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章間 ボトムス国王

章間 ボトムス王国国王


 時間は少々遡り、アレクがエルフの里に落ち、アリシア達と再会する前。大震災の被害報告がこのボトムス王国でもそろい始めた頃に時間は戻る。


 良き王というものはどういうものなのだろうか? 自国民の幸せのために他国を犠牲にすることをいとわない王はいい王だろうか? それとも、他国が、延いてはその国の大陸が存在する大陸の平和のために奮闘するものはいい王なのだろうか? 

 その定義を決めるのは、その文明の発展のレベルに比例するものだと思う。国から出ることもままならい文明レベルであるのなら、自国のために他国を害することはいいことだろうし、別の大陸の存在を知っているのであれば、大陸内で戦争することは馬鹿馬鹿しい。故に、その王が良き王だという事は、過去形の話であり、現在進行形で分かることは無いと言えると思う。


 「クソガァ‼」


 悪態をつきながら王座の横にある台の上にあった金属製のワイングラスを叩き落とす。中に行っていた真紅のワインが飛散し、絨毯の上にシミを作る。周りに控えていた数人の女性は、シミのついたおよそ10メートルの絨毯とワイングラスを即座に片づけると、王座のある部屋から出ていく。入れ替わるように、全く同じ絨毯を持った女性たちが入ってくると、床に絨毯を引き直し、金属製のワイングラスを王座の横の台に置き直す。


 「王ヨ。落ち着いて下しマシ。」

 「落ち着いてなどいられるか! 10万だぞ! クソみたいな属民じゃない。我が軍の正規兵が10万も失ったんだ。あの憎たらしいイグニアス王国を攻め落とすための兵を! 鬼どもを駆逐する兵を!」

 

 それは、誰にも予測などできない天災であった。イグニアス王国を粉砕するために長年にわたり用意していた軍隊の初陣。イグニアス王国に進軍するためのバルダーム大陸を横断する大きな陸路を確保するために鬼族(オーガ)の住む里に対して行った進撃作戦中にその悲劇は起こった。崩れて来た山に多くの兵は生きたまま土の中にかえり、建物の瓦礫によって、備蓄も予備のために控えさせていた兵も命を落とした。その累計は、今日の報告で10万人を数えようというところで、もう軍としては再起不能になってしまった。


 「申し訳ございません。現在、軍の再構成に尽力しております。」


 深紅の鎧をまとった聖騎士が敷き替えられたばかりの絨毯の上に膝まづく。

 

 現在この王室には、王と女中の他に、三名ほどの重要な人物が顔を連ねている。一人は、王の前で頭をたれている深紅の鎧の聖騎士の男である。彼は、このボトムス王国建国より、騎士の頂点に立ち続けて来た家の現在の頭首であり、この国において王の側近であるはずの人物である。

 なぜこのような書き方をしたかというと、現在のボトムス王国の国王の側近は彼ではないからである。


 「王ヨ。我々教団の精鋭部隊は幸いな事二被害はありまセン。その部隊を有し、一時の時間を稼ぎましょう。」

 

 彼は、現在のボトムス王国のNo.2の一人、ペティティア・ソックピテュア。という、なんとも言いにくく、意味のない名を有する男である。年齢は分からず、その素性は王であっても分かっていない。どこで何をしてきたのか、その実績はこの国に使えるまで全く分からない。

終始表情が見えないほどに目深にフードをかぶっているため、彼の素顔を見たことのある人物はごく僅かである。言葉の所々で声質が異質になったり、異常なまでに慎重に低いこと以外を除けば、老人であることは疑いようがないのだが、どこか不気味な雰囲気を持つ男であることは変わりない。


そんな素性も素顔をも不明な人物がNo.2にまで上り詰めることが出来たのは、ひとえに彼の魔術の才が由縁だろう。いや、それ以上に彼が、バルダーム大陸で広く布教されている宗教の一つ、邪神ボレクを崇拝する神官の最高位に立っているからであろう。イグニアス王国においては生と死を司るボレク以上に、平和と勝利の象徴であるアリス神が信仰されているようだが、ボトム王国ではボレク神の信者の方が大半を占めていた。というのも、ボレクを祭る祭壇がボトムス王国内にあるというだけで、両方の信者共に両国には住んでいる。


その中でも、ペティティアは大司教の一人に数えられており、王城においても彼に頭をたれる者は少なくなかった。魔導士としての才も他の魔導士を抜きん出ており、「彼こそが魔導の真髄である。」そう言わしめるほどであった。


 「何を言う! 我の軍でも出れる。ならば、我が行くのが正確!」


 先程のペティティアが、No.2の一人と言ったのは、もう一人No.2と呼ばれる立ち位置に存在するものがいるからである。

 彼の名はオジオ。およそ30歳ほどの筋骨隆々の男性で、少々言葉の選択が正しくないところが目立つ。

 彼は、闘技場と呼ばれる遊技場において、多くの闘獣や剣闘士を殺して見せ、比類なき強さを持った人物である。単純な身体能力、戦いにおける才や嗅覚で彼を超える者はボトムス王国には存在しない。

 実際に、騎士長が手合わせした時も、力では圧倒され長年磨き上げた連撃もその野性的ともいえる反射神経の前では、意味をなさなかった。最終的には、鎧を貫けなかったオジオが、前騎士長を殴り殺すまでその戦いは止まることはなかった。

 故に、今王の前で頭をたれているのはオジオとの戦いで命を落とした騎士長の弟であり、自身の敬愛していた兄を目の前で殺された人物である。


 と、言ってもオジオにはそれ以外に道はなかったという点では、同情するに値する部分はあるのかもしれない。女剣闘士から生まれたオジオは、もの後ごろつく前には母を失い、父など元から居はしない。学と呼べるものは一切受けることは出来ず、目の前の全てを殺すことでしか存在理由を認めてもらえない人生を歩んできたのだから、それが、騎士長か囚人か剣闘士かなど彼には理解などできないのだろう。


 「王。オジオ、役に立つ。使うの正解。」


 最近になってようやくいろんな言葉を覚えてきたので、少々使いどころが間違っていても使いたくなってしまうのは無理もないことだろう。何せ、オジオにとっては、父のような存在なのだから。

 その父のように慕っている王をここまでイラつかせるイグニアス王国への憎悪は、オジオは人一倍の事だろう。言ったことも見たこともよく知りもしないままで。


 「・・・・・いや、オジオ。お前の軍は使わない。イグニアス王国の被害はどうなってる。忌々しい自警団の内何人が死んだ。天馬騎士団でも構わん。」


 自身よりも頭の悪いオジオの方が冷静であることで、ボトムス王は少しだけ正気に戻り、ワインを一気に飲み干す。すぐさま女中の一人が空になったグラスにワインを注ぐ。


 「はい。斥候の報告では、天馬騎士団並びに自警団に人的損害を確認できませんでした。ただ、行方不明の者が数名ほどだと・・。」

 「なに。・・・・・町の被害は?」

 「はい、主要な都市は相応の建物の被害は酷く多くの人員と資材、資金がかかるかと。ただ、自警団が健在なことは大きく、サイアス以下主だったのものは既に動いているようです。」

 「サイアスめ・・忌々しい。」

 

 サイアス・フィル・ルイーズ。ボトムス王国にもその名を知らない戦うものは恐らく、オジオくらいなものだろう。

 稀代の大英雄。その呼び声はまさに人外の強さを誇っており、神殺しと恐れられた黒龍でさせ撃退するほどであったと聞く。サイアスだけでもこの天災の被害にあってくれれば願ってもないことだったのだがそう上手く事は運ばないようだ。


 「なら、近隣の村に野盗を放て。被害を最大限に拡大させろ。」

 「それガ、王ヨ。村の者のオオクハ、地揺れを予見していたヨウニ、もぬけの殻デシテ。何やら奇妙に感じマスナ。」

 「つまりは、人的被害もイグニアス王国は最小限という事か?」

 「恐らく。妙な噂の流布を確認してオリマス。」


 再びこみ上げる苛立ちをボトムス国王は、地面を強く踏みつけることでなんとか消化して見せる。いや、その報告の噂は聞き及ぶところであったので予測していたからこそこの程度で済んでいるのだろう。初めにイグニアス王国における被害報告の想定を見せてもらった時は、おもちゃ(・・・・)をいくつか壊してしまった。


 「・・・ッゥ。何かいい報告はないのか・・。」

 

 こういう時はいつだってペティティアが良からぬことを既に実行していることが多い。この奇妙な男は、信用は出来ないが共通の敵と認識しているイグニアス王国に打撃を与えるという面では、頼りにしていいと考えている。


 「ふぉっふぉっふぉ。王に死角はありませんナ。既に王都に刺客を放ってオリマス。よき報告ヲ出来ることをワレも思ってオリマス。」

 

 普段であればそのような勝手ことを行えば罰せられるのが通例なのだが、このところペティティアの勝手な行為は許される傾向にある気がしているのは、騎士長だけではないだろう。

 確かに状況を好転させる一手をよく思いつくのだが、それでも自由が過ぎるというのは、王の威厳に関わるものである。しかも今回は、敵国の王都に刺客。つまりは、王ないし王に近しい者を殺すための者なのだろう。今までは温厚に事を済ませていたイグニアス王国も再び戦王の血を煮えたぎらせるとも限らない。そうなった場合、10万の兵を失った我らにサイアスなど人外の化け物が名を連ねる自警団に勝てるのだろうか? そのような疑問が頭をよぎる。


 「悟られるなよ。」

 「もちろんでございマス。」

 「それと、最近のあの怪物はお前の産物か? 作るのはいいが管理はしっかりしろ。」

 「はて? あの怪物というノハ? 我ら教団では、ティレニア以外の想像は行っておりマセンゾ? それ以外にはガーゴイルや少々のアンデットの生成は行ってオリマスガ。」

 

 表情が分から無いのと、彼の声質ではとぼけているのか本当のことを言っているのか素人の目には全く判断することは出来ない。幸い、王も同様であったようで、さらに報告にあった魔獣の特徴を並べる。


 「あれだ。黒く多腕の怪物で、3メートルとも5メートルとも聞き及んでいるぞ? 特殊な攻撃はしてこないが恐ろしく強いとか。そうそう、再生能力が異常だとも聞いたな。お前のところにも当然報告は上がってきているだろ。」

 

 そこまで話してようやく、ペティティアの真意が騎士長にはある程度分かった。恐らく、王も理解しているだろう。

 教団は基本的にボトムス王家と根深い接点があるわけではない。国内に第一聖堂があるというだけの話で、どっかに国に宗教が肩入れしてしまっては、それ以外の国に布教することは難しくなってしまうからだ。しかし、ペティティア個人はその範疇を完全に逸脱していた。教団の大司祭でありながら、国の魔術の指南役をやっているし、現在では発言権や軍を率いる権利だって与えられている。そんな彼のもとにあっがてこない情報を王が知っている訳がない。逆説的に王が知っているのだから、ペティティアも知っていなければおかしい話である。


 「そうやって、我が国の情報収集能力と分析力をはかるのはやめろ。全て討伐するぞ。」

 「ふぉっふぉっふぉ。こわいデスナ、王ヨ。ですが、ご期待にそう報告は出来かねマスナ。我ら教団でもその魔獣ハ、未知。しかし、未知だからコソその真髄を求めるに値スル。」


 フードの下で高揚した表情を浮かべていそうなことは、今回は誰にも容易であった。この男は基本、他人を下に見た様な雰囲気を醸し出して話しているのだが、魔法や神話の遺物、そういった未知のモノに発見には非常に高揚した声で反応する。

 つまり、ここ30日ほどで出現するようになった黒い怪物は、全く情報がないという事なのだろう。神話の知識や過去の失敗作の魔獣たちの情報とも照らし合わせていると思うので、何か他に要因があって生まれた新たな魔獣。懸案事項はどんどん増えていく。


 「ただ、亜人の伝承は調べ切れてマセン。そのあたりモこれから。」

 「期待はしない。おい。全滅させない程度に討伐しろ。可能なら捕縛した者に報酬も出せ。」

 「はッ。」


 王が「おい」といってから命令を下すのは決まって騎士団長だ。それ以外の二人には、しっかり名前を読んでから命令を下す。最近になって本当に大きく変わったしまったものだ。


 「オジオ。お前は、あの森の木を切って鬼どもを刺激して来い。好戦的なら絶滅させろ。服従するならお前にくれてやる。」

 「お心に。」

 「オジオ殿。一体ほど教団に寄付を頼みますぞ。つがいならなおいい。」

 

 ペティティアの願いにオジオは、鼻をフンと鳴らすことで答える。これは彼なりに了解したという意思表示である。王以外の者、といっても、オジオにお願いができるのは、ペティティア含めごく限られた人のみだ。騎士団長がお願いなんてしようものなら、即座に襲い掛かって兄のように殺されかねない。


 「では、散れ。オレは寝る。」


 そういうと、再びワインを一気に飲み干すと、王座から立ち上がる。後ろのドアをくぐれば王の心室がある。その中に入れるものは本当にごく限られた人物だけ。その中にオジオもペティティアも当然騎士団長も含まれていない。


 ずっと頭を伏せた状態で話を聞いていた騎士団長であるキネア・スケロント・アリエラは、ようやく頭をあげる。兄に変わり騎士団長を務め最初の命令である大規模侵攻作戦は地揺れによって10万にもの兵を失う大失態。今度の命は、新しい魔獣の情報収集並びに捕縛。随分とランクが落ちたものだと思うが、軍の規模の縮小具合から考えれば当然の配置なのかもしれない。


 「キネア騎士団長様。」


 この場において、キネアのことを敬称のつたまま呼ぶのはたった一人しかいない。

 左に視線を向けるとそこには、ローブで顔の表情が全く分からない人物ペティティアが立っている。

 オジオは、まず話しかけてくることはないし、王は「おい」だ。騎士団員は「団長」で統一されているので、「キネア騎士団長様」など長い名前ではこの男しか呼ばない。

 何故この男(体の線は)が敬称を付けてくるのか全くの不明だが、言わなくていいというのも違う気がするので取りあえずは放置している。


 「なんでしょうか、ペティティア殿。」

 「いえ、あの魔獣ハ強いデスゾ。魔法を使えない騎士団デハ到底。」


 確かに何度か遭遇してみて分かったことは、基本的あの魔獣にダメージというものを負わせることが出来ないという事だ。魔法ないし、魔法によって鍛えられた武器以外の攻撃は、表皮を切断することが出来るのだが、ダメージが通っているようには感じられなかった。その為多くの兵を失ったが、そのかいあって得た情報もある。


 「問題ない。我らにはこれがある。」


 と、深紅の鎧の腰に付いた剣に手を当てる。その剣には、非常に高度の魔法が込められており、切断したモノに焔硝追加効果を付与することが出来るという代物だ。他にもいくつか炎を司ることは出来るが、魔獣討伐にはこのひと振りがあれば十分だ。


 「確かにその剣ハ強い。しかし、一振りデハ心もとないでショウ。これヲ。」


 と、手渡されたのは一つの鍵であった。何の変哲もない倉庫の鍵のようなもの。こんなもので魔獣を殺せるわけがない。


 「それは、奥舎のかぎでゴザイマス。有意義にお使いクダサイ。」

 

 それだけ言うとキネアの静止に耳を傾けることはなく、王座の間から居なくなってしまう。オジオもいつの間にかいなくなってしまっていたので、キネアは、数人の部下と共に、奥舎にある倉庫へと足を運ぶ。

 どの倉庫の鍵か全く聞いていかなかったので、全ての倉庫に鍵を差し込み、ようやくカチャりという解錠音を聞くことのできる扉を見つけた時はため息が漏れた。

 しかし、その中にあったものに対する、感情に比べればキネアの徒労などたいしたことがない。


 「な、なんだこれは。」


 誰もが息をのみその中にあったものの具体的な表現をする方法が思いつかなかった。


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