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初陣 市街地戦


 美鬼。

 目の前のアリシアを一言で表現するのにこれほどしっくりくるものはないだろう。

「・・・・・・。」

 少し時が止まったような感じがする。言葉を失うというのはきっと、こういうことなのだろう。目の前の光景はアレクでも疑った。鮮血と野盗の着ていた、獣の毛で作られた服の毛が、フワフワ、と舞う中アリシアが立っていた。凛とした横顔には人に言葉を失わせるだけの力を持っていた。無数の死の上にスカイブルーの髪には、言葉にならない『美しさ』を持っていた。

「す、すごいな・・・。」

「言ったでしょう?この国一番であると。」

 それにしてもとアレクは思う。一騎当千なんて話を大きく見せつけるための後付け話だろうと思っていたのだが、アリシアなら本当に後ろの野盗たちまでも倒してしまいそうだ。

(あの兵士たちの安堵はこのためか…)

 確かにこんだけ強い人が4人もいれば心強い味方この上ないだろう。セバスとリズベル、アレクは一切、門の中から動くことなくアリシアが野盗たちを圧倒していく。瞬く間に半壊し敗走していく野盗たち。アリシアも追撃することなくこちらに気付き歩いてくる。リズベルも回復のためにアリシアに駆け寄ると呪文を唱え始める。

「お見事でしたアリシア様。次は、後ろでお休みください。」

「いえ、大丈夫です。一太刀も受けていませんので。」

 リズベルの回復も少し体力を回復をするくらいだったらしく早々に終わっていた。

「しかしすごいな。自警団ってのはみんなこんなに強いのか。」

 アリシアに話しかけながら目線は自然とリズベルに動く。もしそうだとしたらアレクの心掛けは無駄になるだろう。3人ともアリシアに意思を組み込んでくれたようで。

「ハッハッ。そんなことはないですよ。アリシア様が特別お強いのですよ。」

「そうだよーアレクさん。私じゃ一対一でも無理だって。」

「そうですね。リズはあまり戦いには参加しませんので。」

 三者三様にアレクの問いかけにこたえてくれる。

(まぁでも、セバスは同じくらい強そうだけど)

 後ろの方にあと10人以上残っているがこの分ならアレクの出番なく終れそうだ。そんな、他力本願な考えでアレクの気は抜けていく。それ以上の安心感があったのか門の開閉をしていた兵士たち数名も門の近くにおり始めている。しかし、それだけではないようで兵士達が何人かこちらに向けて歩み寄ってくる。

「どうかしましたか?」

 誰よりも早くセバスが歩み寄ってきた兵士の話を聞く。

「なんですって!?」

 突然のセバスの大声に全員が驚く。全員の視線がセバスたちの会話へと向けられる。今まで話していなかったもう一人の兵士も話し始める。

「そ、それだけでなく正門の戦闘が始まったくらいから側門の野盗たちも兵を引き始めたと伝令がありました。」

 セバスが受けた説明を時系列を合わせて要約する。正門の戦闘が開始するころに側門に集まった野盗たちは早々に戦闘を止め停戦。ここから見える後方部隊も正門が開くと同時に後進を始めたらしい。

アリシア達は互いに顔を見合わせる。

 確かに変だ。50人クラスで野盗たちの襲撃なら、失敗に終わったとしたら大きな大損害だ。正面突破が無理だとわかったとしても側門に兵を集中させるなり、波状攻撃で正門突破作戦を考えるなり。どちらにしてもここでの撤退は愚策すぎる。などとアレクは、頭の中で考える。

「じゃあ、とりあえず大丈夫ってことだよね?」

「ええ。」

 アリシアとリズベルが嬉しそうに顔を緩めるなかセバスは馬から降りて兵士達から詳しく話を聞く。

「では、後方の集団が撤退を始めたのは正門が開いてから少し時間があったということですね?」

「はい、こちらの様子を眺めていたようで。」

「なるほど・・・。」

 聞き終わってからセバスと目線がぶつかる。その表情には僅かにだが怪訝な表情が見て取れる。

 やはり、野盗たちの動きは今考えなおしても変だった。さらに思い出してみると野盗たちの逃走には必死さがいまいち伝わってこなかった。その時、アレクの視界の中に一つの建物から黒い煙が上がっている。この状況、戦闘中ということを考えたうえでの煙ということは・・・

「どうしたんですか?セバス。アレクも?」

 アリシアとリズベルも浮かないセバスとアレクの表情が目に入り気になったのか近づいてくる。それをセバスは一早く制す。アリシアもリズベルもセバスの行動が訳のわからないような表情を浮かべる。

「セバスさん。あなたの考えはわかります。けど、俺じゃありません。」

 セバスを強く刺激しないようにゆっくりと話しながら右腕を持ち上げる。街の中一点、のろしと思わしき煙を。

「あれは?」

「多分、野盗の内部協力者だ。何かの合図だと思う。」

 反射的に走り出そうとするアリシアをセバスの手とアレクの「ただし。」と、言う言葉が静止させる。

「ただし・・・俺の勝手な予想で、さらに俺自身が協力者な可能性もある・・・。」

 アレクの発言に最も驚いたのはセバスだった。次に目を見開きこちらを見る兵士達。一方、


「だとしたら、どうしたんですか?」

「そうだよ、今は私たちの仲間でしょ?」


 無警戒というか純真というかアリシアもリズベルも一切アレクを疑う様子を見せない。しかし、そんな些細なことでアレクの心は救われる。

「そうだ。だから信じてほしい。」

「最初からそのつもりです。では、早く向かいましょう。」

 アリシアを先頭に門へと向かう。途中門の兵士に門を閉めておくように伝えておく。

「では、私とセバスは先に向かっていますのでリズとアレクは後から向かってきてください。」

 アリシアはセバスの馬の後ろに跨ると、アレクとリズベルを残して二人は走り去っていってしまった。

戦力的にかなり差があるだろ。と、思いつつアレクは近くにいた兵士に話しかける。

「アレクさん。なにやってるの!早くいくよ!」

リズベルからの目線と距離からではアレクが何をやっているのか全く分からなかったが何かを受け取っているようだ。ようやく追いついてきたアレクと共に商業通りの本通りを全力で走る。アレクも逆流する人がいなければ元気なもので常時リズベルの隣を並走して走る。

「ついたらもう終わってるかもな。」

「そうだね。お姉ちゃんとセバスだもんね。」

 その通りだ。あれだけの数の野盗たちをたった一人で倒したアリシアにそれに匹敵するセバスの二人組。もしその二人組でも勝てなかったらリズベルとアレクが行ったところで勝てる見込みなど無いだろう。そんな予想をしながらもアレクは既視感がぬぐい切れなかった。

 集合地点であった噴水を走り抜けると少し遠くの方で金属同士がぶつかり合う音が響いてくる。音のなる方へリズベルとアレクは走る。

 そこには三人くらいの男達と戦闘を行っているセバス。そして、

「お姉ちゃん!!」

 セバスのすぐ後ろでは片膝をついているアリシアの姿が見える。よく目を凝らしてみると足元には大きな血溜りを作っていてかなりの深手を負っているらしい。

 リズベルが一目散にアリシアに駆け寄っていく隣でアレクは走りながらも、懐にしまってあった魔導書を取り出す。魔導書を取り出すと片手で適当に魔導書を、割れ目に親指を入れ本の中の部分を地面に向けた状態で開く。腕はまっすぐセバスと対峙する野盗たちの一人。アレクとセバスから見て右側の斧を持った野盗へ、

「≪ファイヤー≫。」

 呪文を唱える。刹那、アレクの持つ魔導書が仄かに赤く発光する。本の周りに見ることはできない力が凝縮されたかと思うとそれは炎の塊へと姿を変える。それをアレクたちが知覚する前に炎の塊は矢より早く右側の野盗へと飛んでいく。

「ごばぁっ。」

 大きさにして直径50センチくらいの火球は見事アレクたちから見て右側の野盗に命中し、すぐ後ろにいたもう一人の刀を持った野盗を含め後方に吹き飛んでいく。一人残された野盗は三人でようやくセバスと拮抗した強さを保っていたらしく瞬殺と呼べる速さでセバスの持つ槍に貫かれる。

「≪リ・キュレーション≫。」

 リズベルの方もアレクにはわからない言語の詠唱の後、先ほどアレクに使った祈祷とは異なった呪文の祈祷を唱え終わりアリシアのお腹に開いた傷口をすでに治し終わっていた。

「ありがとうございます。アレク殿。魔法を使えたのですね。」

「ああ、さっきアリシアとリズに買ってもらってな。」

 依然として野盗立ちへの警戒を怠らずハルマたちに背を向けたままセバスがお礼を言う。適当に返しつつアレクもアリシアの側へと駆け寄る。

「大丈夫かアリシア?」

「ええ。すみませんアレク。私が油断しました。」

 リズベルの祈祷のおかげで傷が治ったアリシアは片膝をついた状態から立ち直すと心配させないようにか、今までと同じような笑顔で答える。しかし、油断したとはいえど、20人相手に一人で敗走させたアリシアに3人で勝てるとは思えない。近くを見渡してみると5、6人の野盗が転がっているがそんな人数でも難しいだろう。

「どうしますか、アリシア様。敵は先ほどの野盗たちは個人としても部隊としても連弩は段違いです。撤退しますか?。」

「戦います。それに、アレクたちも来ましたので。」

 アリシアは即決する。一度戦ってみてあの野盗たちの強さは身をもって一番知っているはずなのに。いきなり期待されてしまい、ちょっと不安になってしまったアレクはアリシアからの視線をふいにそらしてしまう。

「別に俺たちだけじゃないだろ側門の野盗が引いたならあの兵長さんたちだっているじゃないか。」

「いえ。それは無理でしょう。ここの街の衛兵はすべて今領主と共に王都に出兵中ですので残っていた兵士のほとんどは戦ったことのない門番ばかりです。つまり、現環境下で戦えるのは我々自警団のみです。」

 セバスの言葉がアレクの甘い考えを一蹴する。つまりあの時の兵士たちが見せた安堵の表情は自らよりも強い援軍に安心したから来る安堵の表情ではなく。自ら戦わなくて済んだと思ったから来た安どの表情なのだろう。

「(クソッ。わかってただろそんなこと!)」

 セバスの言葉にアレクは心の中で毒付く。

 もちろん、その門番達にも多少なりともムカつきはしたが戦えない者に戦いを強いるほど酷なことはしない。それ以上に魔導書を買ってもらったときに頼ってくれなどと豪語したくせに自信を無くし他人に頼ろうとした自分自身に腹が立つ。

「なら・・・。」

 どうする?。と、いう言葉をアレクは飲み込む。それはアレクの脳内での景色が変化する。自分を見ている自分のような視界。一度通ったかどうかも怪しいこの広場のから小さな川向うにいる敵の立ち位置まで正確にわかる。まるで、上空からこの戦場全体を見渡したような場景が浮かぶ。さらに、先ほどふっ飛ばした 野盗から一人一人の野盗の平均の強さを考える・・・

「・・・俺を信じてもらってもいいか?」

「それはどういう意味ですか?」

 セバスの言葉に先程までにはない重みがる。アリシアの瀕死の重傷を負ったからかアレクに対してもともと疑っていたからか、その言葉には初めて会った時に感じた慎重な戦士のような鋭い視線を感じる。それでもアレクは臆せずにアリシアに頭を下げる。

「頼む。上手く説明はできないけど勝算がある。」

「多分なんかで・・・。」

「それで、私たちは何をかければいいんですか?。」

 一切の傷による痛みを感じさせないように立ち上がり、セバスの言葉を遮る形でアリシアが会話に入ってくる。リズベルの呪文がすごいか定かではないがすごい精神力だとアレクは思う。

「命だ。俺も全てを賭ける。必ず勝つ。だから、信じてほしい。」

 アリシアと視線がぶつかる。互いの真意を見定めるように。何か言いかけたセバスも無言のままアリシアの決定に従うようだ。

「ふふっ。ではお願いしますね。」

 先に折れたのはアリシアだった。そう言って右手に持っていた剣を鞘に納める。

 ふぅ~。と、アレクも若干脱力する。この後に本番が待っているのに自然と緊張が抜けていく。

「それで、具体的に何をすればいいのですか?。」

 すでに声から圧が抜けたセバスの声が、背を向けたまま馬の上から声が飛んでくる。

「それは、今から言う場所に数字と文字をふるから覚えてほしい。」

「それだけでいいの?。」

「ああ、後は俺が指示する。」

「分かりました。では行きましょうか。」

 アレクは広場にある出店や大きな店、橋のそれぞれにAからEまでの文字をあてはめつつ周囲1メートルづつに数字を付けてアリシア達に説明をする。

「どうだ、憶えられそうか?」

「大丈夫です。」

「私は、ちょっと厳しいかも・・・。」

「大丈夫だ。リズが一人で行動することはないその人と行動してくれ。」

「うん。分かった。」

「よし、行こうか。」

 目の前に広がるのは左側をすべて大きなひとつながりの建物により本通りから遮られている広場の一角。いくつかの出店が集まっており、隣接する出店の集まりとの間にいくつかの小道を作る構造の出店広場。野盗たちが集まっているのがその広場の左寄りで三つほどの出店がアレク達と一番奥の野盗たちとの間にある。また、一番奥の野盗は小川を隔てた向こうがわにいるため横幅三メートルほどの橋を渡る必要がある。

アレクが先頭に立ち、アリシア。少し離れた場所でセバスとリズベルが立つ。一方、対峙する敵は総数12人。すぐそば左側の建物とアレクが野盗を吹き飛ばしたときに半壊した出店との間に三人。少し離れた場所にある三つの出店が交差点を作るすぐ傍に弓、槍、少し重装備の斧を持った野盗が三人。橋の目の前に三人と、橋を越えたところに3人ずつ。3人一組で動くのがこいつらの基本なのであろう。

「行くぞ!。」

 その時、先程アレクの魔法で吹き飛ばした二人の野盗が瓦礫をどかし立ち上がろうとする。

「セバス。頼む!。」

 まだ完全に体勢を立ち直せていなかった野盗たちなどセバスには赤子の手をひねるかのように二人同時に腹部を槍が貫く。

 セバスが二人の野盗たちを槍で貫くのを見届ける前にアリシアとアレクは右側に崩れた出店。左側に店の間の通りへと走り出す。

 目の前には斧を持った野盗2人と槍を持った野盗の計3人が向かってくる。

 アレクはアリシアだけが聞こえるように話す。

「オレが一発入れるから戦闘のやつを頼む。」

「分かりました。残りは?。」

「一人は頼む。≪ファイヤ≫!。」

 アレクは左手で持った魔導書の真ん中あたりを親指で抑えつつ開いた状態で前に突き出す。文字が書かれている側を地面に向けたまま魔法を発動する。

 再び魔導書の前に力が集つまる。炎の塊へと変異し発射される。先程の魔法を見ていなかったのか野盗達の速度が若干緩む。火球は先頭を走っていた右側の野盗に当たり爆散する。直接当たりはしなかったものの二人の野盗達も突然、仲間の目の前で爆散した火球に驚き足が止まる。しかし、走り続けていたアリシア達は一気に距離を詰める。 

 火球が直撃した野盗が目を開くときには、アリシアがまじかに迫っており、抜刀した一撃で野盗の腹部に大きな一線、剣戟を入れる。

「ぐむぱっ。」

 口から血を吹き、腹の傷から大量の血をだしながら背中からあ倒れていく。アリシアは続けてアレクの方にいた槍を持った野盗へと飛び掛かる。アレクの魔法でよろけていたもののが何とか槍でアリシアの一撃を受け止める。

 その瞬間、一番後ろから来ていた野盗がタイミングを計ったかのようにアリシアの背中めがけて持っている斧を天高く振り上げて飛び掛かる。

「アリシア様!。」

「お姉ちゃん!。」

 二人の野盗を屠り後ろから追って来ていたセバスとリズベルが後ろから叫ぶがアリシアは一切振り返らない。

「うおぉぉぉぉぉ!。」

仲間を目の前で一撃で倒されれば当然心中穏やかではいられないだろう。斧を持った野盗は品性のかけらもない雄叫びを上げながら振り上げた斧を力任せに振り下ろす。


「悪いがお前の相手はこっちだ。」


 刹那、アリシアと飛び掛かる野盗との間にアレクが割り込む。すでに野盗の一撃は止まらない。その斧がハルマの頭頂部めがけて振り下ろされる。

 しかし、アレクはどこから出したのか右手に持った片手直剣で野盗の渾身の一撃を勢いを殺すことなく上手に受け流す。その一撃はかなりのものだったのか石畳に斧の刃先が食い込む。すかさずアレクは左手に持った魔導書を閉じた状態でその野盗の胸に強く押し当てる。

「≪ファイヤ≫。」

 野盗の胸の中。魔導書と体のほんの数ミリの隙間の中で火球が形成され始める。

「ごぶぁ。」

 斧から手が外れ野盗の体が宙に浮く。形成された火球は爆散することなく野盗の体を焼く。火球は野盗の体を一瞬覆いつくすが野盗の絶命、体が地面に着地した瞬間に蝋燭の火のように簡単に消える。

 一方、アリシアは野盗と拮抗していた力を一度解く。距離を取った槍を持った野盗はリーチを殺して槍の柄を短く持つことで速さと正確性を得る。けれど、一対一なら無情なまでの実力の差が両者の間にはある。野盗の突きもアリシアにあっさりよけられてアリシアの剣の錆へと変わる。

 野盗を倒したアレクは立ち上がるとセバス達に叫ぶ。

「Aの5へ!そのままC6へ!。」

 もともと決めてあった所定の場所へ移動するようにセバスとリズベルに指示を出す。セバスはすぐに理解したらしく半壊した出店の前を右に曲がりもう一つの小道へと入っていく。リズベルも少し遅れながらもしっかりついていく。

「アリシアすぐ行けるか?。」

「ええ、余裕です。」

 アレク達もセバスたちと半壊した出店によって遮られた道を進む。セバスたちのいる道に合流するように次のT字路を右折する。前方には交差点の近くにいた野盗の一人。刀を持った野盗がアリシア達の方に向けて走ってくる。後方には弓使い。それを守る形で重装備の斧持ちと槍持ちの二人がアリシア達の方を向いている。

「ビンゴ!。」

 アレクは小さくつぶやきつつ、ニヤリ。と、笑みを浮かべる。

 一番近い刀を持った野盗はもともと交差点にいたのではなく橋の近くからこちらに走ってきたのだ。アレクの予想道理に動いてくれたことにアレクは笑みを止められなかった。

「アリシア!三手で終わらすぞ!。」

「了解です!。」

 再びアレクは先ほどと同じように左手に持った魔導書を開いた状態で前に突き出す。しかし、何度も同じ手が通用するわけもなく後方にいた弓兵がアレクをとらえる。

「同じ手で何度もやられるかよ!。」

 アレクが魔法を発動するよりも早く弓兵の矢が放たれる。視界の隅にその光景を捉えたアレクは突き出した左手を引こうとするが拳と前腕の背側を弓がかすめ取る。

「くッ。」

 危うく痛みで魔導書を落としそうになるが何とか落とさずに済む。しかし、上げておくことができず、狙いもつけられない。魔法での攻撃をあきらめ右手に持つ片手直剣に意識を変える。

 向かってくる刀を持った野盗はすでに抜刀しており左腰辺りに両手持ちの姿勢で走ってくる。その姿勢は洗礼されておりやはりただの野盗ではないことを感じさせる。

 痛む左手を意識しないよう直剣を持つ右手に全神経を集中させる。

 剣士は下段から振り上げた刀を無駄な力を一切感じさせない身さばきでアレクの胸への水平な軌道に変えてくる。アレクは持っている剣を直接ぶつけようとはせず剣の腹で相手の刀の軌道に差し込む。

「ッ!?。」

 アレクの刀の剣をなぞるように軌道がずれていく。アレクの頭の上をぎりぎり通り抜けた刀は空を切る。相手の勢いも自分の勢いも殺すことなく二人は交差する。そのさなかアレクは剣士の腹部に一撃を入れる。しかし、剣の切れ味は悪く金属製の鎧に小さな溝を作ることしかかなわない。

「(くそッ。しっかり研いでおけよッ!。)」

 と、心の中で剣を借りた門の兵士に文句を言う。そのまま、アレクは一撃を入れた剣士には振り向きもせず、右手に持っていた剣を地面に落とし、左手でなんと持っていた魔導書を右手に持ち替える。

「甘いッ!。」

 武器を捨て敵に背を見せた。先程の一撃で仕留めたつもりになったのだろう。武器の手入れも行き届かないずぶの素人相手に一撃を貰ったのは恥だが勝てばいい。刀を持った野盗は切り込み空を切った勢いのまま体を反転しアレクの背中を捉える。                                 もう少し冷静でいられたら。いつものように周りを見る余裕があれば。しかし、野盗にとっても久しぶりの強者との対峙に気持ちが昂り視界が狭くなってしまった。複数同士の戦闘において一番重要なことは視野を広く持ち続けること。

「甘いのはあなたです。」

 野盗もようやくそのことを思い出すが時すでに遅い。

「うがぁッ。」

 言葉と共にアリシアの一突きが野盗の心臓を捉える。

 正面右側でアリシア、アレクと野盗たちの戦闘はどうやら終了したらしい。馬の上からセバスは、ちらりと、そちらの様子をうかがう。目の前には斧を持った重装備の野盗がセバスに対峙している。セバスは愛馬に乗っているためはるか後方にリズベルが走って追っている状態だ。

 野盗とセバスの間は10メートル近く離れているのだが、ある程度加速した馬の足をもってすれば一瞬で埋まる距離だ。さらに言ってしまえば野盗の重装備は互いに歩兵なら動作の遅さは気にならないほどであろうがセバスは馬に騎乗した騎兵。止まったでかい的を外すセバスではない。斧を振りかぶろうとするもセバスの槍は無情にも重装甲の胸部を貫く。

 右手を魔導書に持ち替えたアレクは視界の隅でセバスが重装備の野盗を一撃で仕留めるのを捉えた。

「セバス!リズ!B7へ。≪ファイヤ≫!。」

 セバスたちに移動の指示を出しつつ右手に持つ魔導書先ほどと同じように突き出し弓兵に向けて魔法を放つ。弓兵もそれに気付きアレクに向かって弓を射狼とするが先程の逆立場。矢を射るよりも早く弓兵は火球の餌食になる。しかし、今夏の火球は爆散することもなく弓兵を火だるまにすることもない。だが、

「リズ!今だ!。」

「蒼天の天泣(てんきゅう)。破天の驟雨(しゅうう)天より射れ≪ホーリーアロー≫。」

 かなり後方でリズベルの詠唱と共に弓兵の頭上に光が降る。それと共に空中に二重の黄色い魔法陣が形成される。その魔法陣はリズベルの詠唱が終わると共に魔法陣は輝きを増すと同時に、無数の光の矢が弓兵を襲う。

 火球を何とか耐えしのぎ自分に向かってくるセバスに向かって弓を構え、ようやく背中に背負った矢筒から矢を取り出した弓兵の手から一本の矢が地面に落ちる。

「うッ!。」

 何本もの光の矢が体を貫いたにもかかわらず一滴も血は流れておらず、傷みも引いた弓兵は目の前に迫ったセバスが視界に入る。目の前の弓兵の口元がわずかに緩んだように見えた。先程の重装備の野盗と同じように馬の上から弓兵も一撃で貫く。最後の槍を持った野盗もセバスの知らぬ間にアリシアがすでにとどめを刺していた。

セバスとリズベルと合流したとたんアレクの集中が途切れ右手持っていた魔導書も地面に落としてしまう。

「アレクさん大丈夫!?。」

 アレクに駆け寄るリズベルの二人をかばう形でセバスが前に出る。アリシアもアレクの落とした剣を持って駆け寄ってくる。橋の近くにいる二人の野盗は近づいてくる気配はない。

「ああ、大丈夫。ちょっと痛むけど。」

 はにかみながら右手で痛む左腕を抑えリズベルの問いに答える。リズベルも安心したように笑みを浮かべ詠唱を始める。

「・・・≪リ・キュレーション≫。」

 最初にハルマに使った祈祷ではなくアリシアに使ったものと同じものを使ってくれたようですぐに痛みが消え傷の欠片も無くなる。

「やっぱりすごいな。ありがとう、リズ。」                            「えへへ。」

 照れながらもリズベルは地面に落ちていた魔導書を拾い上げてアレクに手渡してくれる。アリシアとリズベルから魔導書と剣を受け取りつつ地面から膝を上げる。

「ここからはどうしますか?。」

「とりあえずはあちらの出かた待ちかな。最悪後退しつつって感じかな。」

 アリシアの問いに答えつつ橋の向こうを指さす。

 橋の向こう。大きな建物の近くにいた3人組の野盗がこちらに向けて歩みを進めてくる。そのうちの一人。真ん中を歩く野盗の服装は明らかにその他の野盗と比べて豪華だ。その取り巻きの二人もやはり今まで戦った野盗達とは服装も装備も異なっていた。

 

  目前に迫るは4人の野盗達とその首領。いわゆるここからが正念場というやつだ。



どうも片桐ハルマです。

この話まで読んでくれた方。お待たせしてすみません。楽しみにしていただけていれば幸いです。この話からのかたは是非とも始めから。

今回も途中で終わってしまいましたが、今週で切りの良いところまで書けると思いますのでよろしくお願いいたします。

では、最後まで読んでくれたことに心よりの感謝を。次の話もてにとっていただけることを心より願っております。では


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