領主は、引きこもってます。
領主の館は、町の中央に構えられている。地上三階地下二階建て、シンメトリーの館と庭園。丁度、円の漢字のよう建物が足られており、今は敷地を左右に両断する道の前に構えられた門の前に差し掛かっていた。
「見事な屋敷だな。人間はみなこのような家に住んでいるのか・・・。」
エルフの里を出てから人間が住んでいる家は基本的貴族の家しか見ていないターニャからすればこれが平均に考えてしまってもおかしくはないだろう。
「普通ではないと思うぞ。オレらが特別な人に会いすぎてるだけでな。」
かくいうアレクもイグニアス王家の中でも指折りの名家の友人しか住まいを見たことgないので、この領主の家も平均くらいだろう。しかし、セベたちの村で民家も多く見ているので、ターニャのような感想は持たない。
「人間はって変な言い方するんだな、お前は。」
先程までの囚人服から先程と同じ無地のノースリーブに麻色の半ズボン、牛の皮でできたベルトをまいている、庶民程度の服装に着替えたオーエンは、顔前面にターバンをかぶり、服も着込んでいるので性別も種族も分からないターニャに話しかける。
彼の質問のいみもアレクはよくわかる。この町や王都を歩いていて思うことは人間以外の種族を全く見ないのだ。エルフとの国交は数百年以上途絶えていたとしても、エルフの里であったトーム・トーンのようなレプラコーンや、鬼族ほかにも分権ではゴブリンやドワーフ、レプリレス(爬虫類のような人間)等々、いつはずなのだが、一切見ることはない。ベルディア公国でもそれは同様で、人間以外が町の中を歩いている姿は全く見かけない。
そのことを理解しているからこそ、ターニャは顔前面を覆うターバンを巻いているわけで、人間でも珍しい黒髪のアレクが行き交う人に振り替えられるのだから、エルフ族となればどういう反応が起きるかは火を見るより明らかだ。
「くだらないこと話してないでさっさと行くよ。」
門番に来訪の要件を伝えていたミハヤが戻ってきたことで都合よく話が中断される。オーエンもそのあたりについてはあまり気にしていなかったようで、話を広げようとしてこない。
「やはり、ばれない方がいいのか?」
「どうなんだろうな。知っての通りオレも常識はないからさ。」
こういう時、アレクとターニャだけで来たことに後悔が出てくる。彼らにはイグニアス国民としての常識と呼べるものがいないのだ。種族の違うターニャに一切の記憶のないアレク。もちろん、アリシアや教会のマザーさん、自警団員と話や生活をしているうちにある程度は身に着けたといっても、領主様のような高貴な身分の相手と話すのは粗が出そうで避けたいものだ。
今回は、幸いなことにミハヤが同行してくれているので、基本的なことは彼女に任せても粗相はないと思うのだが、
「おう、バートン。領主はどこに部屋だい? ちょっと話があるんだが。」
彼女もこの領主様とは仲がいいようで、奉仕服を着た身なりのよく気品のある男性に対してこの口調である。あまり参考にはならないと、ターニャに耳打ちしておく。
ミハヤは、この屋敷の執事長である男性に、領主が仕事中なのか、どこの部屋にいるのか聞く。
「ミハヤ様。領主様ですか・・・・・こちらです。」
ミハヤに話しかけられた品のある男性は、少々表情を曇らせる。それは、ミハヤの言葉使いがなっていないからではなく、知らない人物を招き入れたからでもなく、囚人であったオーエンを領主の許可なくまた連れ出してるからでもない。
その理由は、移動中の廊下でバートンは話してくれた。
「ミハヤ様丁度いいところに来てくださいました。ミハヤ様、この間の地揺れはご存知ですよね。」
「ああ。あんときはベルディア公国にいたんだが、ここも相当揺れたんだろ?」
「ええ、幸い、領民や町の被害は、野盗に攻められ皆避難場所に集まっていたのでそこまで大きな被害はなかったのですが。」
と、一度そこで言葉を切ってから、
「領主様はその際、落下してきた瓦礫によって・・・・。」
すべての言葉を言い切る前に何を言わんとしているか察したミハヤは、この先にある領主の寝室へと走る。
木製の両開きのドアを勢いよくミハヤは押し開く。
「おい! ネイビム!」
ネイビム・クトリア・マリージョ。
この町マリージョの名前にもなっているイグニアス王国の中でも指折りの貴族。領地の面積は、やはり屈指の広さを有しており、管理している集落は、数十二まで及んでいる。主な収入は、これより南部の町や国との貿易の仲介で、このマリージョを通らずに王都へ向かう街道は存在しない。
ネイビムが、領主となったのは齢18の時である。病弱であった兄たちに変わり、この王都から最も近い都市を預かり、心労も絶えなかったであろうが、何とか今日まで領民たちから反感を買うことなく優れた領主として台頭してきた。
好戦的であった時代の国王のころからあまり変わらない世襲制の貴族院の中で数少ないメリンダよりの思考を有した貴族で、他の貴族からは奇異な目を向けられていたのだが、それでも、人命を尊ぶ考えは崩すことはなかった。
温和な性格の領主で、犯罪者も野盗も殺すことはない。そのまるでメリンダのように人の命を、領民のことを第一に考え、それがたとえ悪人であったとしても命をむげに扱わない領主であるネイビムは領民から信頼され、愛されていた。
だからこそ、王都へ赴くとき、多くの志願兵が同行することになり、町の警備が青路坂になってしまったのだが。
アレクも執事の男性とともに領主の寝室に入る。中には大きなベットが一つ、クローゼットが、三個ほど置いてある。部屋の中は基本色に白。ところどころに黄色があしらわれており、化粧台や姿見など、貴族の身だしなみを整えるためのものが並べられている。
さすがは領主の寝室という事だけもなり、相応の装飾品(絵画や甲冑など)も地揺れのせいで汚れたままのわけがなく、多分、いつ来ても豪華なのだろう。
そして、大きなベットの上、明らかに誰かが床に就いているようなふくらみが見える。周りには、そば付きのメイドが服を畳んだり、片づけをしているように見える。
先程の執事の男性の曇った表情。「瓦礫によって・・・」という言葉。メイドたちの行動が、ミハヤにいやの想像を膨らませる。
膨らんだベットに走り寄り、メイドたちが驚くのも無視して、領主―ネイビム・クトリア・マリージョにかかっているであろう、その布団を引っぺがす。
「・・・・・。」
「な、なに寝てんだ、バカヤロー!。」




