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過去のあやまち

 二日とゆっくりと時間をかけて王都への帰路についたアリシア達は、すぐ目の前に王都の大きな城門が見える位置にまで来ていた。よく晴れた青い空の太陽は、頂点より少し傾いたくらいだろうか。馬に乗っている者や大きなオオカミに跨っている者、二台の馬車の中に入っている者を引連れ、アリシア達自警団の一行は街道をゆっくり進んでいく。

 馬に乗ることのできないアレクは、アリシアと共に一台の馬車の中にいた。馬車と言っても客を乗せるようなものではなく、荷物を運ぶ用のもので、王族のアリシアやリズベルがいるにも関わらず荷馬車に乗って帰ることになっているのは、アリシアの願いでもあった。

 

 「地揺れで多くの物資が足りないのに、帰るためだけに多くの馬を使う訳にはいかない。」


 王族なのだからもう少し贅沢な考えを持っていてもいいと思うが、そこがアリシアのいいところなのだろう。もう一台の馬車にはセベとシャノンが乗っている。リズベルはピリアの後ろにフェルヴィオは、セベたちの馬車を引く馬に、フィルビアはアレクの乗る馬車を引っ張っている馬に乗っている。これらの馬や馬車は、国境の砦で借り受けたものである。


 「そう言えばアレクさん。あの魔導書はまだ使っていますか?」

 「え?あぁ、あれね・・。」


 買ってもらったものなのに壊してしまったとは言いにくいアレクは、アリシアから目線をそらす。


 「魔導書は非常に壊れやすいので新しいものを買い入れておきました。使ってください。」


 そんなアレクに対してアリシアは、王都から持ってきた荷物の中から一冊の魔導書を取り出して、アレクの方に差し出す。それは、エルフの里に落ちるまで愛用していた赤い魔導書であった。


 「いいのか?また買ってもらって。」

 「ええ。今回からは自警団のお金で払っていますので気にしなくて大丈夫ですよ。」


 そんな事を言いながら微笑むアリシアにアレクも表情が緩む。


 「悪いな。実は、エルフの里に落ちるときに壊しちゃったんだ。」

 「それにしても本当にすごいですね。たった数日でエルフ族の信頼を得られるなんて。歴史書で読んだ限りではかなりひどい歴史もあったというのに。」

 「メリンダ様とアリシアが良い国を作ってくれていたおかげだよ、オレは特に何もしてないぞ。」

 

 アレクの言う通り、アリシアやメリンダが、イグニアス王国を民に愛される国に変えていったことは、言うまでもない。彼女らの父や全王たちの時代は、戦争まで発展しなかったものの民からの


 「なあアレク。ベルディア公国でもエルフの里でもたくさん本を買っていたけど何冊買ったんだ?」

 「そう言えば、頼まれていた本たちアレクさんが間借りしている自警団の兵舎に置いてありますが、必要なら自警団からお金を出しますよ?」

 「いや、いいよ。ほとんどはオレのじゃないしな。戦術書をいくつか買ったけど、それもあくまで趣味みたいなものだし。」

 「それでは誰のなんですか?」

 「リズの行っている孤児院の子に本をお土産に頼まれてな。ベルディア公国はともかくエルフの国の本は喜んでくれると思う。」

 「へぇ。難しい本もありましたがすごい子なんですね。」


 と、言うよりかは、恐らくアレクが読み聞かせしてあげるのだろうとアリシアは予想する。話では、リズベルも心を開かなかった子らしいが、アレクにはそんなお願いまあでしているのだろう。

 

 そんな会話をしている間に王都の城門の衛兵たちのもとに着く。先頭にいたサイアスがアレク達の馬車が到着する前に確認作業を済ませてくれていたおかげでノンストップで馬車は門をくぐり、そのままメリンダの待つ王城に向かった。

 そこで、ピリア、フェルヴィオはダンケルとスフィアの仕事を手伝うためにこの場からいなくなり、アレク、アリシア、サイラス、シャノン、セベ、フィルビア、リズベルそしてターニャの八人はメリンダとセバス、エリダもいるであろう王座の間に向かった。

 考えてみればメリンダと合うのは20日以上たっているわけで、セベとシャノンにとっては自国の王様に会う機会などなかったことだろう。


 「き、緊張してきたべー。一国の王様なんておら、頭上げられそうにないべ。」

 「だ、だらしないわね、わたしなんてエルフの王子様にもあ、あったんだから。」

 「シャノンも緊張してるべ。」

 「大丈夫だよ、わたしの姉さまなんだし、怖くないよ。」


 セベとシャノンとそう歳の変わらないリズベルが二人の緊張をほぐすような笑顔を見せる。


 「リズの言うとおりだぞターニャ。・・・・緊張してんな。」

 「うるさい、笑うな。こっちは里の責任もあるんだぞ、き、緊張するだろ。」

 完全に緊張から表情が強張ってきているターニャにアレクは笑いかける。そんなアレクの表情を見ながらフィルビアは、 

 

「そう言うアレクもまだ緊張してるでしょ?」

 「ふっ。当然。」


 堂々とアレクはターニャとそう変わらないほど緊張していることをどや顔で語る。

 何せ一国の王様だ。前回あっているし、とても話しやすい人であることは認識できているが、イグニアス王国の大きさが多少なりとも分かってきたからこそ、緊張感は高まったといってもいいかもしれない。

 先頭を歩くアリシアとサイアスはそんな談笑をしている後続に微笑みを浮かべている。アレクさんが加わってから自警団の中にはさらに笑顔が増えた気がする。以前からアリシアとリズベルの乳姉妹が多かったため仲はいい方であったが、さらに賑やかになって来た。単純に人数が増えただけではない。


 「それではお願いします。」

 「は!」


 地揺れで多くの兵士が出払っているようで、前回扉を開け示していた兵士ではなく今回は天馬騎士団の見習い騎士が、この場に立って扉を開けてくれる。

 部屋は依然とほとんど変わらない様子であった王座の間の中。幾つかの装飾品は変わっているのだが、アレクに気付くほどの変化はほとんど無かった。

 リズベル達を含め、西の砦に向かった全てに人が無事であったことは、先に王都に帰ったルシア達から聞いていると思うが、自分の目で確認できたメリンダの瞳には嬉しさからくる光るものがあった。


 「よかった、本当に良かったです。リズ。アレクさん、天馬騎士団から報告は聞きました。フィルビアやシャノンさん、ルシアを含め本当にありがとうございます。」

 「いえ、そのようなおこt・あ、任せてもらったからな。」


 お辞儀をして応えようとしたアレクは、以前メリンダに気軽に接して欲しいといわれたことを思い出し、体を起こし右手で胸を叩く。やはり、横にいるエリダとセバスには怪訝そうな表情をされたが、メリンダは笑っているようだった。


 「(そういえば、前回もあんな感じだった。)」


 ここ数日、と言うより記憶を失ってから結構濃密な日々を過ごしていた為か、元々記憶力が悪いのかは定かではないが、ようやく初めて会った時のことを思い出す。

 顔を上げているアリシアとリズベルも笑っているようだが、頭を下げたままのサイラスたちは非常に驚いていることだろう。

 特にターニャは、これから同盟関係を結ぼうとしている大国の王様にかしこまらないアレクはやはりすごい人など再認識する。


 「ふふ。そうでしたね。これからも願いします。」

 「メリンダ様。頭をお上げください。」

 「いいじゃないですか、エリダ。家族の命をお願いするのです。姉として頭くらい下げさせてください。」

 「ですが・・・・。」


 一国の王様がそう簡単に頭を下げるモノではない。エリダのいう事も十分に理解できるが、メリンダにはそんなプライドは持ち合わせていない。もちろん、外交の場でそのようなことはしないが、自国のそれもアリシアやリズベルに近しい者たちは特別なのだ。


 その後、主にアリシアから新しい仲間となるセベとシャノンの紹介、アレク達が『入れずの森』の中にエルフ族の里を発見したこと、そのエルフ族の里から使者が来たことを伝える。

 ひとまず紹介の終わったセベとシャノンはアレクが初めにそうだったように、リズベルに連れられて自警団の兵舎の方へ向かった。その際、フィルビアとサイアスも王座の間を後にした。


 「話は分かりました。エルフの方。面を上げてください。」

 「はっ。お初にお目にかかります。メリンダ女王様。わたくしは、ポーア様が統治する里出身、テレフが娘、ターニャと申します。本来であればこのような場に相応しくないものなのですが、アレク殿を後見人とさせていただき、この場に参上させていただいております。」

 「わかりました。今回は、イグニアス王国との同盟関係というお話でしたが、間違いはありませんか。」

 「はい。こちら側といたしましては、属国になる準備もありますが、なにとぞ歴史の繰り返しにならないようメリンダ女王様にはお願いしたく。」


依然として頭を上げないターニャに対してメリンダは、王座から立ち上がり歩み寄ってくる。下を向いた状態でもその気配を感じ取ったようで、ターニャの体がさらに強張る。

 メリンダは、ターニャの目の前にまでくると、彼女の目線に入るように膝をつく。この行動には、アリシアを含めこの場にいる全員が驚く。特にエリダは、王座の横から二、三歩歩き出し、今にもメリンダに駆け寄りその膝を床から放そうと駆け出しそうだった。しかし、


 「エリダ。構いません。やらしてください。」


 メリンダの感情のこもった声にエリダは不満そうな表情を浮かべているが、ここまで駆け寄ってはこない。


 「ターニャさん。イグニアス王国の王としてこの場を借りて頭を下げさせてください。エルフに対して行った行為が許されるとは思いません。ですが、イグニアス王国の民を代表するものとして、本当に、本当に申し訳ありませんでした。」


 床に頭をつけるように謝ろうとするメリンダをターニャは急いでそれを止める。


 「何をなさっているのですか! メリンダ女王様には関係のないことではありませんか。」


 エルフとの交流が途絶えたのは、数百年も前の話。その頃のことを覚えているエルフすらもう存在していない。イグニアス王国に住む人間もエルフと言う種族がいたことなどおとぎ話程度でしか信じていないものも多いだろう。そんな時代の国王が頭を下げる必要などないだろう。しかし、


 「いえ、下げさせてください。我々は自身が犯した罪など忘れ、その相手の存在すらも忘れていたのです。これほどの罪はありません、その国を治めるものとして本当に申し訳ありませんでした。」


 誰もが言葉をつぐみ何も話すことは無い。この場で、メリンダを止められるものはいないだろう。それはターニャとて同じことだ。許す、という言葉を口にするのは簡単なことで、ターニャからしてみればそんな昔の話で頭を下げられても何もすることは出来ない。では、誰がメリンダに「許す。」と言えるのだろうか。そんな、ヒトはこの世には存在しないだろう。だから、


 「頭を上げてください。我らエルフの民は、あなた方を信じています。だから信じさせてください。」

 「はい。もう一度いただいたこの信頼。裏切らない事を誓います。」


 過去は変えられない。許したところでその事実は存在し続ける。であるのならば、その過去を未来の歴史にしない事が今のメリンダに出来る約束だ。


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