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模擬戦 ダンケル

二人とも賑やかな大通りはあまり得意ではないようで、少し遠回りになるが人影の少ない道を行く。身長の差は約五〇センチくらいだろうか。どんな見方をしてもカップルに見えることは無いだろう。


 「これであなたはワタシの身元保証人ね。よろしく頼むわ。」

 「なんでもいいけど、オレ家なんてないからな。あの本は持ってこれないぞ。」

 

 あからさまに顔を歪め不満そうな顔を作っているリューケの方には決して顔を向けない。兵舎の一角を寝床として借りているので、彼女はどこで寝泊まりするのだろうか? 疑問は残るが、その辺のことは自身でなんとかするだろう。何せ彼女は子供では無いのだから。


 太陽がてっぺんに上る前にはリューケの案内でなんとか王城にある自警団の兵舎に到着することが出来た。アリシアがいることを予想してここに来たのだが、アリシアの他にもフィルビアとサイアスが兵舎の中にいた。


 「アレクさん。その子がその魔導士という事ですか?」

 「ええそうよ。よろしくねお嬢ちゃん。」

 「お、お嬢ちゃん・・・・。」


 一旦、リューケの世話をフィルビアとサイアスに任せてアリシアはアレクに耳打ちするように小声で話す。それもそうだろう。リズベルよりも年下の子供からお嬢ちゃん扱いされ新しい仲間に加えようというのだから。


 「どういうことですかアレクさん。あの子は一体誰なんですか? なんで、お嬢ちゃんなんて・・・・・説明してくれますよね?」


 いつも通り聞き心地のいい声なのだが、その奥に怒りの感情が取れるほどにアリシア様はお怒りの様だ。


 「実はあの子、リューケっていうんだが、本当は子供じゃないんだ。呪いを受けて体が縮んじゃったんだ。元々は高名な魔法使いらしいんだよ。」


 実際は、体が縮んだのではなく成長しなくなってしまったのであの年の見た目で生きて来た。その年月を聞くと「レディに年齢は聞かないものよ。」といわれてしまうので正確な年齢は全く分からないが、少なくともアレクの倍は生きていると考えている。


 「だから呪いを解いてやりたいんだよ。力を貸してくれないか?」

 「そう、なのですか・・・・。」


 アリシアは不幸な人を見るようまなざしでリューケの方を見つめる。こんな話をすぐに信じてしまう子なのか。仲間のいう事だから真に受けているのかは不明だが、なんてちょろい子なんだろうか。

 一方の不幸な子、リューケは、サイアスとフィルビアと楽しそうに談話している。

 ここに来る前にその設定を決めていたリューケは絶妙なタイミングでこちらの視線に気づき


 「そういう事なの、力を貸してくれるかしらアリシアちゃん。」


 一国の姫君、それもこれから上司になる人で見た目の上では8歳近く離れている子供がアリシアをちゃん付けして呼ぶ姿は少々奇妙だ。


 「そういう事でしたら尽力させていただきます。リューケさんのお力も借りることもあるでしょうし、お願いします。」

 「ええ、もちろんよ。何でも聞いてちょうだい。」


 面倒くさい反応をしそうなセバスやメリンダへの説明はアリシアがやってくれるようなので内心アレクは、心の底から安堵する。


 「それと一つお願いがるのだけれどいいかしら?」

 「はい。なんでしょう。」

 「さすがにこんなところでは寝れないわ。どこか一部屋見繕ってもらえるとありがたいのだけれど?」

 「そうですか。どのような部屋いいでしょうか?」

 「そうね。本がたくさん入って。魔法の実験も出来そうな広さがあればなおいいわね。まぁ、贅沢は言わないわ。」


 十分に贅沢言っているだろとアレクは物申したい。少ない日数ではあるがアレクはこの兵舎で一人寝起きしているのだ。そんな贅沢がまかり通るはずも・・・・。


 「わかりました。そうですね・・・フィル。書庫の一室が空いてるわよね?」

 「ええ。本とかは書庫内に置いてもらえばいいし、寝室と実験室が一緒になってもいいなら大丈夫だと思うわ。」

 「問題ないわ。悪いわね。」


 なぜだ。なぜなんだ。なんでこんなにも他の新メンバーは次々といい住居を獲得していくんだ。と、アレクは思わず膝から崩れ落ちる。刹那、リューケと視線が交差した時の彼女の表情は勝ち誇っていた。


 「どうしたんだいアレク。いきなり崩れ落ちたりして?」

 「なんでもない。なんでもないんだ。・・・ここだって住めば都ってやつだ。うんそうだ。」


 後半部分は話しかけて来たサイアスにではなく自身に言い聞かせるようにアレクは呟く。

 

 簡易的なものだがベットだってある。私物である戦術書や書物だって置いておけるし、職場まで徒歩ゼロ分だ。朝になれば大抵誰かが来てくれるし、不便なことは扉が無くて外気温がそのまま室内の気温になるくらいだ。それ以外に不便な事なんて無いじゃないか。

 うなだれているアレクが気になるアリシアの背中をリューケが急かして新しい住居へと向かう。後で恐らく、王城の兵かアレクを使って孤児院から本を取りに行かせるのだろう。


 なぜうなだれているのか分からないサイアスは、アレクを慰めながら二人っきりになった自警団の兵舎にいると、ダンケルとスフィアが兵舎を訪れて来た。


 「やあ、サイアス、アレク。ってどうしたんだ?」

 「おはよう。誰もいないのかい?」

 「おはようスフィア、ダンケル。ボクにもよくわからないけどアレクはご執心みたいだ。みんなはいないね。」


 二人の登場と時間の経過でなんとか立ち直ったアレクは、三人と円卓を囲んで座る。


 「ダンケルとスフィアはいつも一緒にいるイメージだな。」

 「ん? そうかい? まぁ家が近いからね。腐れ縁ってやつだよ。こいつ基本暇だからな。」

 「ひどいなぁ。今日は家の仕事を手伝おうと思ってたのに、スフィアが連れて来たんじゃないか。」

 「でもそのおかげでよかったこともあっただろ?」

 「良かったこと?」

 「ああ。自警団の最強二人と稽古できそうだ。な、サイラス?」

 「おい、オレは確認とらないのかよ。」

 「アレクは前に予約しただろ。」


 確かにずっと前。遠征に向かうときにそんな話もした気がする。それも二〇日以上前のことと思うと感慨深い感情になってくる。


 「そうだね。いいよ。ボクもアレクの強さについては気になっていたんだ。丁度いい機会だしね。」


 何だかアレクの承諾も無いまま稽古する流れが出来始めてきているが、アレクとしても乗り気でないわけでは無い。アレク自身もサイラスの実力は見て見たいと思っていた節はある。

 ベルディア公国で腕の長い魔獣と戦ったときはサイラスにはセベとシャノン、アリシアの守りをしていたし、巨大な魔獣はと良さもあまり分からないまま一撃でサイラスが葬ってしまったため、彼の強さをちゃんと見る機会は全くなかった。

 他の自警団のメンバーの話聞く限りでは圧倒的な実力を持っているようだが、この自警団の面々は(ルシアを含め)自身の過小評価が強い傾向があるのであまり期待できない。アレク自身の目で確認できるのは今後のことを考えてプラスに繋がることだろう。


 「分かったよ。んで、誰と誰がやるんだ?」

 「当然、アタイとアレク。と、言いたいところだけど、ダンケルとアレクでもいいかい?何でも、セベに片手剣の戦い方を教えるうえで、いろんな戦い方を知っておきたいんだとよ。」

 「構わないけど、オレの戦い方は結構特殊だと思うぞ?」

 「ありがと、アレク。参考の一つにするだけだから助かるよ。」


 ダンケルは様々な武器を使い分けて戦う事が出来る。自警団のほとんどのメンバーは特定の武器に絞ることでその武器の使い手の中ではナンバーワンのモノが多いが、他の武器では戦えないものが多い。その点ダンケルは持ち前の器用さで斧、槍、片手剣、大剣、騎乗等々、様々な戦い方をすることが出来る。しかし、自らを器用貧乏と称しているようにすべての武器において平均並みの戦士でもある。


 「んじゃま、始めようか。」


 兵舎前にある広場にアレクとダンケルは向かい合わせで立っている。互いに持っているのは投身80センチくらいの片手直剣の木剣である。それに加えてダンケルは左手に盾を持っている。腕から通しているので自由に振り回すことは難しいが、安定感は得られる。


 アレクはふと思ったが、ダンケルとこうして向き合うのは初めての事かもしれない。遠征のときは一緒にいたがほとんど会話をすることは無かった。ベルディア公国に居たときも実家が商業を営んでいるという事を知ったくらいだ。戦い方も魔獣討伐で数回見ただけなのであまり分からない。だからこそ少しワクワクしている自分がいる。


 なかなかの長身のダンケル。180センチオーバーな身長に見合った腕の長さのリーチは案外厄介なところもある。その身長の高さから盾は小さく見えるが、アレクの持つ木剣の刀身より大きいのかもしれない。一見細身に見えるのだが、しっかりと鍛えていることはモスグリーンの軽装を着ていても伝わってくる。


 互いに木剣を構える。ダンケルは盾を身体の前に置き、右手の直剣の先端をアレクに向け距離を測る。半身で体を盾で隠していることからアレクはダンケルに突進の意志が無いことを読み取り、自身は重心を落とすことで一歩目に力を込める。右手に構えた木剣を獣人と平行に保ち、一撃目の剣線を隠す。


 「はじめ!!」


 10メートル近くあった二人の間の中心に立っていたスフィアの合図と共にアレクは、右足を大きく踏み出しダンケルに迫る。アレクは普段は相手の攻撃を誘ってカウンターを狙う戦い方を主としている。だからといって自ら攻撃しないわけでは無い。特に慎重な相手に対しては、こちらが一手目を出すことで反撃を限定させるというのも戦略の一つである。


 瞬きをする間もなく、アレクがダンケルに肉薄し、横薙の一閃がダンケルの肩に迫る。しかし、アレクの右手による薙は、ダンケルの盾側にあるため、ダンケルは難なく盾でアレクの一撃を防ぎ、その隙をうかがうだろう。


 ダンケルの盾とアレクの木剣が当たる。思いのほか軽い左手の衝撃に疑問は残るが、アレクの剣が金属製でないからであろうと判断し、ダンケルは攻撃を弾かれたアレクに突きに近い一撃を盾の端ギリギリから突き出す。


 ダンケルは強者ではない。


自警団の中では(セベたちが加入する前までは)最弱といってもいいかもしれない。アリシアやスフィア、サイラスのような得意な戦い方のスタイルは無いし、セバスのような戦いの経験は平和な現状では積むことは出来ない。フィルビアのように天馬に乗ることが出来れば、三次元的な相手より有利な位置を得ることもできるかもしれないが、その才能も持ち合わせてはいなかった。

 むしろ、あまり戦闘に向いていないともいえるだろう。実家は商業を営んでいる一般階級。温和な性格で、子供の頃から争いごとは好まなかった。手先が器用で裁縫や料理が趣味な彼が戦いに身を投じたのは幼馴染であり、家の取引相手でもあったアイリーナ家の令嬢の影響だろう。

 昔から家の付き合いで仲良くしていたその令嬢は、彼女の友人が作った自警団に入ることを決めた時、彼女を守るよう親に言われてここまでついてきたのだ。三男のダンケルは、上に二人の兄、下に弟と妹が一人づついる。実家は継げないダンケルは、これが自身の仕事と割り切って自警団に入ることを決意した。

 才能も無い、経験も無い、幼い頃から訓練した訳でもないダンケルは必死に戦い方をも学んだ。しかし、現実は厳しく、自警団の中では最も弱いことは自覚している。何せ、自警団の面々は努力する天才たちなのだからダンケルが勝てないのも仕方のないことだろう。


 だからこそ、ダンケルは一つの結論にたどり着いた。


 勝たなくてよい。


 時間を稼ぐ。自分より強い人間は周りにたくさんいる。そして、対峙する者たちも自身よりも強者であることを認識したダンケルは、その誰かが来るまでの時間を稼ぐ戦い方を主としている。様々な武器で戦えるようにしたのも、どんな場面でも戦えるように、例えば傷ついた仲間の武器を使っても時間を稼げるような訓練を積んできた。

 彼の攻撃に殺意は乗っていない。持ち前の器用さを生かして相手に嫌な角度、位置、タイミングに寸分たがうことなく剣を持っていくそれだけで強者に勝てる可能性を高めることが出来ればそれでいいのだ。


 今回のアレクとの修練もダンケルにとっては勝ち負け以上に重要視していることは、その場面においての適切な攻め方をアレクから教わろうというのだ。セベも恐らく自分と同じで多くの強者とタイマンで勝利することは難しいだろう。そして、ダンケルが唯一恵まれていた長身も彼にはない。だからこそ、アレクのような戦い方を、強者を倒すのではなく、仲間を待つ戦いが出来るように今、アレクに戦いを挑んでいるのだ。


 まるで盾を貫通して出て来たかのように錯覚させるほどギリギリを通して出て来た剣にはアレクも正直に驚く。しかし、このダンケルの一撃も、アレクが予想していた動き、いや。誘導させたという方が適切だ。

 だからこそ、木剣にはほとんど意識は割いていない。弾かれても落とさない程度の力で握り、神経はダンケルが次に放つ(・・・・)一撃に備えていた。

 

 予想通り、出て来た突き。ルシアやアリシアほどの才能が有れば、避けることは難しかったかもしれないが、ダンケルの突きはそこまでの領域には達していない。であればアレクにとってその一撃は避けることは造作もない一撃になってしまう。

 体を少し捻るだけでダンケルの一撃を躱したアレクは、剣の腹の部分を拳を使って上方に弾く。上手く力の方向を変えられたダンケルの突きは、アレクの頭の上へ流れていってしまう。

 ダンケルに対応する暇を与えることなく、元々次の動きのために力を抜いていた木剣の持つ右手に次の指令を飛ばす。あえて、ダンケルの重心から外した初撃。それは、ダンケルの力を弱めるためでなく、ダンケルの盾を出来る限り上に追いやるため。

 拳を突き出すときに引いていた右手を斜め下方から切り上げる。


 ガッン。


 鈍い音と、強い衝撃がアレクの木剣を持つ右手に伝わってくる。それと同時にダンケルは、いったん後方に飛び下がっている光景が目に入った。


 ダンケルは強者ではない。しかし、平凡ではない。


 彼は、器用さにおいては天才的なまでの才能を持っていた。それは、趣味をとして長年鍛えられ、両手を別々に動かし、二つ以上に事態に対する思考判断の高さにも長けていた。普通であれば確実に決まったカウンターを弾かれた時、一瞬でも思考は停止するものである。アレクも恐らくそうなるだろ。しかし、ダンケルは自身の弱さを十分に理解している。だからこそ、弾かれたとしても思考は停止しない。次に起きている現象に対応しなければならない事を理解しているから。

 

 上方に流され、既に有効打でなくなった木剣にはもう意識は向けない。


 「(アレクの次の行動は。)」


 目線を向けると木剣が引かれている。

 盾で体を弾く。もう一度、防いでカウンター。力任せに上方に流れた剣を軌道修正する。いくつかの案がダンケルの頭をよぎるが、相手の行動を読むことに長けているアレクに誘導されているような錯覚をダンケルに与えてくる。


 「(アレクは元々カウンター重視だ。ここまでアレクの読み通り、なら深追いはまずい。)」


 アレクを押し切れるほどの技量があればその限りでも無いのかもしれないが、ダンケルにその未来は見えない。だからこそ、盾で防ぎつついったん後退する。幸い、アレクは自警団の面々の中では、好戦的に追撃をしてこない。


 「(アレクに生半端なカウンターは効かないよね。)」


 今まではダンケルは自警団の中で唯一といえるカウンター重視の戦闘スタイルであったが(他の人も使うが、それ以上の強みがある)、アレクに対しては薄味だ。


 「(剣の実力もカウンターの読みも勝てないけど。)」


 思考の速さでもアレクには敵わない可能性は高いが、ダンケルにはアレクにはない武器が残っている。それは、器用さと左手に持つ盾である。


 「(それを使ってまだ粘って見せる。)」



 一度距離を取り、ダンケルから攻めてこない事でアレクも同様に思考をまとめ、ダンケルの再分析を始める。


 「(あの盾。以外にいい動きするな。反射神経もすごい。野生の感というより見て反応してる感じだ。)」


 今まで対峙したルシアやポールはどちらかというと野生的な反応を見せていた。転生の反射神経はそれだけで脅威であり強みでもある。しかし、なんとなく躱した攻撃は、次も同じ反応を示す場合が多いので、あえて同じ攻撃を出すことで隙を作ることも可能である。

 しかし、ダンケルはそうではない。反応しているのは思考で追いついている動き。つまり、ルシアと戦ったときに使ったようなブラフを噛ませることは難しいだろう。


 それに加えて木剣では鉄製のあの盾を崩し切るのは至難の業だ。


 「(野性的な方が御しやすいけど、今回は難しいな。)」


 戦法を変える必要がある。どちらかといえば自警団にいるような天才的な強さの方が珍しいのだ。思考する相手を御しきる。つまり、予測を予測するいい練習になる。


 「・・・・・本当に暇がないな。」


 そう呟くアレクの表情には笑みが浮かんでいた。自警団に拾われてからゆっくりできた日は、未だに一桁を脱しないほどのアレクの日々は濃密だ。でも、体の奥底から溢れる感情は喜びに近しい。記憶を失う以前は暇だったのか、失い続ける日々だったのかは不明だが、何かを得られる。成長できる日々は、忙しくても楽しいものだ。



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