼女の耳は人間の耳とは異なり、まるで猫のようだ。腰のあたりからも尻尾のようなものを生えているし、頬には細い二本のお髭も生えている。その他にも、両腕にヒョウ柄の毛並みが見えたりしているのが、基本的な部分は人間と大差はなかった。

 人間と同じ等身だし、人間の頭が付いているし、人間のように喋るし歩いている。

 しかし、先程も見たように決定的な違いも存在する。それは、この橋を渡って来た時の姿だ。かなりの速度であまり正確にとらえることはかなわなかったのだが、確かに初見では、獣の持つ気配を感じたのだ。

 

 「オレはアレクだ。こっちがターニャ。」

 「ミハヤよ。って、あなたとは何度か話したことがあるわね。このちんまいのが、アレーナで、こっちのおっさんが、オーエン。二人ともアタイの優秀な部下よ。」

 「おー。ミハヤニャ。また沢山買っていくニャ。」

 「たくさん買い物するのはアタイじゃなくて、姉さんの方さ。」


 小首をかしげてミハヤの言葉に疑問の表情でミネアは答える。ミハヤに姉がいることは初耳に驚きつつ、全員の自己紹介が終了する。するとミネアは、突然顔を近づけそれぞれの匂いを嗅ぎ始める。丁度、ネコ科の動物が初対面の人を認識するときのように、スンスンと鼻先を近づける。順調に進んでいったミネアの足はターニャの前に来るとその足を止める。


 「お姉さんいい匂いだニャ。森の中にいるみたいな清々しい気分ニャ。この匂いミーは好きニャ。」


 やはり動物という事だろうか。獣人がいかに人間とほとんど変わらない容姿をしていても、人間と獣の特性を併せ持つ存在である以上は、人間よりも優れた嗅覚を有しているようで、瞳以外ほとんど顔の見えないターニャの性別も、森の中に住んでいたであろうことについても当てて見せた。たまたまという可能性も考えられないこともないが、であるならば、ターニャにだけ反応した理由が分からない。


 森の匂いがするといわれたことがうれしかったのか、久しぶりに見た人間以外の種族に気が安らいだのか今度はターニャの方から話しかけている。


 「ありがと。でも、そんなにおいするかしら?」

 「ミーは鼻がとっても良いんだニャ。それに体に染みついた匂いはそう簡単には取れないものニャ。」

 

 そういわれ、ターニャを含むミネアに匂いを嗅いでもらった者たちは、自身の服を鼻の方に近づけるが、思ったような匂いがしなかったのか皆一様に首を傾げる。


 「ニャハ。この中だったらおじさんの匂いが一番嫌いだったニャ。煙と血の匂いが強すぎニャ。この町で問題起こしたミーが許さないニャ。それじゃ、最後ニャ。」


 当然、一番最初に自己紹介したアレクが一番最後に匂いをかがれることになるのだが、アレクの中には、かすかな思いがあった。それは、アレクの失った記憶に関する情報が彼女によってもたらされるのではないだろうか。と、言うものである。

 オーエンのように戦場から戦場を渡るような生活をしていたのか。それとも、全く鍵覚えのない(つまりは、ミネアも何にも知らない)匂いがするのか。それが知れたところで何かが変わるわけでもないのだが、それでも、時折自身の生い立ちについては知りたくなる欲求が出てきてしまう。


 ミネアが、アレクの体に鼻を寄せ、ひくひくと動かすことで匂いを嗅いでいる。出来る限り平常心を保ちながら、緊張の匂いを出さないように。


 「お兄さん緊張してるのかニャ?」

 「ま、まあな。」


 しかしアレクの健闘虚しく、ミネアに緊張していることは簡単に露見してしまう。ミネアは、肩を一回すくめると、再びアレクの匂いを嗅ぎ始める。その時間は、アレクにとっては今までで一番長かったんじゃないかと思えるほどに。


 「・・・お兄さん。本当に人間かニャ?」


 予想の斜め上すぎるミネアの言葉に全員の思考がアレクの返答に耳を傾ける。しかし、これだけは言っておきたい。その回答を知りたいのはアレクの自身の方であると。





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