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 アレクの休日

 アレクの朝は早い。記憶がなくなる前からそうだったのか、はたまた最近の野宿が多く、忙しい最近の日常が影響かは不明だが太陽が昇るころには自然と目が覚めるようになっている。


 「・・・・よく寝たな。」


 不思議なことにどんなに遅い時間まで作業をしていたとしてもこの感覚が変わることが無い。俗にいうショートスリーパーなのかもしれないが、一番好きなことは昼寝であるからそのことが一回の睡眠時間の減少につながっているのかもしれない。

 

 朝起きたアレクの一番最初の日課は、セバスと共に城内を徘徊することだ。


 「おはようございますアレク殿。今日も早いですね。」

 「セバスには言われたくないかな。今日も見回りか?」

 「ええ、ご一緒にいかがですか?」

 「まぁ、そのつもりだよ。」


 小鳥たちもようやく置き始め、辺りが明るくなり始めたくらいの時間にセバスは、城内にある自警団の兵舎の前を通る。その時に近くにある水場で顔を洗っていたアレクと遭遇し、ともに城内の庭園や道を歩くのだ。日課と言ってもこの王都にいた数日間だけなのだが、野営中もアレクが天幕から出る時間には、セバスも起きていた。

 いつ寝てるのか? と言う質問をしたことがあったが、「しっかりとした睡眠はとっていますよ。」と言う言葉と乾いた笑いでごまかされた。


 もうすぐ夏と言う比較的暖かい日が続く季節に入ると聞いていたが、この時間はまだそこまでの暑さを感じない。体感的には20度くらいだろうか? 正確な気温というものはアレクには分からないが、過ごしやすい気温ではある。

 セバスとの日課はただ徘徊するだけではない。石ころや雑草、落ちている者を拾い集めることだ。基本的には、そう言った作業を行う従者がいるのだろうが、セバスは毎日この作業を行っている。

 しかし、毎日石ころが出てくるわけもなく、最近は少し生えている雑草を抜くくらいの作業しかない。


 「アレク殿。本日のご予定は?」

 「ん? ああ、リズの言っている孤児院に行こうと思ってる。本を買う約束をした子がいてな、エルフの本とかは喜びそうだ。」

 「そうですか、喜んでくれるといいですね。」

 「なにかようでもあるのか?」

 「いえ、初めてお会いした時、ベルディア公国での魔獣討伐においての指揮でアレク殿の軍略をお見受けして素晴らしいものを感じましたのでご指導をいただこうかと。」

 「構わないけど、この自警団は戦略とは縁が遠そうだな。一人一人が強すぎるし何より平和だ。」

 

 最初の街では、アリシアが苦戦するほどの手練れがいたが、ベルディア公国での魔獣討伐などはアレクが指示を出すまでもなくバッタバッタと魔獣たちを薙倒していた。そのことを考えると小細工などしなくても自警団の面々は十分に戦えるかもしれない。


 「ええ、ですが、不要な知識などありません。それに、これまでがこれから後同じとも限りませんので。」

 「そうだな。分かった、今度教えるよ。」

 「ありがとうございます。ですがなぜアレク殿は、多くの記憶を失ったのにも関わらじ、戦闘に関する数多くの知識は残っているのでしょうか?」

 

 初めの内はかなりアレクのことを怪しく思ってこの言葉を発していたセバスも今日は、疑いの目は向けてこない。怪しくは思っているが、信用してもいいかもしれないくらいの中には慣れた気がしてアレクも嬉しくなる。


 「多分、記憶がなくなる前は日常的に戦闘状態だったのかもな。記憶じゃなくて感覚で戦闘してる節も強いしな。」

 「そうなるとアレク殿はよほど遠い大陸の方なのでしょうね。この辺りではそのような場所は聞き及びませんので。」


 最近ではあまり自身が何処から来たのか何者なのかについて考えることがなくなっていた。いや、そんなことを考える余裕がなかったとも言えるだろう。しかし、考えてみても何も進展しないというのも事実だ。アレク(黒髪の青年、もしくはそういった人種の多い国)に関する情報はどんなに探しても出てこない。やはりヒントとなるのはあの仮面の剣士くらいなのだろう。


 「ゆっくり探してみるよ。それまで、自警団のために尽力させてもらう。」

 「よろしくお願いします。ではまた。」

 「ああ、そうだ。これ、メリンダ、女王に渡しておいてもらえるか?」

 「これは?」

 

 アレクは、一つの便箋をセバスに差し出す。封はされていないので、誰がいつ読み、中身を簡単にすり替え得られる形の物は、国王へ渡すものとしては相応しくない。しかし、そう言ったセバスにとっては常識と思えることもアレクにとっては、未知のものなのだろう。


 「セバスが確認してからで構わないからさ。余計なお世話かもしれないけど・・・。」

 「拝見させていただきます。」


 申し訳なさそうに照れるアレクの前で、セバスは便箋の中に入っている羊皮紙を取り出す。本来であれば、羊皮紙も国王への者として使用しないのだが、そこに書かれている内容はセバスにとって衝撃的な事であった。

 

 「こ、れは。アレク殿。どこでこのような情報を?」

 「いや、予想と想像が半々だ。情報もあんまりないけど、地揺れや同盟のことも考えればこれくらいは普通かなって。だから、セバスの持っている情報をかみ合わせて、メリンダ女王に報告できる形にしてほしくってさ。頼めるか?」

 「・・・・・・。了解しました。」

 「ありがとな。」

 

 簡単な挨拶をかわし、アレクはセバスに背を向けていってしまう。


 「この内容を想像と予測で書けるとは。・・・・いやはや恐ろしいお方だ。」


 一人。セバスは背筋に冷たい何かが這う感覚と、胸の高揚を感じていた。


 太陽が完全に上り切るころには、城内の庭園や道のほとんどを歩き終わるのでセバスは、城内に戻ってしまう。再び一人になったが、このくらいの時間になれば城門近くで待っていると、


 「アレクさんおはよう!」

 「アレクーおはようなのー。」

 「おはよう。リズ、ピリア。」


 孤児院に向かうために加護を持ったリズベルとピリアが走ってくる時間なのだと前々から聞いていた。今日はその孤児院にアレクも用事があるので待っていれば一緒に行くことが出来る。道を覚えれば一人でも行くことは可能なのだろうが、どうやらアレクは方向音痴なのかもしれない。


 「アレク荷物いっぱいなのー。」

 「それ全部プレゼントするの?」

 「そうなるかもな、お陰で手持ちは殆どなくなっちゃったけどな。」


 自警団は基本的には給料が発生する職業軍人である。しかし、給金を貰っている者は非常に少ない。リズベルやアリシア王族に給金は発生しないし、多くの団員は貴族の家の出身なので給金は基本的に必要ない。唯一、一般階級であるダンケルが給金を貰っていたのだが、その中にアレクとセベ、シャノンが加わった。ターニャが給金を貰うかどうかは分からないが、自警団の多くは無償で働いている。


 「アレクさんは服とか買わないの? それずっと着てるよね。」

 「・・・・これ、臭うか?」

 「クンクン。そんなことは無いけど、汚れも出てきてるよ。」


 インナーの白い服はいくつか同種のものを用意してもらったので何日かに一回は変ええているのだが、上着として着ている黒いローブはずっと着ているので、返り血や、野宿の際の土などで汚れ、臭いもあることだろう。しかし、思った以上に黒いローブに目に見える汚れは存在しない。時折洗っているのでそのお陰かもしれないが、非常にいいものなのかもしれない。


 「そうだな。今度余裕が出来たら買っておくよ。」

 「その時はわたしがコディネートしてあげるよ。」

 「ああ、よろしく頼む。」


 そんな会話をしながら、朝の早いためかあまり人通りのない王都の道を進んでいき、少し賑わいのない路地を通ると一つの教会に到着する。ここに来るのは三階目くらいだろうか。一回目はたまたまリズベル達を見かけて連れてきてもらい、二回目は、一緒に王城から言ったのだが、未だに道銃は不明である。


 丁度軒先の花壇の手入れをしていたのか、リズベル達が来る時間だからそこの手入れをしていたのか、教会のマザーさんがこちらに気付いたようで暖かい笑顔で迎えてくれる。


 「リズ今日は時間通りね。ピリアちゃんもアレクさんもおはよう。」

 「おはようマザーさん。今日もいっぱい持ってきたよ。」

 「助かるわ。いつも悪いわね。」

 

 ここの教会のマザーさんは、王族のリズベルに対してもあまり敬称をつけて呼ばないのはリズベル自身の願いからであると前に聞いた。この場では、一人のシスター見習いの一人。そういう自己認識でリズベルとピリアは、朝の礼拝のために早く起きている子供たちに早くも囲まれ始めている。


 褐色の肌に力仕事が出来そうなガタイのいいマザーさんは、そんな子供たちとリズベルに母親のような笑顔で見守っている。


 「今回も大変だったんだろ? あんな地揺れもあったしね。」

 「そう言えば大丈夫だったんですか? 王都もかなり被害があったって。」

 「まぁ、とりあえず子供たちは無事だったよ。ただ、こうなってしまうと援助の方は、ね。」


 この孤児院はマザーさんの好意で行われているため、教会としての収益を孤児院に回して行っている。だから、赤字が続いてしまう。それを抑えているのが、王都に住んでいる者たちからの寄付である。しかし、王都の災害によって余裕がなくなってしまうとその寄付も見込めない。普段から切り詰めて生活をしていた為、今はまだ影響は薄いのだが、徐々に貯蓄は無くなっているという事だった。


 「メリンダ様に言えばいいのでは?」

 「そうだね。あの方ならきっと目をかけてくれるだろうね。でも、そうはいかないんだよ。特に教会側である私たちはね。」


 立法、司法、行政。その三権は基本的王族の近しいところにまとまっている。そこから逸脱しているのが、教会の勢力である。この勢力は、イグニアス王国、ベルディア公国そしてボトムス王国に至るまで広がる代わりにそれぞれの国家の庇護下にはない。つまり、完全中立国のような物で、一国がその勢力を排除するという事は、他国が攻めるための大義名分を得ることで、ほぼ全ての国はその勢力を見て見ない状態なのだ。しかし、教会には、神聖系の魔法を使えるものが多く、彼らは傷の治療、病気の回復に秀でているため、関係は構築している

 だからこそなのだろう。すべての国が戦力の一部としているので、一国の教会がその国の慈悲を受けるということは出来ない。だからこそ、この教会が、メリンダに助けを求めることは出来ないのだ。


 「リズは大丈夫なんですか?」

 「一応、ここのシスター見習いだからね。ただ、戦争とかになったら難しいかもしれないね。」


 そう語るマザーさんは非常に悲しい顔をしていた。それが仕方のないことであることは十分に理解しているが、やはり、リズベルがここに来れなくなってしまうことは起きて惜しくないのだろう。


 「そうならないように努力します。オレも。」

 「そうしてくれよ。でも、それ以上にあの子たちを守るんだよ。犠牲の上の平和なんて私はまっぴらさ。・・・・今日もあの子に会いに来たのかい?」

 「ええ、本を買ってくる約束だったので。」

 「悪いね。あの子はわたし達にもあまり懐いてくれないから心配だったんだよ。」


 それでは、と、アレクはリズベル達の元へ向かうマザーさんと別れ、教会の奥。一つの部屋を占領している孤児の元へ向かう。元々その部屋は、書庫のように使っていたのだが、その子がその部屋で寝起きするようになり、その子の専用の部屋になってしまっている。孤児院の子供達は基本的外で遊んだり、マザーさんやシスター勉強するため、書庫へ行く者はあまりいないので名実ともに一人部屋となっている。


 一応女の子なのでノックをし、返事があってから木製の扉を開ける。


 「・・・・・また散かったな。」

 「仕方ないわ。地揺れで倒れたのよ。あらかたはマザーが片付けたようだけど、数が多すぎてまだ手が回っていないの。片付けておいてくれるかしら。」


 窓辺に腰かけて本を読んでいる少女。膝をかがめた状態で本を読んでいる。屈めた体よりも長い灰色の髪は、窓枠からこぼれている。ウェーブがかかっていてその長さなので恐らく彼女の身長よりも高いだろう。上下とも黒で統一された服は、白素肌によく映える。パープルの瞳は手に持っている本から離れないので、アレクが持ってきたお土産にはまだ気付いていないのだろう。

 一見乱雑に崩れているだけのような本の塔は意外にも整頓されてるようで、上手によけながらアレクは窓辺の少女のもとにまで歩み寄る。

 すぐそばで見て見ると彼女の幼さがより顕に著分かる。年齢は12,13歳だろうか、身長も一番小さいシャノンよりもさらに小さく120センチ台だろうか。運動不足と栄養失調が重なったような細くい体に綺麗な白い指で持っている本の表紙は、彼女の顔よりも大きいかもしれない。

 そんな幼い顔の唇を尖らせてつまらなそうに読んでいるのは、イグニアス王国の生物について書かれているが学術書である。


 「・・・・何? ワタシの顔に何かついてるの?」

 「いや、改めてみると幼いなって。」

 「・・・・変態。」


 いや、なんでだよ。と、アレクがツッコミを入れる前に入り口のドアがノックされる。こちらが返事をする前に開かれたその扉の先には、この少女と同年齢の少女が一人立っていた。子供だから仕方がないと、小さなため息をついて灰色の髪の少女は、ドアから入って来た赤毛の少女に目線を飛ばす。


 「リューケちゃん。鳥さんの絵本。」

 「あっちの端、ドア側から三つ目、上から四つよ。」


 赤毛の少女は緊張した面持ちからパッと明るい笑顔に変わり、トタトタと絵本を取るとかわいく手を振って出ていってしまった。

 

 「・・・・やっぱりロリコンなのね。」

 「その言葉の意味は分からんが、見下されてる気がするのは気のせいか?」

 「気にしない事ね。で、今日は何の用なの?」

 「ああ、これ。お土産だ。」


 ようやくアレクにパープルカラーの瞳を向けてくれた灰色が身の少女―リューケにエルフの里とベルディア公国で買ったいくつかの書物を渡した。この部屋の中では見たことのない本を買ってきたつもりだ。


 「こっちは読んだことがあるけど、これとかは初めて見るわね。」

 「だろうな。これはエルフの里で買ってきた書物だ。かなり珍しいと思うぞ。」


 ふーん。と、あまり感情のない返事で早速、一冊目を読み始めようとしているリューケの手の中の本をアレクは取り上げる。


 「おいおい。約束が先だろ。」

 「あっ、ちょっと。むー・・・・分かったわよ。その手の甲の痣についてだったかしら。」



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